はじめて肌を重ねたあの日以降、彬水は定期的に愛良を抱いた

箍が外れたというわけでもなく、無理強いするわけでもなく
その流れは、知らぬ間に降り出す雨のように自然で
触れる指先は、静かに優しく愛良を導く
内に秘めた熱情がどんなに激しいものであるかを示すように
行為が進むにつれ、優しいだけでは収まり切らなくなるのではあるが







「新庄、さん………」
「うん?」

丁寧に解いた愛良の服とは全く扱いを異にし、いかにも適当に脱いだジーンズを放り投げて
彬水は鼻先をうずめていた愛良の首筋から顔をあげた

「新庄さんは、こういうことするのって………好き?」
「…………」

その台詞の意図を一瞬量りかね、彬水は沈黙する
意味の取りようによっては、蕩け始めていると思い込んでいた表情も
今にも泣きそうなものに見えた

彬水は全ての動きを止め、すぐ隣に横たわり、長い髪をより分けて頭の下に腕を差し入れる
腕枕に重みを預け、すぐさま体を反転させ抱きついてきた愛良の髪を静かに撫でた

がっついていると思われないよう、それだけだと思われないよう
自分なりに期を置いてきたつもりなのだけれど
やはり、抑え切れない欲情だけが滲み出していたのだろうか
そんな自己嫌悪に似た鬱屈とした気持ちは、愛良の台詞によって瞬時に打ち消される

「あのね、あたしは好きなのっ。ちょっと恥ずかしいけど、嬉しいし、気持ちいいし!」
「………………………。そ、そう、か………」

男として、そんな台詞をもらえるのは光栄といえば光栄なのかもしれないが
そう正面きって言われてしまうと、どう反応したものやら
思わずつんのめりそうになったのを押さえつつ、きわめて平静を装いつつ
彬水はつるつるした髪を撫で続けた
身をかがめると、石鹸のような香りがかすかに漂う
それは自分を高揚させつつ、最も安らぎを与えてくれもする、不思議な香り

「でも、ねっ」
「………ん?」
「新庄さんは、どうなのかなって思ったの
だってあたしなんてまだまだ子供だし、ちんちくりんだし、つまんなくない?」
「ちんちく………」

そんな死語に近い言葉をどこで覚えてきたんだろうと密かにツボに嵌りつつ
今の状況、ツッコミどころはそこではないことを鑑み、彬水は慌てて口をつぐむ

「だから、その………あたしのため、だけに、こういうことしてくれてるんだったら
なんか申し訳ないな、って」
「………………」

声色は明るめの基調を保ってはいるけれど
背中に回された細い腕にきゅっと力が籠もるのが判った



無邪気な言葉が発せられるだけで
ふとした拍子に肌と肌が触れ合うだけで
目の前の男がどうなってしまうのかを知らない分、確かに愛良は子供に違いない

けれどその分析は、根本的な部分が間違っている



「あの、なあ………。まず、さっきの質問の答えだけどっ」

彬水はぴったりとくっついていた愛良の体をべりっと引き剥がし、まっすぐにその顔を見た
泣いてはいないようで、ひとまずほっとする

「好きです、だ・い・す・き! 常に準備万端! ……聞いてるか?」
「え、あ……し、新庄さ………」

思いがけない剣幕に、ぽかんと口を開けてしまった愛良の肩を彬水はがくがくと揺さぶる

なぜに改めてこんな主張を、しかも本人を目の前にして繰り広げなければならないのか──────
ため息をこぼしたいのは山々だが、今、確実に解いておかなければならない誤りが
この程度で解けるのであれば、安いものだ
 
「大体、ヤローの場合、出す出さないってだけなら自分ひとりでも充分なんだよ
……まあその辺の説明は、ここでは割愛するとして」
「?」
「とりあえず、そういうことが好きじゃなかったら、今、こんなカッコではいないわけ!
なんでそう……して“くれてる”とかどうとか……思ったんだ?」
「……う──────………
…………やさしい、から。そういうときも」
「は?」

微妙な表情でしばらく言いよどんだあと、ようやくつぶやかれた台詞に
今度こそ、彬水の動きは固まった
やさしい と言えば聞こえはいいが、それはある意味、もしかして、と
一瞬のうちに色々な雑念が頭をぐるぐるとよぎる
──────これを尋ねるのは、なかなか勇気が要ることではあるが

「……物足りない?」
「? ううん、そんなことないよ! だって、すっごい……嘘みたいに気持ちいいし!!」
「あ……そう………」

力いっぱいの否定に、なけなしのプライドは保たれたようで
ポーカーフェイスをたたえつつ、密かに胸をなでおろす
再び髪を撫でる余裕も出てきた

「でも……」
「でも?」
「……そういうときって、もっと……ガオ〜って感じなんじゃないかと思うの」
「ガオ〜って………」
「けど、新庄さんはそうじゃないから……じゃあ、そうならないのはなんでかなって」
「………………」

首をすくめながらのその台詞は
自分には全くかかわりのない言葉であるせいも手伝い
直前の“ちんちくりん”にその威力をかき消されてしまっていた単語を、一気に呼び起こした

──────つまんなくない?



