俊と蘭世は温泉宿の一室にいた。二人で迎える4回目のクリスマスイヴ。
いつもの江藤家でも俊のアパートでもよかったのだが、
たまには違う場所に行ってみたい、という主に蘭世の希望から。
もちろん俊も久しぶりに体の芯から疲れがほぐれるようで、今の環境を楽しんでいた。
「えへへー。どう!?真壁くんっ」
早速浴衣に着替えた蘭世が俊に向き直り、尋ねる。
「へえ。……浴衣って、元がどんなんでもそれなりに見えるもんだな」
「もーっっ! なにようっ。どーせどーせ、色っぽくないですー!!」
あかんべをしながら脱いだコートを片付ける。
髪をアップにしたせいで見える白いうなじにどうしても視線が向いてしまう。
「……そうでもないけど」
「へ?」
『かわいいよ』。の「か」を発音しようとしようとした瞬間。
「まあまあ、早速着替えたんですねえ! まあ、かわいい!
若いって、いいわねえー。スタイルがよくって!!」
がらりと襖を開けて、仲居が入ってくる。お茶のセットとポットを片手に。
「やーん、そうですかあ?? よく言われますー♪
あ、すみません。後はわたしが。」
すっかり気を良くした蘭世がセッティングを手伝いだす。
「あらま、すみませんねえ。まあまあ、お若いのにきちんとしてらっしゃること。
いいですねえ。お兄さん、かわいらしい彼女さんとご一緒で!!」
「……はあ」
「それじゃ、ごゆっくりどうぞー」
浴場の非難口の位置、テレビのつけ方などお約束の説明を一通りした後
仲居は出て行った。
「じゃ、真壁くん、さっそくお風呂入ってこよっか?」
「……ああ」
「? あれ? なんかもしかしてフキゲン?」
「……別に。 いくぞ」
仲居に自分の言うつもりだった台詞を奪われ、すっかり行き場のなくなった右手に
タオルを持ってずかずかと浴場へ向かう俊であった。
「ひゃー。くつろいじゃうねっ。お風呂もよかったし、料理もおいしかったしっっ」
食後のお茶を淹れ、俊にすすめる蘭世。すこし顔がピンク色なのは、
湯上りのせいではなく食前酒のビールのせい。
ほろ酔い気分で俊にぺったりとくっつく。
「そうだな」
都会から少し離れたところの宿なので、空には満天の星がきらめいている。
大きめな窓からみえる景色に二人は目を奪われていた。
最近雪が降ったらしく、まだ溶けずに残っているせいか、
外はあまりにも静かで……。
「……」
目を閉じる蘭世。せっけんの香りが俊を誘う。
俊は蘭世の頤に手をかけ、唇をよせた。
……その瞬間。
「あらあらー。きっちり食べてくださって。
どうでしたー!?お風呂。」
がらりと襖を開け、またもや仲居登場。
「〜〜〜〜〜っ」
「あ、ああ。ご、ちそうさまでしたー! お風呂も、いいお風呂でした!!」
ばっっ!と離れて、襟元を正しながら応える蘭世。
俊はといえば、一度とならず二度までもの妨害に、声も出ない。
「ね、ねえ? もう一回くらい入ってこようかって話してたところなのよね??」
「……ああ」
憮然として話をあわせるのみ。
「あらま。お邪魔しちゃったみたいですね♪
ところで、お風呂にもう一度入るなら、もうちょっと待ってからの方がよろしいと思いますよ。」
「え?」
食器を手際よく片付けながら続ける仲居。
「いえね、この辺、今日・明日と毎年花火大会があるんですよ。
この部屋だと、ちょうどその窓から見えるんです。
こんな田舎の花火だけど、結構好評なんですよ。」
「ごゆっくりー」
お約束の台詞を残して、仲居は去っていった。
「八時からだって。って、もう始まるね。……あ」
大きな音とともに、冬の空に花が咲く。
「うわあ……」
思わず窓を開けてしまう。冷たい空気が流れ込んできたが、
