「愛良はほんとに、あなたのひざがお気にいりなのねぇ」
「え」
ソファに腰を下ろしかけたところ不意にかけられた言葉に、俊は思わず振り返り声の主の顔を見た
今しがたも、俊の膝に座りテレビを見ながらいつの間にか寝てしまっていた愛良を
部屋まで運び帰ってきたところだったから
確かに、晩御飯を食べ終えあとは寝るだけのゆったり過ごすこの時間帯、
自分の膝にはいつも小さな愛娘がちょこりと陣取っているような気がする
とは、いえ
「……おまえに抱っこされたくても、いつも何かしてるからだろ」
「そうかしら。わたしが暇なときでも、いつもあなたのひざで寝ちゃってるわよ」
「そうかねえ」
「そうですっ。……でも、いつも部屋まで運んであげちゃうと、くせになっちゃうからやめてね
ちゃんとひとりでお部屋まで行けるようにしないと。これもしつけの一環ですからっ」
「………はい…………」
いつになくつっかかってくるような剣幕に気おされつつ、出されたお茶をありがたくいただく
“しつけ”という単語を出されてしまうと、どうも強く出れなくなるのが正直なところ
子育ては夫婦二人で───そんな世間一般のセオリーを常に頭に置いてはいるものの
家を空ける時間帯が、自分のほうが多いのはまぎれもない事実で
その分子供を見ることができない自分と、その分子供を見ている蘭世と
気に留めることが多いのはどちらなのかは、一目瞭然なのだから
「でも、あれよね。あなたのひざなんて、筋肉ばかりで固いと思うんだけど……
愛良ってば、何がそんなに気に入ったのかしら」
「……………」
しおらしい俊の返事に気を良くしたのか、蘭世は一変して笑いながら俊の膝のあたりをまじまじと見る
それは俊自身思ってもいたことだった
全盛期よりは筋肉量が落ちているであろうとはいえ、日々それなりに鍛え続けているこの脚は
確実に座り心地が悪いはずなのに
自分が膝枕をされるのなら、まず間違いなく自分の脚より蘭世の脚を選ぶだろう
………まあ、それは明らかに目的が異なっているような気がするが
「……試してみるか」
「え! ………ぅええええええっ!?」
「……よっ………っと」
心の底からびっくりしたような声を上げるのを殊更無視して俊は
斜め前に座る蘭世の脇に手を差し入れ抱きかかえ、開いた膝に乗せる
眠った愛良を抱き上げるように、とまではいかなくとも
変な姿勢で持ち上げたわりに、意外に軽かったその手ごたえに驚く
「どうよ?」
「う……………。ど、どう、って、あの………か、固い……」
「………そのまんまだな、おい」
思わず俊は苦笑する
柔らかいと言われたら言われたで、少なからずショックを受けるに違いないのだが
「あ……でも、なんか、これはこれで新鮮かも」
にこにこと蘭世は俊の肩に重みを預ける
揺れた髪から花のような香りがふわりと漂った
その意味するところは、蘭世のそれと少し異なるものの
これはこれで、俊にとっても“新鮮”だった
どちらかというと、即、重なることのほうが多かったから
抱きかかえた時点では、別段、他意はなかったのだけれど
開襟のパジャマから覗く白い胸元が、心なしか艶を増したように思えて、俊は静かに唇を寄せる
「───────ぅ」
唇が触れた瞬間、蘭世の肩が震えた
けれどそれは決して拒絶の意ではなく、その証拠に、ゆっくりとその腕は俊の背に回されて
ぷちぷちとパジャマのボタンを外す、こんなときばかり器用な手の動きを妨げない程度の力で俊にしがみつく
たわむ乳房を絞るように掴みながら、もう一方に強く吸いついた俊の息は既に荒い
蘭世の尻は、固い膝から柔らかなソファのクッションへと下ろされ
手を添えられた背は少しずつ傾き、横たわった蘭世の上に俊は覆い被さる格好になる
唇のラインを指先で辿り口元を軽く開かせ、唇を重ねる
じっくりとねっとりと、文字どおり舐めるように舌を絡めて
ようやく唇を離すと、蘭世は一瞬ふっと息をつき
うっとりと俊を見上げながらしっとりとした指先を頬に伸ばした
その手を軽く握り、てのひらに唇を当てる
二人の子供が寝静まった今、このままここでもいいのだけれど
「…………………」
「……………あ………」
肌蹴たパジャマの合わせ目を直し、俊は蘭世を抱き上げる
そういえば、この抱き方をするのは蘭世に対してだけだなと思った
「あ、あの……わたし、自分、で」
「…………癖になってもいいぞ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ」
とっくに“しつけ”の済んでいる蘭世は、俊の腕の中、いろんな意味で赤面した
おまけ