「ちょっと………冷めちまったかなあ」
「!!」
ぼそりとつぶやきながら彬水が閉じたドアの音に異常なまでに反応して
愛良は心臓が跳ね上がったような錯覚を覚えた
「……そんな、立ってなくても………ほれ、座れば」
「ひゃあっっ」
シャワーの水栓をひねりながら彬水は、壁に向かって立ち尽くしたままの愛良の肩に手をやり風呂椅子に座らせる
その背後で、しばらく床に向かって流しながら調整をして
熱すぎず、冷たすぎず、絶妙な温度となった湯が愛良の手にかけられた
「湯加減は、こんな感じで?」
「う、あ、う、うんっ。ば、ば、ばっちりなん、ですけど……その、やっぱり自分で……」
「……指くわえて見てるだけのほうがよっぽど拷問チックなんですけど……」
「え? なになにっ」
「……や、なんでもない……自分の後始末は自分でつけるってハナシ……」
「後始末………っっ」
“匂い”よりタチが悪い言いぐさに脱力しつつ、心境はまさに“まな板の鯉”
ここまで来たら抵抗しても仕方がないし、何よりそれ以前の行為だって
相手が彬水だから全てを受け入れることができたのだ
だったら、そのおまけのような今の状況も甘んじて受け入れ………
……られないよう〜〜〜〜〜〜!!
愛良は恥ずかしさに身震いしながら拳をぎゅっと握り締めた
一方、彬水の心境はといえば
止せばよかった、かも…… このひと言に尽きる
少なくとも、愛良を風呂に入れようと思ったのは、狙ったわけではなく
それが礼儀だと思ったから(そしてまだ死にたくない)
とはいえ、下手に愛良をひとりで風呂に入らせたとして
自分が部屋でおとなしくそれを待ち続けていられたかというと、かなりの疑問
無理矢理突入するなんてことは、自分で自分が許せないし
そればかりか、変に我慢したうえでの突入となれば、反動で何をやらかすか判らない
まだ、それは避けたかった
欲に溺れた自分を見せるのだけは
だったら、むしろ自分も一緒に入ってしまったほうが
相手が目の前にいる分、ある意味自制が利くのではないかというのが
愛良が静かに寝息を立てている短い間にめまぐるしく考えたうえで得た、いささか強引過ぎる結論なのだが
間接的にどんどこ膨らむ妄想と
直接的に視覚に訴えかけてくる現物と
残念ながら、その威力はやはり大して変わりがなかったようで
どちらにしても駄目じゃねえか自分……。と、少しずつ“それ”は緩んでいく
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ」
邪念を追い払うように、ぶるぶるぶるっとかぶりを振って、力任せに石鹸を泡立てる
案の定、タオル相手では泡が立ちにくく、なんだか水っぽいものになってしまったけれど
そんなに強く擦るわけにもいかないだろうし、この程度でよいのかもしれない
「―――――あ」
腰の辺りに湯をかけると、愛良は垂らしていた髪を後ろ手でまとめた
ひとり暮らしの割にきちんと日用品を揃えている方ではあるけれど、流石に
髪を結うゴムやピン等までは範疇外だから
愛良は頭のてっぺんにまとめた髪を両手で押さえる姿勢のまま待つしかない
部屋の白色の蛍光灯とは異なり、オレンジ色がかったあたたかな光に照らされてもなお浮き立つ首筋
十分に健康的な魅力も備えたその白さに、彬水は素直に感心する
フラワーショップでのバイトと並行し、愛良の兄・卓が卒業した後も引き続きサッカー部のコーチを続けており
季節も昼夜も問わず陽の光の下で動いていたせいもあって、ほのかに浅黒い自分の肌と比べると、その差は一目瞭然
「……………」
白いタオルから移った白い泡がとろりと流れていく
擦る手の動きにあわせて背を反った拍子に、軽く後れ毛が揺れる
先刻、自分の下で猫のように這い、なすがままにその愛撫を受けていた愛良の首筋は
ほのかに甘いように思え、何度も何度も吸った
十分に味わった筈なのに、再び今もそれは匂いたつように彬水を誘う
湯に浸かったわけでもないのに、上気せたかのような感覚に陥る
出しっぱなしのシャワーの水音が、文字通りしゃわしゃわと響く
肩からざっと湯をかけ泡を流し、ゆっくりと倒れ込むように身をかがめその肩に額を寄せた
「ひゃあっ!?」
腰に回した腕に力がこもり、ぐん、と引き寄せられ、背に彬水の胸が密着する
何かを確かめるかのようにしばらく後ろ抱きのままじっとした後、深いため息をひとつ
「あ、あの、新庄さん……」
「…………悪い…………」
「は?」
「やっぱ無理。良過ぎ、おまえ………」
「え? あ………、んや……っっ」
髪を押さえていたせいで無防備だった胸を、大きなてのひらが掴む
すっぽり収まる頼りなさが恥ずかしくて、その手を除けようとするも、男の力に敵うはずもなく
髪を離し下がった肩から彬水の顔が更に近づき、耳朶を齧る
もう一方の手はするすると降りていき、小さな芽の先端を探し当て、優しく弾く
脚を閉じようと力を込めてみてもそんなことは無意味で、小さな声を上げながら愛良は仰け反る
「…………痛い?」
