昨夜は結局、あのまま寝てしまったらしい
カーテンの隙間から細く差し込む光が、カーペットをやさしく照らしていた
ベッドの脇に置かれた赤い目覚まし時計が示すのは、6時ちょっと過ぎ

夜中ずっと、足元のあたりへと避けられ、居心地悪そうにしていた薄い肌掛け布団が
今はすっぽりと肩までかけられていて
それでも足りないとでも言わんばかりに、長い腕で愛良を包み込み眠るそのひとの顔は
ちょうど愛良のおでこのあたり
もそもそと、起こさないよう気を張りながら顔をずらすと
静かに寝息を立てる、無防備な表情が見えた

くしゃくしゃに乱れた前髪と、険のとれた寝顔を目にする機会など
そう滅多にあるものではない
(といっても、後者に関しては。愛良の前でそれを見せることなど
最近は全くなくなってしまったのだが)
愛良はそのまま、じっと、じっと、じ─────っと、その姿を見つめた



かわいいなあ、と思う
六つも年上のひとなのに

──────六つも年上、そして男のひとだということを
心で体で、それこそ充分すぎるほど知っているからこそ尚更
そう思わされるのかもしれないけれど



「…………〜〜〜〜〜〜っっ…………」

一気にいろいろなことを思い出し、かあっと頭に血がのぼった
たとえば昨夜の荒い息とか、籠もるような声で耳元に何度も囁かれた自分の名とか、押さえつけられた腕の力とか
そのときの彬水は、男以外の何者でもない。いや、もちろんいつも“男”なのだけれど
もっと深い意味───本能的なもの、というか

それはすなわち、他でもない自分が彼に求められているということ
恥ずかしさと嬉しさとが複雑に入り混じった甘い感覚に
じたばたとのたうち回りたいところをすんででこらえる。だってまだきっと彬水は夢の中なのだから

けれども消そうと思えば思うほど増殖してゆくのが邪念というもので
ぐちゃぐちゃな頭の片隅で、愛良はとある噂を思い出した
世の男性陣の朝は、なにかと大変らしい
なにがって………

「………………」

首をめいっぱい伸ばし、ゆっくりと視線を落とす
確かにその辺一帯は、なんだか傾斜がきついような気がしなくもない

すやすやと眠るそのひとの腕のなか
ごくりと息を飲みこんだ音が、妙に大きく聞こえた
無駄に早く打ちつける心臓のあたりを押さえながら愛良は
噂の真相をその目で確かめるべく、包み込む腕から静かに逃れ布団に潜り込んだ





────潜り込んだのもつかの間

「…………なにしてんだ、おまえ…………」
「うえ!!」

頭上から低い声が響き、ぺろりと布団がはがされてしまった
漫画のようにびくりと肩が震え、愛良の全ての動きが固まる

「な……なにって、その」
「もうそんな時間か……って、まだ6時じゃねえか! もうちょっと寝てろ」
「う、あ───、う………」
「うん?」

目覚まし時計を片手に、自分のすぐとなり・愛良の横たわるべき場所をぽんぽんと叩きながら彬水は
なんだかぐずぐずとはっきりしない様子の愛良を見やる
なぜかその身は、彬水の下腹部辺りまで潜り込んでいた

目的の地(?)は、もう少し。ぺろりと布団をはがされたのは愛良の背中側だけだから
はがされた分はそこに重なってしまい、その形状はますます判りづらくなってしまった
愛想笑いを浮かべながら、愛良はそろそろと指を伸ばす
布団の、そのあたりに掛かる部分に触れた瞬間、彬水は再び問いただした

「……なんだよ」
「え? いや、そのう……朝、だよな───……って」
「朝?」
「…………エヘ」
「……………………」

その、微妙にひきつった笑みから、なんとなくではあるが彬水はその意図を理解した
そうはさせてなるものかと、腿で布団をぐっと押さえながら起き上がり
両手で、丸出しになった愛良の腰を捕まえる

「ひゃあっ!?」
「おれの寝起きを襲おうなんて、百万光年早い」
「いやあああああああんっっ」

そのまま膝の上へ細い体を引き寄せ、挟み込むように身をかがめて
昨夜たっぷり味わった背中へと、再び舌を這わせた
細く小さい愛良の体は、物理的にもまた違った意味でも、彬水の言うことをよく聞く
一瞬力が抜けたその隙を見計らってくるりとひっくり返し、仰向けになったその上へぴったりと身を重ねた

「──────あ」
「うん?」
「……やっぱり………」
「…………。冷静だな、オイ………」

その原因が“朝”だけでなくなるのは、もう少し経ってからのこと
満たされた好奇心に、心から満足したように微笑む愛良につられて苦笑しながら
彬水はゆっくりとその気楽な唇にキスを落としていった