「…………面白いか?」
「おもしろく、は、ないけど……あたしには、ついてないから……」
「…………………。そりゃ、そうだろうな………」
あぐらをかいた自分の右脚を枕に、うつ伏せになり
その中心をじいっと食い入るように見つめる愛良を眺めながら彬水は、
立てた左膝についた肘をごりごりと撚った
そりゃ確かに、隠す必要はないし、見てもいいと答えはしたけれど、
なにもそんな穴が空きそうなほど凝視しなくてもよさそうなものだろう。しかもこんな至近距離で(アリーナ席かよ!)
まんまるな目をして、笑っているような笑っていないようななんとも微妙すぎるその表情が
夢に出てきたらどうしてくれる
こちらとしてはとりあえず、見られているそれが本音丸出しになってしまう前に
もったいなくも放ったらかしにされているその暢気な尻にかみついて
あわよくばひっくり返してあれやこれやしまくってやりたいくらいだというのに
そんな心境などおかまいなしに、それこそかみつきそうな勢いでぱかっと開いた口が近付いてきて──────
「…………って、うわあ!?」
顔をうずめ、もがもがと。下手をすると奥の付け根まで咥え込まれてしまいそうなところを
すんでのところで引き剥がすと
“あれ”だか“はれ”だか、中途半端な声が愛良の口元から漏れた
「な、なにしてんだおまえっっ」
「え! な、なにって…………」
と、愛良はポッと頬を赤らめた
そんな表情もなかなか……じゃなくって! 判ったよ悪かったよ別におれは
その行為の何たるかを問いたかったわけじゃないんだよ
だから自分でやっといて自分で照れるのはやめてくれ
いずれにせよ、野放しにしておくのは危険すぎる。えいやっと気合い十分、両脇の下を引っ張り上げ
空いた膝の上に座らせた
どうやら愛良は、この姿勢───抱っこされるのがお好みらしい
反射的に彬水の首に腕を回し、ぺったりとくっついてくるさまはなんとも言えず
緩む頬を摺り寄せながら、腰を引き付け背を撫でる
その勢いに乗じて寝技に持ち込もうとした瞬間、耳元でおずおずと呟いた
「だって……その……。されっぱなしじゃ、ダメなんでしょ?」
「…………はあ?」
思わず顔を覗き込んでしまった彬水の意図も多分読み取らないまま、愛良は続けた
「相手にもよろこんでもらえるようなワザを鍛えないと、すぐ飽きられるって………」
「…………あ…………アホかっ………
まったく最近のガキは余計なことばっかり覚えやがって」
この場合の“よろこぶ”は
喜ぶ ではなく 悦ぶ なのだろう。文脈から言って
あくなき探求心のもと、自ら積極的にその手の知識を獲得しに行ったのか、それとも
友人たちの輪の中、この年代特有の異様なノリの集団心理の延長で炊きつけられたのか
いずれなのかは定かではないが
言うことは突拍子もないくせに、いつも大まじめなのが面白い。そしていつも見事に空回っているのも
とはいえ。なんやかんや言いつつ、その空回りっぷりにとりこになっている自分も相当なものなのだろう
そして、殊、今の状況においては、汗をかきそうになるのはそっちばかりではなく
「………大体、そんなことされたら即出ちまう………」
「え?」
「……なんでもねえ。まあとにかく、そういうのはほどよく様子見しとけって話だよ」
「え〜〜〜〜〜〜………」
「小出しにするのもワザのうちってもんだ」
ちょっぴり抗議的な顔をしたままの愛良の鼻の頭をちょん、とつついて
再びそのやわらかな肌を楽しむようにぎゅっと抱き、耳元で囁く
「──────」
「…………うん!」
ぎゅぎゅっと抱き返してきた愛良の表情に改めて目をやらなくとも
満面の笑みであることはわかった
「…………して欲しくなったら、そのとき言うから」
時間にすれば実質、ほんの数秒間
けれどもそれは、その感触と表情とがくせになりそうな自分を知るには十分すぎるほどだった