「ったく…………。そういうことか」
「え? ひゃ……」

そう呻くように言うと彬水は、愛良もろとも体を反転させ、腕を掴んで馬乗りになった
ゆっくり身をかがめ唇を重ねると、それに合わせ、一人用のベッドはほのかに軋む

「──────は……」

唇を離したその瞬間、それまで止めていた息を一気に吐き出すのがなんだかおかしい
頭のてっぺんから体のラインに沿ってゆっくりと撫でつつ、力の抜けた指を口に含んだ
手持ち無沙汰になった手は、縋るように彬水の腰に触れる
折返し、肌を撫で上げる掌が胸元でとどまった瞬間、愛良の頬に赤みが差し
かすかに眉根を寄せつつ顔を逸らした

本人が嘆くほど、つまらない体ではないと思う
尤も、他の同年代のサンプルを知っているわけではないので、説得力に欠けるのかもしれないが

つややかな白い肌は、しっとりと吸い付くように彬水の身も心も惹きつける
許されるものなら常に傍において、見て、触れていたいくらいだというのに
高鳴る鼓動も震える吐息も、知らぬは本人ばかりで

「……残念ながら……」
「え………?」

それでも彬水はひたすら優しく愛良に触れる
頬に手を添えこちらを向かせ、唇を指先でなぞる

「基本ええかっこしいなもんで、スカしたままの自分に美を感じるんですが
ガオ〜っと襲い掛かるようなプレ……じゃなかった、シチュエーションをお望みなら善処するけど?」
「お……お望みっていうか、その………」
「………さっきも言ったとおり、こっちはこんな感じなんで」
「!! う、わ……」

五本とも全てくまなく舌を這わせた後もずっと握りっぱなしだった手を強く引き
“準備万端”のそこへ触れさせる
すっかり固くなり立ち上がった部位からその下位にかけ、包み込むように

「………おまえに」
「え」
「おまえに触ってるだけでこうなっちまうわけですよ。……どういう意味かぐらい、わかるよな?」
「……………っっ」

愛良はがくがくがくと首を上下に振る

なにも言葉を発することができなくとも、その羞恥心と同じくらい未知との遭遇への好奇心は強いようで
目を白黒させつつも細い指を放射状に辿らせる
そうでなくとも既に、充分なまでに自家発電済みだというのに
意図的であれどうであれ、その動きは危険極まりないのだが

「まあ、標準形態を見せたことねえし、どんだけ違うかわかんねえだろうけど………
…………ところで、あまりその周辺を刺激しないように」
「ひゃあっ! ごごごごめんなさいっ! ついっっ」
「……や、謝らなくていいけど」

冷静に考えてみれば、標準形態を見せまくっていたりしたらそれこそ犯罪だ
何言ってんだ自分……と舌を出しつつ、再び彬水は愛良の隣にごろりと転がる
とにかく、愛良の誤りを解くことができたなら、それでいいのだ
ちらりとそちらに目をやってみると、慌てて手を引っ込めた姿勢のまま愛良は
それまでそこに触れていた自分のてのひらと彬水の顔とを
なにやら物言いたげな表情で交互に眺めていた

「………なんだよ」
「え!? あ、う、ううん、なんでもないっっ!!」
「そんな顔でじろじろ見といて、“なんでもない”はねえだろっ
気になるから、言えって」
「……えぇ〜〜〜〜〜〜…………」

愛良はこの期に及んでもじもじと言いよどむ
とはいえ、自分だって相当恥ずかしいことを言ってきたのだ
決して無理強いが好きなわけではないが、逃してなるものかと彬水は愛良の腕をがしっと掴む

「あ、あのう…………」
「うん?」
「………その………新庄さん、の、〜〜〜〜〜〜の、標準って……?」
「………………」

愛良の台詞で自分の動きが固まるのは、今日これで何度目だろう
一瞬の沈黙ののち、彬水はがっくりと肩を落とした

「…………言いづらいことをあっさり訊くなあ、おまえ……」
「あっさりって! だって新庄さんが言えって言ったんじゃない!」
「ぐっ」
「…………」
「…………」

まんまと薮蛇をつき正論で返されながら苦し紛れに思いついたのは、我ながら最悪な例えだった

「……竹輪くらい? あ、5本袋売りのヤツとかじゃねえぞ」
「うえ!」

その生々しさに引き出された、心底嫌そうな表情も悪くはないと思ったけれど
おでんのおいしい季節を過ぎた後でよかったと思う