ぎゅっと抱きしめる、ただそれだけで
心が満たされていくのを感じながら
しばらくその背に回していた腕の力をそっと解いて俊は
ふと一瞬、名残惜しそうな顔をした蘭世の唇に、再び唇を寄せる
軽く啄ばむようなその動作を、自然にできるようになった自分に
何より自分自身が一番驚きながら
昔から、顔に張りついているかのように難なく使いこなすことのできる
ポーカーフェイスを保ち、
大切に抱えてきたその包みを取ってきて、蘭世の掌に置く
「……え」
「やるよ」
「ええっっ!」
驚きの悲鳴を上げたあと、一瞬複雑な表情を浮かべ
すぐさま蘭世は全ての事情を読み取る
──────なぜ、今日のこの日まで、逢うことができなかったのか
口にこそ出さなかったものの、少なからず、寂しいなと思ってしまったこと
八つ当たり気味に、夜、部屋で枕を壁にぶつけたりもしたこと
今日、部屋へと招いてくれたその瞬間
自分の誕生日を忘れていたわけじゃないんだ、とホッとしたこと
実際は、忘れるどころか、そのためだけに
「あ……りが、とう……」
ぐるぐると蘭世の心の中で渦巻く感情を読み取りながらも
むしろ、そんな可愛らしい悩みを抱えていたことが微笑ましく
また、それをおくびにも出さず、言葉の少ない自分を待っていてくれたことに感謝しながら
俊は蘭世の髪を優しく撫でる
「つけてやろうか」
「え……ホントにっっ!?」
今にも涙が零れ落ちそうな勢いで潤んでいた瞳が一気に輝く
現金なヤツ……と苦笑しつつも、打てば響くその反応が嬉しい
不器用な指先にとどめた二つの小さなパーツをなんとか操って、繋ぐ
抱きかかえるように首に回していた腕を避け
緊張した面持ちで微笑んだ蘭世の顔を覗き込み、その視線を少しずつ下へ滑らせる
決して嫌味には見えない程度に胸元を露出するキャミソールに重なった
赤い石と、その周りを取りまく細かな石が微妙な色合いの光を放つネックレス
「ど、どうでしょう……か」
「……似合う」
思わずするりと零れ落ちた本音
そう、それは
購入を決めた時に想像した姿、それをはるかに凌駕していて
それを身につけて微笑む顔を見るだけでも十分満足だというのに
ありがとう、の言葉を紡ごうとした唇を再び奪う
今度は、噛みつくように
漏れる吐息すらも逃れることを許さずに
腰に手を回し、もう一方の手でひらひらと纏わりつくキャミソールの裾を
ゆっくりと持ち上げる
蘭世からすれば、俊に会うそのためだけに気を抜かず選ぶ衣服であっても
今の俊にとっては、邪魔な布でしかないそれを
取り去ったらきっと、もっと
「…………え、あ……」
何をするのか、されるのか
それに気づかないほど、子供じゃない
失敗したものの、お酒の力を借りてそれを匂わす台詞を口にしたのは
つい先ほどのこと
折角の贈り物を何かの拍子でどこかにひっかけたりしたら、寂しい
そんな思いから、自ら手を回しネックレスを外そうとした蘭世の手を留めて
俊は蘭世の細い身体を床へと横たえる
「え? あの、これ」
「……いいから」
先を急いでいるとはいえ、蘭世の衣服は丁寧に扱うものの
やはり自分のTシャツは乱暴に脱ぎ捨てて
重ねた肌を擦り合わせるようにしてその存在を感じながら
スカートのファスナーを下ろす
時に身を捩じらせながら、一心に蘭世は俊の行為を受ける
効率よくことを運ぶ術など、未だ判らないけれど
巧みに、と呼ぶにはほど遠いけれど
俊の指先や舌の動きは、蘭世を、じっくりと確実に高みへと追いやって
何となく直感で伝わるそのタイミングを逃さずに
横たえていた身体を起こし、対面で、自分を跨いで座らせる
俊の下で、俊の動きを受ける姿勢よりも
俊の上で、俊の動きを受ける姿勢の方が
