ようやく帰ってきたかと思ったらすぐさま服を着替え
大きめの荷物を片手に再び家を出て行こうとする愛良を
ココは玄関で懸命に引き止めた
「あれえ、言ってなかったっけ? あたしもユカちゃんとこお泊りにいくって」
「は!?」
「だって、折角うるさい二人がいないんだもん、あたしだってぱーっと羽のばしたいし」
「そ……んなこと言わないで、今夜は居てよ〜〜! だって……」
そう、今夜は
尊敬すべき伯父・伯母は、同窓会も兼ねて高校生の頃の友人たちと
一泊二日の温泉旅行へ行っているのであった
ココの父・母も、いつもなら我慢するところを
今日ばかりは久しぶりに人間界へと繰り出して来ているという
真壁家の保護者ふたりが出かけてしまった以上
家に残るは、卓、愛良、そして自分
そのうち愛良までもが出かけてしまったりしたら
「な〜に言ってんの! ふたりっきりでラブラブな夜を過ごすチャンスじゃない!
むしろ、感謝してほしいくらいだわよねっ」
「あ…愛良っっ! あんた…………!」
『ラブラブな夜』
言葉にすると軽く響いてしまうが、その意図するところを思うとなかなかに卑猥で
思わずココは赤面する
勝ち気なようでいて、実は純情な、未来の義姉
実の兄よりも彼女をいじるほうが面白いということに愛良が気付いたのは
つい最近のこと
「うふふふ───。大丈夫よ! おかあさん、ごはん、ちゃんと作ってってくれてるでしょ?
ふたりなかよく水入らずでそれ食べて、あとは心おきなくいちゃついてくださいな〜」
「ああああ愛良っっ!!」
「おにいちゃん、やさしくしてくれるといいねv いってきま──すv」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! ぜ……絶対おじさまに言いつけてやるから───!!」
そ、それは困るなあ……
──────でも、まあ、おにいちゃんが止めてくれるよねっっ
ココの、断末魔とも言えそうな金切り声を背中に聴きながら
愛良がぺろりと舌を出したことを
ココは知らない
「──────と、いうわけなのよ」
「…ふうん……」
「あ、ごはんの心配はいらないわよ
おばさまがちゃんと作ってくださってるから、チンするだけだし
……って、まあ、愛良がいたところで、ごはんの出来が変わるわけじゃないけど……
とりあえず、座って」
ようやく帰ってきたもう一人の住人の顔をあまり見ないようにして
努めて冷静に、ココは先刻までのやりとりを伝える
一度意識し始めてしまったら、あるいは
意識していることを知られてしまったら、きっと
いつもどおりに接することなどできなくなるに違いないから
「……あ、はあ……」
そんなココの努力を、知ってか知らずか
どんなに腹を空かせて帰ってきても、まずは風呂! な卓は
濡れた洗い髪をわしゃわしゃとタオルで擦るように拭きながら
妙にぎくしゃくとしてレンジと冷蔵庫とを行ったり来たりしているココの隣に立つ
その瞬間、ココの肩がびくっと音がするくらいに震える
「!! なななななな、何っっ!?」
「……いや……皿……とか箸とか」
「え……あ、だ、大丈夫だから! 座ってて!」
「? あ、ああ……」
「え……へ、へ……っっ」
わたしのバカ──────!
これじゃ、かえっておかしいじゃない!!
ようやくのことで席につき、ごはんをひとくち、おかずをひとくち
レンジで温めなおしたものだとはいえ、いつもどおりのおいしいごはんのはずが
今日のココには全くもって味が感じられない
──────愛良のバカ……変なこと言って行くから……!
