「一緒に、入るか。風呂。」
「え!?」
「いや、……一人ずつだと、冷めちまうだろ、湯船。
お前が後に入ると……いつもお湯足してねえみたいだし、
だからっておれより先に入れって言っても聞かねえし」
「…………っっ」
「だから、今日は二人で入るぞ」
ご存知のとおりボロアパートな俊の部屋には、脱衣所などというものはない。
風呂につながるキッチンに二人で立ち尽くす。
俊の突然の提案(というか強要というか)に、蘭世は耳まで真っ赤。
タオルと着替えをぎゅっと抱え立ちつくしている。
「…………」
俊はそれを見ないふりで、セーターと下着を一気に脱いだ。
「きゃっ」
蘭世が思わず顔を両手で覆う。腕から布の落ちる音。
「……馬鹿、そんなに反応されたらこっちまで恥ずかしくなるだろっっ! お先!」
タオルを拾い蘭世の顔にバサッとかけ、ジーンズを脱ぎ捨て
さっさと俊は風呂に向かった。
「〜〜〜そんなこと言われたって……」
赤い頬を押さえ、やっぱり立ち尽くしてしまう。
簡単にいうけど……お布団の中と違って……恥ずかしいんだから……。
「おいっ。まだかよっ」
「ひゃあ!?」
いきなり風呂場の戸が勢いよく開き、湯船の中から俊が言う。
「……なんだ、まだ着替えてねえのかよ、脱がしてほしいのかもしかして」
「〜〜〜〜!! 違いますおかまいなくっっ!!!」
半ばやけっぱちでシャツのボタンに手をかける。
髪をまとめ、タオルをぐるぐる巻きにしてドアを開ける。
「…………そんなに防御しなくても……」
「だ……だって……」
恥ずかしいんだってばっっ!!鈍すぎる っていうか、読んでよっっ!!
蘭世の心の叫びに気づかないのか無視しているのか
「……とりあえず、湯につかれば。おれ、頭洗うから」
ざばっと湯船から出る俊。
「う、うん……」
冷えた壁に顔がくっつきそうなほど身体を寄せて俊とすれ違う。
どきどきどきどきどきどき。
一気に心拍数が上がったのは
お風呂のお湯をいつもより熱めにしたからだけじゃなくて。
どきどきどきどきどきどき。
いつもは暗い中であまり見えない、実は男の人な彼の胸板が
なんだかまぶしいからだけじゃなくて。
「…………うるせえよ何とかしろよその心臓の音〜〜〜。
なんでそんなに緊張してんだよっっ。……見慣れてるじゃねえか」
「なな……慣れて、ません!!」
「そうかあ?」
頭から湯をかぶり豪快に洗い始める。
思った以上にがっちりした腕。わたしはあの腕にいつも抱かれてるんだ。
あの指でいつも………………〜〜〜〜ひいいい〜〜〜。
……はあ、のぼせちゃいそうだよう……
くってり。蘭世は湯船のふちにつっぷした。
「ほれ、終わったぞ」
再び湯船につかろうとする俊。
「ええええ!? 真壁くん、あがらないのお!?」
「ああ? いや、歯みがくし。浸かりながら」
気がつくと歯ブラシを片手。説明書きどおりおしりから押して
途切れずきれいに入った歯磨き粉の三本ラインが恨めしい。
………………。
「……冷えるだろうよ、おまえ……」
俊が歯を磨いている間、椅子に腰掛けタオルを押さえ座っているだけの蘭世。
「……真壁くん……意地悪だ……」
「ん?」
くちゅくちゅくちゅ、ぺっ。のんきに口をすすぎ
こちらをじっと不思議そうに見ている俊。
「わ、わたしが、すごくすっごく恥ずかしいの知ってるくせに
なんでそんな普通に身体洗えとか冷えるとか、
しかもなんだかずっとこっち見てるし!! こんな状況で
『はい、そうですか』な〜んてごしごし洗えません!!」
「ふうん……。じゃ、洗ってやろうか」
「へ!?」
「ほれ、耳押さえて目つぶれ」
洗面器にたっぷりのお湯を頭のてっぺんから流す。
「ひゃ……」
声を上げる間もなく、長い髪をまんべんなく濡らすために、もう一度。
「えっと……おまえが使ってるのって、こっちのシャンプーだよな」
手の上で軽くあわ立て、指の腹でそれを蘭世の肌に移していく。
しゃくしゃくしゃく。
湯船につかったまま、蘭世を抱きしめる格好でマッサージ。
……あれれ。
さっきまであんなにどきどきしていたのに、嘘みたいにおさまってしまった。
子供の頃に戻ったみたいね。お母さんに洗ってもらってた頃のこと思い出しちゃう。
誰かに髪を洗ってもらうのって、こんなに気持ちよかったっけ?
