唐突ですが、貴方様は
『うれしいひなまつり』という曲の
明かりがすぐさま消え、花も枯れ、五人囃子も死に至り…という
踏んだりけったりな替え歌バージョンをご存知でしょうか





思い出してください

思い出しましたか?

思い出しましたね?



以下の話は、今思い出していただいた歌詞を頭の片隅にとどめたままお楽しみください















































あとは寝るだけの格好で、寝室のベッドにごろりと横になっていた俊のもとに
鼻歌まじりにやって来た蘭世の手には、紅茶のカップふたつと、なぜか桃の枝が二本あった

「……どうしたんだ、それ」
「ああ、これ? 今日の昼間、おとなりの奥さんにいただいたの。綺麗でしょう?
居間に飾ってたんだけど、多分あなた、全然目に入ってなかったでしょ?
だから、是非とも見てもらおうと、しつこく持ってきてみましたっ」
「あ……」

図星だった
別に、ぐったりと疲れていたわけではないが、帰ってから、食事、その後現在に至るまで
居間の花瓶になど特に目を向けることもなかったから

とはいえ、果たしてこれは
わざわざ寝室に持ち込んでまで見せるものなのだろうか───俊は、蘭世の意図をはかりかねる
ひゅるりと伸びる枝に、薄いピンク色の蕾。ところどころ花開いてもいるとはいえ
ぱっと目を引くほどの派手さも持ち合わせておらず
居間に飾られた花のうちで覚えているだけでも、かなり地味な部類に入るもののように思えた

「…………桜?」
「やぁだ……桃よ。ほら、今日は桃の節句じゃない?
あなたは男のひとだから、ピンと来ないかもしれないけど……」
「ああ……」
「…………」

なるほどね。思わず大きく頷いた俊の顔を、蘭世はじっと見つめた

「……なんだよ」
「うん……一応、訊いてみるんだけど………“桃の節句”って、何の日だかわかってる?」
「馬鹿にすんな。ひな祭りくらい、おれだって知ってる」
「そうお? えへへ。ごめんなさい
あ〜あ、うちは男の子……卓ひとりで、女の子はいないし……おひなさまなんてまだ縁がないわね」
「おまえは女だろ」
「そういう問題じゃないのっ」
「ふうん……」
「……うん、たまにはこういう、和なテイストもいいわよねっ」

じゃあどういう問題なんだか。口をついて出そうになった言葉を俊は、紅茶と一緒に飲み込む
運んできただけじゃ飽き足らず、枝の向きをちょこちょこといじりながら花を眺める蘭世の姿は
“女の子はいない”そんな言葉とは裏腹に、なんだかとても可愛らしく思える

「…………」

それを横目に見つつ俊は、むかし巷でよく耳にした歌を唐突に思い出した
(我ながら、よくそんなものを覚えていたものだ)
先を辿れば辿るほど物哀しくなる歌詞の一節を、ぼそりと口ずさんだ瞬間、蘭世はぶふっと吹き出す

「ちょっ……なに、それ!」
「なにって……。替え歌だよ、ひなまつりの。おまえ、知らねえの?」
「ええええええ〜〜〜〜〜……知らな〜い……。って、ちょっ……んぅ」

淡いひとときをぶち壊され、非難がましい台詞をもらそうとした唇を、有無を言わさず唇で塞ぎ
そのまま横抱きにしてベッドへと運んでいく





─────ぱちん



「……ほら、消えた」
「“ほら”って、なにが!?」
「いや、明かりが……」
「“消えちゃった”んじゃなくて“消した”んでしょ〜〜!」

腕の中、手足をばたつかせて蘭世がもがく
それに合わせてベッドがきしむのにも構わずに、パジャマのボタンをひとつひとつ外していく
はだけた肌からふわりと漂う花のような香りを、胸いっぱい吸い込む

「………(いちいち細けえ……)えっと、次は………」
「ひゃあっっ」

もはや自作のものとなった歌詞をぽそぽそと耳元で唱えるように呟くと
ゆっくりと降りていき、くねらせて避けようとする脚をおさえて鼻先を押し当てる

てんてんと舌先で飛び石しながら脚を登り、腰を辿り、薄い胸元に着地する
その先端を啄むように唇で挟みながら、もう一方のふくらみはてのひらで優しく包む
舌とてのひらが刻むリズムに合わせ、組んだ指先と、俊の背に回された腕に心持ち力が籠もる

「……………」
「─────うん?」

吐息混じりの声で蘭世が何か呟く
顔を上げると、上気した頬で蘭世は俊をじっと見ていた

「……ていうかっっ……その歌詞は間違ってる、絶対っっ! 
鼻じゃなくて“お花”! ももじゃなくて“桃”!」」
「……そうだっけ? んじゃ、続きは……」

──────突っ込みどころが、そことは。

別に、桃の節句とは関係ないと思うが
今夜の相手は意外に、いつもよりしぶとい

ぽよぽよとその感触を楽しむように触れていたのをやめ、その指先に籠める力を少しずつ強めていく
舌で昇って来たルートを、今度は指先でつかず離れずに触れながら降りて
脚の付け根で留まり、ゆっくり奥へと開拓を進める

「いや〜〜〜〜! ひとの話を聞いてな〜〜〜〜い!!
──────あ」
「ん?」
「…………………っっ」

ぷるぷるとかぶりを振る蘭世の唇を探し当て、ひとつキスを落とし俊は
満足げに微笑んだ

「……あとは忘れた。まあ、なんでもいいか……もう」




暗がりの中、桃色の吐息が花開く