高校の頃の部活動の同窓会を兼ねてやってきた温泉旅行
久しぶりのフルメンバーでの再会ということもあり
夜を徹しかねないイキオイで盛大に催された宴の席で
普段と何ら変わらず促されるまま杯をあけ酌み交わしていた俊は
夫婦ごとに割りふられた部屋の襖を閉じた瞬間、おぼつかない足元となり
並んで部屋へと帰ってきた蘭世の肩に、心持ちもたれかかる格好となる

「あなた………。大丈夫?」
「………ん………」

心配ない、と示すかのようにこくこくと首を縦に振る
その反動と、着慣れない浴衣のせいで、ますます足元をよろよろさせているのが
申し訳ないけれどなんだかおかしい

「日野くん相手だと、あなたもつい飲みすぎちゃうのよね……すすめ上手だし」
「………そのくせ、あいつ、自分は飲まねえからな……」

宴の席順は、上座から宿(および宿泊代)の提供者・神谷力、アロン、俊、そして日野
下座が好きなのだという主張はもちろん大嘘で、まんまと隣をキープした日野に
あれやこれやとうまい言い回しで酒を足され飲まされている、さほど酒に強い方ではない夫の姿を
蘭世は、海の幸山の幸盛り沢山の膳をおいしくありがたくいただきながら
にこにこと眺めていた

「でも、今日はちょっと飲みすぎ……かな」
「………ああ……」

うめくように答えながら俊はそのままぺたりと畳に座り込む
蘭世は小さく苦笑して、部屋に備えられた水差しを手にする
カラン と部屋に響く、水に浮かんだ氷とガラスとがぶつかる音
冷たいグラスを片手に、蘭世も俊の隣に腰を下ろす

「はい、お水」
「………サンキュ……」

喉を鳴らしてそれを飲み干し俊は横になり、蘭世の、正座した脚の上に置いていた手を避け
その代わりに、とばかりに自分の頭を乗せる
俊の胸に添えられた掌から伝わってくる熱はいつもより高くて鼓動も心なしか速い

「ふふ」

膝の上から自分を見上げる火照った顔をうちわでぱたぱたと仰ぎながら窓の外を見やると
空にぽっかりと浮かんだ丸い月と満天の星と
庭に植えられた見事な枝ぶりの松
眼下に広がる海原が奏でる潮騒が、窓を閉じたこの部屋にも優しく届く

「綺麗、ね………」
「…………」

思わず口をついて出た蘭世の言葉に呼応するかのように
俊は突然、無言でむっくりと起き上がる

「ん?」
「…………お、まえ………の………が」
「え?」

もごもご口の中で呟きながら俊は蘭世の背に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる
首筋に軽くあてた後、ゆっくりと耳元へ移動した唇は
やっぱりもごもごと、他の誰にも聞こえないほどの声で続く言葉を囁く

泥酔するほど飲まれて(飲まされて)しまうのは身体のほうが心配だが
蘭世は、酔っているときの、いつもは口に出さないような甘い言葉を零す俊が嫌いではない
ようやっと、胸のうちの本音を明かしてくれるようにはなったけれど
それでも、褒め言葉は年に数回あればいいほう。その数回が、今のように酔い加減でのふいうち
酒の力を借りているにも関わらず、口にした後の顔は真っ赤で──────でも、そこが

「………あなたのほうが、かわいいわよ」
「………るせ……」
「あ」

いたずらっぽく微笑む蘭世の頬に熱い掌が伸びて
言い慣れない言葉を紡ぎだしたばかりの唇がその薄い唇に重なる
半開きの口元から差し入れられた舌は、その質感を楽しむかのように口内を這い回り、ゆるゆるとその舌に絡みつく
いつもよりもねっとりと蠢く舌先はいつもよりやわらかくて
軽くビールを二、三杯楽しんだだけの蘭世とは違い、専ら日本酒を勧められていた俊
ふたつの味がゆっくりと混じりあっていく
舌が触れ離れするごとに、頭の奥で響く水音
酒よりも酔いをもたらしそうなそれに意識をやりながら、少しずつ畳へと傾いていくふたつの身体

浴衣の合わせ目に指が伸び、しゅるりと衣擦れの音が胸元で響く
上唇から下唇、顎、喉元から首筋、項、鎖骨へとたどたどしく伝いながら俊の唇が降りていき
控えめに弾む膨らみの頂点に到達して落ち着く

「…………え……ぁ……」

──────大丈夫?
そう問いただそうとした蘭世の唇を、俊は指の腹で軽く押さえて封じる

「……これくらいの、余裕なら……ある……」

正確には、その欲望は無尽蔵
二人同じ時を重ねた分だけ幾度となく肌を重ねた筈なのに
その魅力は色あせることなく匂いたち、いつも俊を狂おしいほどに獣のような熱情の虜にして

「………ん………」

胸元でくちゅくちゅと吸いつき転がす動きに合わせてさわさわと揺れる髪を蘭世は撫でる
ふにふにとやわらかな感触を楽しみながら、空いたもう一方の指先は、蘭世の唇からいつのまにか内腿へと移り行き
合わせ目から忍び込み曲げさせた膝をそろりと開いて撫で上げ、戻る
ゆったりと、慈しむように続くリズム
少しずつ、その奥の扉を開こうとするかのように、ゆっくりと



…………



…………



…………あ……、れ?

静かな往復を繰り返した後、ふと脚のつけ根で掌が止まり、しばらく経って
そっと胸元を見やると、そこにあるのは、荒い吐息ではなく静かな規則正しい寝息
寝ている間も逃がさないとでもいうかのように、ふくらみに被せられた掌が、時たまぴくりと震える
唇はもう一方に吸いついたまま、不安定なバランスでその位置を保っていて

「……………ぶっ」

思わず蘭世は吹き出してしまう
二人の子供だって、眠りにつくときはどちらか一方しか占領していなかったというのに
目の前の(というか、上の)大人は、乳飲み児よりも強い独占欲を抱えているらしい

──────けれど

「このまま寝ちゃったら、身体、冷えちゃう……わよ、ね……」

上げ膳据え膳に加えて、いつでも眠りに就けるよう、きちんとしつらえられた寝床
そちらに移動すべく、とはいえその身体を運ぶことは蘭世の力では無理なので
揺り動かし、起こそうとして──────その背に触れ、とどめる
自分のそれとは全く異なり、鍛えられた筋肉の鎧に包まれた固い背中
静かに静かに撫でてみる

「……ふふっ」

緩む頬を押さえながら
もうちょっとだけ、このままで