やたらめったらぶっかけたソースの瓶を持つ手も心持ち震えぎみで
せん切りキャベツが浸るほどの茶色い海に目を白黒させながら
濃いめの味が好きな卓が差し出した手に
瓶を渡すべく伸ばした手の端が不意に触れて
「────────っっ!!!」
「うわっ!?」
光速に近い早業で引っ込められたココの手から滑り落ちた瓶を
卓はテーブルに落ちるすんでのところで受け止める
「……あっぶね………」
「あ……! ご、ごめ……!」
「いや、大丈夫だけど。……おまえさあ」
「ふえっっ!?」
冷静にまっすぐにこちらを見つめる卓の視線とぶつかり
手を避けた、不自然な姿勢で固まったままココは、思わず声が裏返る
その様子を一瞥して、卓はひとつ深いためいき
「──────おまえ、今日、ちょっと変だぞ」
「……何だってんだあいつは」
わしゃわしゃと泡の吹き出すスポンジを握り締めながら、卓はひとりごちる
結局あれ以降も終始ココはぎくしゃくしていて
あたりさわりのなさそうな話題をふってみても、なんだか返事は上の空
極めつけは、ほんのついさっきの態度だ
いつも自分の知らないうちにささっと後片付けを済ませる母も
いつも何もしないとはいえ居れば居たでちょっとは何かの足しになるであろう妹もここに居ない以上
自分が手を出せない食事の支度ならまだしも
自分でもそれなりにこなせそうな後片付けまで、ココに押し付けるのは忍びない
こっちは自分が引き受けるから、その間に風呂にでも入ってゆっくりしたらいい
──────その申し出には、それ以上も以下も、何ら他意はなかったというのに
『…………!!』
胸のあたりを抱え込むようにガードして、ずざざざっと
ものすごい勢いでココは後ずさった
「…………。信用ねえな、おれ……」
──────と、いうよりは
いつもは巧く隠しているつもりなのだが、やはりそこはかとなくにじみ出てしまっているのかもしれない
ふたりしかいないひとつ屋根の下、相手が風呂に入っているというのに
暢気に皿なんか洗っている場合じゃない、今の自分の心境が
家族の目が気になり、事を起こそうにも起こせないいつもの日常も
それはそれでツライのだが
気になる家族の目がなくなったとはいえ、何か事を起こせば起こしたで
こんな機会をギラギラと狙っていたとしか思われないであろう
(ついでにそれ以降の日々も警戒されながら過ごすことになるのであろう)今のような状況も
ある意味、拷問に近い
──────それに
「…………。さっさと、寝よ……」
──────愛良……てめえ、帰ってきたら絶対ぶん殴ってやる──────
半ば八つ当たりに近い思いを心の中で卓は呟く
「………変、なのは、わたしのほう?」
『──────おまえ、今日、ちょっと変だぞ』
極めて冷静に言い放たれた台詞を反芻しココはぼそりと呟く
そりゃ確かに、出かけ際の愛良の台詞が頭をぐるぐると回り
いつもは全く気にならない一挙一動にいちいち動揺してしまった自分が居ることは否めないけれど
ふたりしかいないひとつ屋根の下 そんな状況にドキドキすること
それはそんなにおかしいことだろうか
なにかあったら、どうしようと思う。けれど、嫌ではない
なにかあること、それを待ち望んでいると言うと語弊があるし表立っては言えないけれど
それでも、胸の奥の奥では、本当は
「………変、なのは、わたし……だけ?」
脱衣所にある洗面台の、大きな鏡に映った自分の姿を横目で見てみる
その手の平均値は、よく判らないけれど
白いか黒いかでいえば白い方に属するであろう、しみひとつない肌
きめ細やかさを示すように、水の珠がはじかれて落ちる
特に運動などはしていないが、適度に肉がつき適度に引き締まってそれなりの曲線を描く身体のライン
自慢できるのは、伸ばせと言われてからずっと気を入れて手入れをし
傷みもなく緩やかに波打ち揺れる金色の後ろ髪くらいだけれど
触れてほしいとか触れてみたいとか
「………卓は………?」
──────なにも、感じない?
髪を乾かしパジャマを羽織り、居間に戻ると
お、と気付いたように卓が、氷の入ったグラスを寄越す
ありがとう、と静かに受け取りこくこくと音を立てて飲み干す
ほどよく冷えた水は、湯上りで火照った身体をほどよく冷やしてくれるけれど
「………………」
「……じゃ、ちょっと早えけど……おれ、もう寝るから」
「…………っっ。た…………!」
ゆっくりとココの脇をすり抜けていこうとする卓の腕に、思わず反射的にココは手を伸ばす
「…………え」
「…………あ………! ご、ごめ………」
「や……いいけど。なんだよ」
「なんだよ って……」
不意につかまれた腕とココの顔とを交互に見比べる卓
顔を見る間よりも、腕を見る間のほうが明らかに長くて
ココは余分な肉の少ない頬に掌を添え、その目を自分の目へと向けさせる
「!」
心持ち赤く染まる頬。卓は小さくなにかをうめいてぎゅっと目を閉じる
「──────卓……こっち、見てよ……!」
「……よせ…………」
言葉とは裏腹に、頬に添えられた手の上から自分の手を重ねあわせ、強く握る
そんな卓の動作に気づくことはできず、ココは卓の口から発せられた言葉のまっすぐな意味しか理解できなくて
結果
その目からぽろぽろと涙がこぼれていく
「な!? ………泣くなよ…………」
「…………っっ。だって………!」
ぎょっとして力が緩んだ卓の手と頬の間から、力が抜けたココの手がするりと滑り落ちる
濡れた目元を押さえながらうつむき加減でココはようやく声を絞り出す
「……わたしって……そんなに魅力とか、ない………?」
「…………」
「こんな……卓とわたしのほかに誰もいない、ふたりきりだっていうのに
ドキドキするのは、わたしだけなの!? それっておかしいことなの!?」
「…………や、めろ…………」
「わたしはこんなに卓が好きで! 好きだから、ずっとドキドキして………
なのに卓はいつものとおり何も変わらなくて……!
