夜中、最近浅い眠りの俊が、ふと侵入者の気配に気づき、ベッドから起き上がる。
目を凝らすと、腰まである長い髪の、細い線。

「……江藤……?」

ぴくんと反応して、こちらを振り返る。

「どうしたんだお前……。こんな時間に。」

問いかけには答えず、彼女は俊のベッドに近づく。
焦点の合わない目。
冷たい指を俊の腕から肩にかけてなぞらせ、頬に触れる。
そのまま、唇を寄せた。

「…………!?」

一瞬、その甘い舌の動きに引きずられる感覚。
……違う……今のこいつは……
俊はかろうじて残っていた理性だけを頼りに自分の腕に力をこめる。

「や……めろ……」

無理やり、途中で引き剥がされ、物足りなさげな表情。
そのまま、再び生気のない微笑を浮かべ、自ら寝着をとく。
はらり、と落ち、白い身体が目の慣れてきた闇に溶けきらず
くっきりとその輪郭を映し出す。

「…………!!」

思わず目をそらす。本当は見たくて見たくてたまらないのだけれど。
それを見透かしているかのように、彼女は音もなく毛布をとりさり、ベッドに昇った。
細い腕が俊の下腹部に伸びる。
気持ちとは裏腹に硬くなり始めていたそれを探しあて、抵抗なく口に含んだ。

「……あッ……!?」

初めての感覚に、全身が反応してしまう。
耳にかけていた髪がさらりと滑り落ち、俊の内腿に触れる。

『これは……江藤じゃない……。』

いわば、あの実が狂わせた、人形……
でも目を開けるとそれは紛れもなく、愛しい蘭世で……。
なまめかしい呼吸と共に上下する腰つき。
月明かりがそのラインを描き俊を魅了する。

『でも、駄目だ……!』

はかなく、誘惑に降伏宣言。
俊は蘭世の頭を掴み、自分のもとへ引き寄せた。
咽元に先が当たり一瞬咳き込むが、段々と形を変えてきているそれに
手を添えなおし、根元までいとおしそうに舐める。
全て知り尽くしているかのような舌遣い、口内の温度にたちまち昇りつめさせられてしまい、
俊はほどなく、溢れるほどの熱を一気に解放した。

「……は……っっ」

少し力のぬけたそれを口に含んだまま蘭世は
挑戦的な目でこちらを一瞥。
音を立ててそれを飲みほし、そのまま崩れ落ちた。

「……江藤!!」

肩を掴み抱き起こし、がくがくと前後に振る。

「…………あ、真、壁くん……??」

先刻とは全く違う、まっすぐな視線でこちらを見返す。
……のもつかの間。自分の姿に気づき腕で隠せるだけ隠し叫んだ。

「ひゃあ!? わたし、なんてカッコで……! しかも、なんで真壁くんの部屋にいるのお!?」
「……覚えてない……のか?」
「え」

……と。自分の口の中に残る苦いような酸っぱいような
不思議な味に気づく。

「……え? ……と……」
俊の腰のあたりに視線を落とす。何となく理解し頬に血が昇る。
俊は力任せに蘭世を抱き寄せた。

「……悪い……止めきれなかった……おれも、普通じゃないこと、判ってたけど……」
「…………!!」

大粒の涙があとからあとから零れ落ちる。

「……江藤……」
「だんだんわたし、おかしくなってく……! 真壁く……っ。わたし……!!」
「……落ち着け」

優しく背中を撫でてみるが、気休めにもならない。

「眠るのが、怖い! わたしがわたしじゃなくなっちゃう! 何をするか、自分でも判らない!!」

止まらない涙。俊はそれの一つ一つに唇を押し当てた。

「…………」

すがりつくような瞳と、静かだけれど強い瞳がぶつかる。

「助けて、真壁くん……。……今夜は……寝かせないで……」

再び、一筋滑り落ちた涙を指で受け、俊は蘭世を静かに横たえた。
長い長い、求め合う口付けのあと、俊は蘭世の全身にその対象を広げ、息をする間も
与えないほど激しく愛していった。
声を漏らし震える身体。
茂みに舌を這わせてみるとそこは既に濡れている。
小刻みな舌の動きに合わせて、指を組ませつないだ手に力がこもる。

「ふ……っう。真壁くん……!!」
「……まだ、これからだ……って」

俊は子供を抱えあげるように蘭世を抱き上げた。



脚を開かせ、一度自分の腰骨にかける。
露のしたたるそこが下腹部に密着する。生温くて生々しい。
力の抜けている腕を自分の背にしがみつかせ、
腿をもち思いっきり引き寄せる。

「……あ、ああ……っっっ!!!」

俊のそれが入り込んでくる感覚で我にかえる。
自分の重さで、さらにぐいぐいと奥まで入り込み、次第にそれは快感へと変わっていく……
なすがままになりしがみつく蘭世。
先刻の蘭世の行為で持久力が一段と増している俊は、一晩中蘭世を攻め続けた。
溢れるほどの愛情と自分への懺悔の念をこめて。





* * * * *


後日談:
「蘭世は?」
「外よ……ボーッとしている時間が、前より長くなったような気がするの……」

……そりゃそうでしょうとも。
一部始終を天上から見ていた彼らの遠い遠い先祖がこうつぶやいていたとかいないとか。