「……っい、痛くはな……ない、けど……あ、の………」
「そっか」
「……………っあ………」
彬水は安心して指先に意識を集中させる
いちど花開いたその感覚が導き出されるのは、さほど難しいことではなく
シャワーの湯のせいではない潤みが少しずつ顕著になっていく
不自然なまでに斜め後ろに回した顔にほのかに浮かぶ、救いを求めるような表情が愛しくて
その不安を吸い取ろうとでもいうかのように、唇を重ね合わせる
舌を絡め、唇で上唇、下唇をはみ離れて
頬から耳、首筋、肩に背、腰……唇で舌でわざと音を立て降りながら、腰を引き上げ膝立ちにさせる
ずるずると風呂椅子をよけ、その空いた位置へと彬水は身を進ませて
湯船に突っ伏し、突き出す姿勢になった尻肉を押し開き、ちゅくちゅくと繰る指の手前に舌を伸ばす
「ふ…………う、っん…………!」
細く窄ませたその舌は、確実に愛良の弱みを刺激して、少し高い声がもれる
逃れようとするのを許さず、丹念に掬い取るように触れるとそこは
ひくひくと一瞬震え、きゅっと締めつけてくる
彬水は満足げに舌を引き、肌の線に沿って這わせたまま真ん中を通りゆっくりと戻る
「や……っ……し、んじょう、さ………」
「え?」
潤んだ瞳をたたえつつも、非難めいた顔をして愛良が振り返る
「そ……んなとこ、ろまで、舐めちゃ、きたな……い……」
「…………」
「…………ふぁ………」
愛良の言葉には応えず、突っ張った膝裏から腿を撫で上げ、腰を辿り再び乳房へと進む
覆い被さるように身を重ね、てのひらに直接伝わってくる、いつもより早く打つ鼓動を感じながら
親指を曲げ、付け根に挟みこんだ乳首を関節でこりこりと弄り、挟む力を少し強め、勢いよく引くと
けして豊満とは言えない胸元がほのかに揺れる
湯船にしがみつく腕を解き、小さな手を包み込み上から指を絡め、耳の穴に舌を差し入れる
「……おれとしては、穴という穴片っ端から舐めまくりたい気分なんだけど」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」
「…………」
自ら覚える意識よりも、体はつくづく正直だと思う
くだけた腰を引きつけた瞬間、愛良の内股にしっかり立ち上がった彼が擦れ、跳ねる
その先端には、先を急ぐ欲求の証がほんのりと漏れ出していて、異常なまでに熱を帯びていた
ゆっくりと垂れる蜜が伝う指を、回しながら引き抜く
先刻の愛良の苦痛に満ちた表情と、注意したとしてもゼロとは言い切れない可能性に迷いながらも
堪え切れずふたつの身をひとつに繋ぐ
「………ん…………あ……ぅ、いっ……た………!」
「! や、やっぱり痛い、か!?」
「……っぅ……………う」
いちど貫通したとはいえ、その痛みは変わらずにやってきて
ぎゅっと瞑った目元から、涙の小さな粒が零れ落ちる
皮肉なことに、彬水の方はといえば、何もかも忘れて押し進みたくなるほどの欲望に一気に襲われていた
小柄な愛良の入り口は狭く、きっちりと迫ってくるその締りの良さに
即息切れしそうで、動こうにも動けないというのが本音のところなのだが
「い……たい、けど………し、新庄さぁん………」
「……っん……?」
体をねじらせ、被さった彬水の顔を確かめるように見る
そんな僅かな動きでさえも、ふたりに激痛と快感を与え
本来であればいたわる立場であるはずの彬水の方が、むしろ身を震わせる
「……………好き……」
「――――――」
不覚にも、涙が出そうになった
絡みつくように細い体を抱きしめ、頬と髪に唇を落とす
ゆっくり奥まで貫くと、その振動で長い髪がするりと落ち、すっかりぬるくなってしまった湯船に泳ぐ
腕の力を変えることなく、耳元でその答えを囁く
「おれも、好きだよ……」
「………あ………っ」
「……………」
愛良の表情を見ながら彬水は、少しずつ、その存在を記憶させるかのように動く
ときに周辺を広げるように角度を変えて、ゆっくりと押し、退いて
いくらそれを堪えてみても、体を走る震えは止まらず
予想以上に早くそのときはやって来る
「……ん……あ、あい、ら………っ…!」
「…ふ………………し、新庄さ………っあ」
「ぅあ………っや、やべ……………ぁ…………」
彬水は焦ってその身を退く
限界に近い状態で封じられていた反動もあってか、気を抜いた瞬間に
ぼたぼたぼた、と勢いよく零れ落ちたその白が
湯とともに、とろりと排水溝へ流れていくのが見えた
シャツのボタンに手を掛けた瞬間、ふと頭をよぎったのは
本当に、いいんだろうか
こんな気持ちだったのを覚えている
自分にとって彼女はいつの間にかひとりの女となっていて
まだしばらくは閉じておこうと決めていた扉を簡単に開いてしまった
ときに感心してしまうくらいによく回る唇から零れる声が
縋るような色を帯びた高めの声に変わり、自分の行為に応えるのが嬉しくて
“その瞬間”に考えていたのは、彼女のことだけ
そして今この瞬間においてもそれは同様で
彬水は、腕の中で腰を落としくったりとした愛良をぎゅっと抱きしめた