ほんとは、好きなのはわたしだけっていうことなの……!?」
「………………っっ」
「!?」
目元を押さえていた両の手を捻り上げて広げ、壁に押しつけて
卓はココの唇を唇で塞ぐ
歯列をなぞるように舌先で容赦なく口内を探りながらじりじりと体全体を摺り寄せ
腕ばかりでなく背中も壁に押しつけられる格好となる
「──────ふ……っ」
ようやく唇を解放されて
堪え切れないゆるいため息と共に漏れた甘い声。ココは自分に驚く
薄く目を開くとすぐ目の前には、なぜか苦しそうな卓の表情
「……好き勝手なことばっか、言ってんじゃ、ねえよ………」
「……! だ、だって………」
「『だって』じゃねえ!」
「!!」
その剣幕にココは思わず身を震わせ、固くする
ちぢこまった肩に腕を回しぎゅっと抱きすくめて、その耳元で卓が呟く
「……歯止め、利かなくなる、だろ……」
「……そういう教育も、しっかり受けてきてんのかと思った」
「そ……ういう教育、って……!」
「──────や、姫様だけに」
かくんと足の力が抜けたココを抱き上げ、卓はその軽さに内心驚きながら自分の部屋へと運んだ
足の踏み場もないくらい散らかった中、唯一そこだけは十分なスペースを確保したベッドにその身を横たえ
普段のたたずまいよりもはるかに無防備なパジャマのボタンをひとつひとつ外していく
先刻までの、誘うような微妙な色あいの台詞とは異なり
ふと指先が肌に触れるそのたびに小さく肩を震わせる気弱な反応に、卓は密かに笑みをもらす
「姫様、って……──────あ」
「…………」
開かれたパジャマの合わせ目から零れ落ちた乳房を強く吸い上げられ
ココの唇は続く言葉を失う
一方を、膨らみの根元から押し上げるように揉みしだく乱暴な掌での愛撫と
もう一方を、その頂点のみすぼめた舌先と軽く立てた歯で導く丁寧な愛撫
その対称的な動きは巧みにココを追い込んでいく
「…………んっ…………!」
体中を走る震えに、ココは思わず身をよじる
それを許さず卓はココの頤に指をかけ、噛みつくようなキスを落とす
わずかの隙にTシャツを脱ぎ捨て素肌になった胸をぴったりと押しつけ
さりげなく滑らせた手で脚を大きく開かせてその間に割って入り、下腹部をその中心に擦りつける
つるりとした感覚に、ほんのりとそこが潤んできているのが見てとれて
卓は忍ばせた指先でつかず離れずゆっくりと先端の芽に触れ、周辺を撫で……を繰り返す
「……や………っ」
「………う、ん?」
「た、卓…………。わたしの体、おかし………い
なんの、魔力……使った……の………っっ」
「……魔力なんて勿体なくて使えるかよ」
時折、声を漏らしながらも、襲い掛かる快感の波に耐えていたココの背が
一瞬、海老のように反り返り、ぱたりと落ちたのは
芽を押さえたまま奥の内壁を広げるようにぐるりとなぞったその瞬間
指の付け根のあたりに、生温かい蜜がとろりと溢れ落ちる
「昔から親父にキツく言われてんだよ。大切なものは魔力でなく自分の手で扱えって」
「─────────っ、ぁ………!」
ゆるゆると、唇を落としながら卓は甘い香りを放つ蜜壷へと近づいていき
舌全体で包み込むようにその蜜を舐め取る
ほんのすこしの刺激で震える体と零れる蜜に、その瞬間を感じながら卓は
ココの開いた脚を肩に掛け、じっと我慢を続けていた我が身を埋めるべくゆっくりと動き出す
──────次の日
脳天気に温泉旅行の土産話をし土産をつまみながら、留守中の様子を尋ねる母の台詞に反応して
微妙な表情を浮かべる父と
いつになく饒舌になりしどろもどろな卓と
目に見えるほど真っ赤に頬を染めるココの姿を眺めながら
にやりと笑う愛良がいた