蘭世にとっては、禁忌的な感情が働くらしく
いつも以上に恥ずかしがることくらい、知っているけれど
何となく、自分の贈り物が
肌の上で揺れる姿よりも、宙で揺れる姿を見たかったのかもしれないし
単に、恥ずかしがる姿を愉しみたかったのかもしれない
相手の誕生日だというのに……そんな思念もふと頭をよぎったけれど
まあいいか、とある意味無責任に、隅へと追いやって
押さえた細い腰を逃さずに、先走り気味な自分自身に照準を定め
ゆっくりと、引き寄せる
「ん………ぅ」
「…………」
その入り口を抉じ開けて、文字どおり、ひとつになる
その瞬間の顔が好きだった
はじめての、その時よりも大分慣れた(馴らした)とはいえ
頬を紅潮させ、今にも泣きだしそうな瞳と、頼りなさげな顔をして
その侵入に怯えるように、小さく、くぐもった声を上げる
もう、泣かせない───そう決めたのは
哀しい涙を流す姿を見るのが辛いから
その筈なのに
本当は、泣き顔すらも愛おしくてたまらない自分に
俊は胸のうちで小さく苦笑する
こみあげる感情の渦にまかせて、突き上げる衝動
それに合わせて、長い髪と、赤い石が揺れる
点けっぱなしの蛍光灯に反射して
不規則に踊る光のダンス
白くなめらかな肌に、想像以上に映えた贈り物が放つ
眩しいほどのその光景は
瞬きをするのも惜しいくらいに
「ま……かべく……っっ。電気、消し……」
「え?」
俊の上でなすがまま、息も絶え絶えになりながら
指を組んで繋いだ手に力を込めて蘭世は訴える
「何で」
「なんでって……! あ、明るすぎて、恥ずかしい……」
「バーカ。見んのが恥ずかしいんだったら勝手に目え瞑ってろ」
「そ、そういう意味じゃ、なくってっっ……!」
この期に及んで自分の体を包み隠そうともがくその腕を
組み合わせた指を一寸足りとも逃さぬよう力を込めて
むしろ更に開かせる
『何が』恥ずかしいのか くらい、判ってはいるけれど
「……おれが、見てえんだよ
おまえ、ホント判ってねえのな。……今の自分がどんなにやらしいか」
「え!? ……ひゃっ」
つながったままゆっくりと体を起こし、俊は蘭世の乳房に唇を寄せ
きゅっと、吸う
意図せずに擦れた別の刺激が体中を襲い震えるのと、それは同時で
俊の舌の上で固く膨らんだ蕾も、より一層、張りを増す
「……反応良すぎ……」
「!! そ、んなこと、言わな……!」
『言葉攻め』とはよく言ったもので
俊の言葉に呼応するかのように、従うかのように
緩みゆく速度を確実に速めていく理性の糸
艶を増した声に誘われるまま、さらに奥へと俊は自分の分身を突き動かす
がっしりと均整の取れた筋肉に覆われた俊の腰を跨いで
その身を支える膝が震え出し、繋いだ指に力が篭る
倒れかかりそうに、くたりと揺れる蘭世の肩は
そこに達する寸前を指し示すサイン
縋るような響きを乗せた声に気づかないふりをして
俊は一気に体勢を変える
「……く」
今まで自分を見下ろさせていた細い身体を組み伏せ
繋いでいた手を自らの肩に添えさせる
ぺったりと溶け合うように触れた肌が心地よくて、思わず声が漏れる
曲げた膝に腕を掛け、もっと、深みを求めて進み、戻り、また進む
ほんの少し位置をずらしただけで、脳まで達するほどの刺激を感じるくらい
限界が近いのは自分も同じ
けれど、一度枷を外されたその欲求は
その身をとどまらせることなどできる筈もなく
狭い部屋に響き渡るほどの悲鳴にも似た声を聴きながら
俊も息を荒げながらその瞬間を迎える
蘭世の身体に重なるように崩れ落ち、胸元に頬を寄せると
浮き出た鎖骨のあたりに留まり、変わらずその輝きを保つ赤い石
ゆるゆると、吸い寄せられるように俊は、それに近づき唇をあて
再び蘭世の胸元に鼻先をうずめる