「真壁くん、おかゆ作ってみたんだけど……。食べられる?」
蘭世は俊のアパートに来ていた。
いつもなら、二人きりで会う時は、公園で散歩など専ら外の方が多いのだが、
今日は愛する俊が風邪をひいてしまい、あわてて看病に来たというわけである。
キッチンでてきぱき(と言う形容からはちょっと遠いかもしれないが)
食事の仕度などしていると、近い将来の自分の姿を想像し、
不謹慎と思いつつも舞い上がってしまう。
「……ん。もらおうかな。」
俊は、額の濡れタオルを手に取り布団から起き上がる。
昨夜から下がらない熱のため、すっかりぬるくなってしまったそれをすかさず蘭世が受け取る。
「あったかくして、もうちょっと寝てなきゃね。
あっっ、上着ちゃんとはおって! はい。」
かわりにカーディガンを肩にかけられる。
「悪いな。」
「いいの! 好きでやってるんだもん!」
お盆には一人分の土鍋に炊いたおかゆとホットミルク。
「江藤家の定番なの。風邪ひいたときって胃も弱ってるでしょ?
だからおかゆは白かゆで味付けは薄め、その分牛乳で栄養補って……
ぐっすり眠ると、すぐ治っちゃうんだから。
(ふー、ふー……)はい、あーん。」
「ばっっ……! いいって自分で食うから……」
俊は蘭世の手からレンゲを奪おうとするが、
相手は熱いものを持っているので、うかつに手をだせない。
「やーん。病気の時ぐらい甘えていいのよ。ううん、甘えて欲しいの!」
「へ?」
不意に真剣な瞳になった蘭世に戸惑う俊。
「いつも私、真壁くんには守られてばかりじゃない?
だけど、私……こんな事しかできないから。恩返しなんて、大それた事考えてるわけじゃないけど、
でも、こんなときくらいすこしでも真壁くんの役に立ちたいの!」
目元にうっすら涙が浮かんでいる。相変わらずゆるい涙腺。
「……バーカ。」
おまえがそこにいるだけで俺は十分癒されてるんだよ。
……と口にするかわりにレンゲからおかゆをいただく。
心にまであたたかく染みていくような懐かしい味。
「……エヘ。」
ひとくち、ふたくち。まるで子供みたいだな。
むかし寝込んだ時も母親に口に運んでもらった気がする。
あのころと違って今は魔界人なのに、風邪ひとつ治せやしねえ……。
「でも、真壁くんが体調崩しちゃうって、珍しいね。」
「人をアホみたいに言うな」
江藤家定番のミルクは甘い。普段は甘いものは苦手なほうなのに、蜂蜜の甘味が自然に入ってくる。
「そういう意味じゃなくてー……。んもう。
ずっと、無理してたからかなあ。アルバイトとか。」
と、手のひらを俊の額にあて、改めて自分の額をあてる。
突然顔が近づき、うろたえてしまう。
いつもより胸の鼓動が早いのは熱のせい?
「でも、来たときより熱は下がってるみたい。
もうちょっと寝れば、良くなると思うんだけど……」
「そんなに寝てばかりいられねえよ」
きっと体中の血液が集中しているであろう顔を
大げさにそむけ答える。あまりこっちを見るなよ……
「ん、そうよね。じゃあ、ちょっと喋ってていい?」
そんな俊の様子に気づかず、いつもどおりの蘭世。
ちょっと足を崩すと、スカートからのぞく細い足首。
そんな無防備な仕草も「いつもどおり」。
こいつが鈍い方でよかった……
朝。目を覚ますと蘭世はちゃっかり俊の布団の中にいた。
病人のはずの俊の腕枕に身を任せて。
「……おはよう。」
「やだっっ! 私、寝ちゃってたの!? あのまま。」
俊が眠りについたころ家に帰ろうと思っていたのに……。
他愛もない話が続いて、眠りについた記憶はないのに、しっかりパジャマに着替えてまでいる。
「居眠りこき始めたから、『入るか?』って聞いたら、『うん〜〜〜』っていそいそ入ってきたんだよ。
しかも服のまま。大変だったぜ脱がせるの。」
「えええええっっ! やだあ!!」
畳には昨日の服が放ってあり、しかも下着まで……
「ご、ごめんなさいっ。 余計な仕事させちゃって……」
「いや、いい湯たんぽがわりになったぜ。それにいろいろと堪能させてもらったし……」
くっくっく……と笑う俊。耳まで赤くなってしまう。
『いろいろ』って何よう〜〜〜。身体を反転してみる。
もう、顔合わせられないよ〜〜〜。
「でも、昨日はサンキュ。助かった。」
と、俊は静かに後ろから蘭世の細い肩を抱き寄せた。
「え、あ……」
俊の身体からは昨日のような熱っぽさは消え、心地よい体温が背中から伝わってくる。
とくん、とくん……一定のリズムを刻む音。
肌と肌が触れ合うと安心するのは、相手の生きている証拠に触れる事ができるからかもしれない。
「真壁くん……」
身体を反転させようと試みるのだが、
俊の腕がしっかりと包み込んでいて、動きもままならない。
「……きっと……」
「え?」
「きっと、汗臭いと思うんだが……。…………て、いいか?」
「……あ、の……」
「もう、我慢できない」
返事する間もなく、唇がふさがれる。
そうでなくても、返事をする必要もなかった。
男物のパジャマは細身の蘭世の身体には大きすぎ、普通にしていても白い胸元が襟首からのぞいている。
そのボタンをはずしながら俊は蘭世の首筋に丹念に唇を這わせた。
「ん……っ」
ちょっと前まで病人だったのは俊のほうなのに、触れられたところから熱くなるのを感じる。
体中が俊を求めて震える。
ぎゅっとつぶっていた目を開けるとすぐ目の前に俊の顔があり、
少し赤い顔で優しく微笑んでから深く口付けた。
それだけで、とろけるような甘い感覚に堕ちてしまいそうになる。
やさしく髪を撫でながら俊の唇は、すでに蘭世の、実は豊かな胸に移動していた。
舌で転がし、時に吸い上げ……、中心の突起は
愛されながら固くなっていく。そして右手は……
「……あっ……」
最も敏感になっているところに触れられ、全身が震える。
身体を合わせたのはちょうど10回目。
すでに俊は蘭世の弱いところ・タイミングを把握していた。
しばらく指を遊ばせ、次は舌。
指をするりと受け入れるくらい蜜がこぼれてきた頃を見計らい、耳元で囁く。
「入って、いいか?」
「……確認……しないで……」
「……ん」
赤く高潮した頬にもう一度口付けたあと、俊は蘭世の中に入り込んだ。
受け入れてくれる彼女を壊さないよう、また、彼女のそこに負けないくらい
硬くなっている自分自身を急がせ過ぎないよう腰を動かしはじめる。
慎重に、そしてだんだんと大きく。
「あ……んあ……っっま……かべく……」
しがみついていないとどこかへ行ってしまいそう。
肩にまわす腕に力をこめるが、同時に力が抜けてしまう感覚に襲われてしまう。
「……ああああっっ……!」
「……っっ」
かわりに強く抱きしめながら、悲鳴にも似た蘭世の声を聞いた直後、
俊も我慢しきれずがくりと崩れ落ちた。