美容院で洗ってもらう気持ちよさとはちょっと違って……。
「……こっちは、やっぱこうやって洗うんだよな?」
髪を三分の一房とりわけ、手のひらでやさしく包み摺り合わせる。
「……ん。そう……」
俊の腕の位置を意識しながら頭を傾ける。
「大変だよなあ、ここまで長いと。おれなんか、わしゃわしゃっとやって流して終わりだぜ?」
あれれ?
眠く……ないのに……なんだか……
真壁くんの声が、とおいなあ……。
「乾かすのも、ドライヤー5分くらい使えば終わりだしな」
「……ん」
「乾いてからも、ムースやらワックスやら、
何かと面倒だよな、適当ってわけにいかねえだろうし。
……と。上、向け。流すぞ」
シャワーから出る湯の温度を自分の背中で確かめながら
俊は蘭世の顎に手をかけ、上を向かせる。
力が抜けた腕から、蘭世の身体を包んでいたタオルが
水を吸って重みを増し、勢いよくぺしゃんと床に落ちる。
「……あ」
「きゃ……」
「…………」
我に返りタオルを拾い上げようとする蘭世の腕より先に
俊の腕が伸び、それを湯船に隠す。
「まか……」
「……身体も、洗うだろ」
髪を流す熱いお湯がゆっくりと身体を流れていく。
理性とか羞恥心とか邪魔な感情も
それとともに排水溝へ流れていく気がする。
「……ん……」
蘭世は、のぼせているわけじゃないのに朦朧とした頭をこくんと傾けた。
俊は湯船から上がり、ボディソープを手のひらにむけてポンプを3回押す。
それを丹念に泡立て、壁を向いて座っている蘭世の背中に円を描く。
肩を揉むように挟み込み、腕へと手を滑らせる。
そのまま自分の胸に背中を受け止め、へその辺りから優しく
身体のラインをなぞるように泡立てていく。
余計な肉のついていないしなやかな曲線。
「……あ」
出しっぱなしのシャワーの水音で、吐息はかろうじて聞こえず安心していたのに。
小高い丘に到達して少し力がこもった指先に反応して思わず蘭世が声を漏らす。
それを誘っているのか、二つのふくらみを握るように揉みしだく。
俊の指の間から水分過剰な泡がとろりと垂れ落ちていくのが判るくらい
蘭世の感覚も敏感になり、それに比例して身体の力が入らなくなる。
自分の胸を包み込む、このまま心臓までわしづかみにされそうな大きい手に
その上から触れてみる。
「ん?」
「……ううん……」
「やらしいか? これ」
「…………。き……っと、わたしのほうが、いやらしい……」
自分自身の奥まった部分まで泡立てている指を追って
蘭世は俊の腕にもう片方の手を滑らせる。
「こっち……向くか?」
「……ん」
くるりと方向転換をし、俊の顔を見つめ、頬に手を添える。
「真……壁くんも、ちょっと、冷えちゃった……ね。髪も……」
「……そう、だな」
俊は蘭世の身体を引き寄せ、ともに頭から湯を浴びる。
泡が蘭世から俊の肌に伝わりゆっくりと落ちていく。
「……こっちも……」
シャワーの口を下に移動させ、泡が残ってしまっているそこに湯を当てる。
くぼみに指を這わせて丁寧に泡をなくしていく。
「……ああ……っっ。ま……かべく……」
握り締めた手と荒くなる呼吸。
上下する白い胸を見つめる俊がふと気づく。
「あ……れ」
「……な、あに……?」
「……いや、おまえこんなとこにほくろなんてあったっけ?」
白い胸元にひとつだけ浮かぶほくろを指差す。
暗めの明かりと、湯気のベールがとても淫靡にそれを演出する。
「……ん……どうだろ……。最近できた……かな……」
「ふうん」
俊はそれに唇を寄せ、強く吸う。即座に反応して一瞬蘭世の身体が反り返り
冷たい壁に背中が触れる。でも、寒気にも似た震えが走ったのはそのせいだけじゃなくて
その証拠に、泡を流したはずなのにとろんとした蕾。
「……や……ん」
言葉とは裏腹に、蘭世は俊の肩に腕を回す。
俊も蘭世の腰に腕を回し、一瞬持ち上げて椅子をとりはらい
湯のすこしたまった床に腰を下ろさせる。
「……あとで、ちゃんとスポンジで洗ってやるから」
「…………ん」
消え入りそうな声で、それでもちゃんと返事をする蘭世の唇に
唇を軽く重ね、俊は再び獣に変わる。