それすらも気にならないほど夢中で見入ってしまう。
しだれ桜にしかけ花火……小ぶりだったが情緒は夏のそれにも負けなかった。
「冬の方が空気が澄んでるからかなあ? なんか、すごく綺麗」
「そうだな」
後ろから腕を回す俊。細い肩が既に冷たくなっている事にも気づかず
見ている彼女を守るように。
窓に添えられた手を上から握ってみると、じかに寒気が当たっているそれは
あまりに冷たくて、他の箇所にも触れてみたい衝動に駆られる。
「あ。……ごめんね。開けっ放しで。冷えちゃったねー。お茶でもいれよっか」
と、窓を閉める蘭世。こちらを向こうとする動きを、腕の力を強くして留める。
「……真壁くん……?」
襟の合わせ目からするりと手を差し入れ、胸に触れる。
「ひゃあっっ」
びくんと肩が震え、鼓動が早くなるのが伝わってくる。
「……冷たい」
俊は蘭世のうなじに唇を寄せ、手をそのまま下へと引きおろした。
ゆるめに結んだ帯が抵抗なくほどけ、畳にぱさりと落ちる。
それに重なるように、崩れていく二人。
ついさっき洗ったばかりの、さらさらの肌どうしの触れ合いが心地よい。
子猫のじゃれあいのような愛撫。上になり下になり、
互いの体の至るところへ口付ける。
「仲居さんが、また、来ちゃったりして」
くすくすと笑う蘭世。
「まさか」
もう少し移動すれば布団が敷いてあるというのに、そのわずかな時間も
もどかしく、二人は畳の上で行為を続けていた。
少し冷たくなっていた畳が、二人の体温で温まっていく。それと同じ勢いで熱くなる吐息。
いつのまにか子猫ではなく男性の愛し方に変わっていた俊の指と舌に、蘭世は体中で反応していた。
「……あ……」
既に濡れた秘所への不意の侵入に、思わず声が漏れる。
俊は、けして抵抗しているわけではないそこから指を抜き、さらに舌で攻めたてた。
つかず離れずで中心を転がし、たまに奥まで探ってみる。
「は……あ、んっっ!!」
部屋には荒い吐息と花火の音だけ。
仕込みに時間がとられているのか、長めの間隔をあけて視線の端で続いている花火。
ふと、俊は動きを止め、蘭世を背中から抱き上げた。
細い手を、窓の桟にかけ、外を眺める格好にさせる。
「……?」
不安げに振り返る蘭世に口付け、下腹部に腕を回し腰を引き寄せ、
膝を立てさせる。
「せっかく花火あがってるんだし、堪能しなきゃな」
「え!?……あああっっ!」
覆い被さった格好のまま、後ろから俊が入り込んできた。
背中から、密着した俊の鼓動が伝わる。次の瞬間に腰を引き、また強く突く。
俊の息が耳にかかり、背中に震えが走る。
その震える箇所が見えているかのようになぞる舌。
逃げたくても、目の前は窓で、額を押し付けるしかできない。
「……だ、れかに……見られたら……っ」
やっとの思いで、声に出すが、押し寄せてくる特有の感覚の渦にまきこまれて
それ以上は続かなかった。
「かまわねえよ」
俊は小さく笑い、自分の動きとリズムを早めていく。
髪をまとめていたゴムが振動に耐え切れず、長い髪が広がる。
体中の力が抜けてしまった蘭世を強く抱き、俊もその後を追った。
あのまま寝てしまい、妙に早く目覚めてしまった二人は、
部屋についている小さな風呂に入っていた。
「温泉に来てるのに、なんでこのお風呂にはいってるんだろうねー」
蘭世は体の泡を流しながら笑う。きめ細かい肌の上を、丸い水滴が滑り落ちる。
「……まあ、いいんじゃねえの。つーか、その体じゃ入れねえだろ」
と、自分のつけた無数の痕を指差しながら笑う俊の体にも、
蘭世の所有の証がつけられていた。
二人は結局温泉にはこれ以上つからずに家路につくことになった。