特に何をするわけでもなく、肩を抱いたまましばらくじっとしていた俊が
ふと、顔を覗き込む
「…………ちょっと、待ってろ」
「え?」
と、言うが早いか、蘭世を置いて彼はすっと立ち上がる
そのまま部屋の隅へ向かい、押し入れの引き戸に手を掛けた
「あ、あの…………?」
「………………。布団を…………」
「!! あ、ああ!」
なんだか、見てはいけないものを見てしまったような気がして
蘭世は慌ててそちらに背を向ける
当然というかなんというか、この部屋には、ベッドなどという
ある意味気の利いた代物は配置されていない
必要に応じて布団を上げ下ろす生活をしている彼の部屋に足を踏み入れたとき
そこに布団は出されていなかった
が故に。そのためだけに彼はいま、布団を抱えたわけなのであるが
それはなんだか妙に生々しく感じた
けれどそれを望んだのは、他の誰でもない、自分だ
畳に布団を下ろし、押し入れを閉じる音を聞き
再び蘭世はそちらを振り返る
その瞬間にばっちり目が合った、ぎょっとした顔の俊をよそに、そちらへ歩み寄り
白いシーツの隅に手を掛けた
「な…………っっ」
「……って……手伝う……」
「……そ……そう、か……。じゃあ……」
布団を挟んで向かい合い、シーツの皺をぺしぺしと伸ばす
なんともいえない気まずい空気が、部屋を包み込んだ
沈黙に落ちたら、終わる そんな気がして蘭世は必死で話題を探した
けれど、これからのことなど口にできよう筈もないし
全く関係のない話を口にするというのも、その空々しさがかえって辛く感じられ
結局、無言のままひたすらその作業に没頭した
「………………」
結果、布団は妙にぴっちりと丁寧に敷かれ
そのほぼ中央に、俊は静かに腰を下ろす
シーツの端を、しつこいほど折り込み続ける蘭世をじっと見ながら
小さく息をついたその気配に、蘭世の動きが止まる
日に焼けた畳と、洗いざらしの白いシーツの色の対比が、やけに目に付く
腰を下ろしたそのすぐ目の前を差す俊の指に促されるまま、蘭世は
その白に、そっと足を踏み入れた
絡め取るような長い長いキスでぼうっとぼやけた視界にも
シャツを脱いだその逞しい身体は、ぱっと映えて見えた
くしゃくしゃのまま適当に放り投げ、首筋に唇を押し当てる
荒く、熱い息がかかり、蘭世は思わず身を捩った
ひけた腰を押さえつつ、引き出したブラウスの裾からするりと指先を忍ばせる
腰から胸にかけてのラインを確かめるかのようにしばらくなぞり続けて
たまりかねたように胸元のボタンに手を掛けた
「………………」
「………………」
「………………」
「………………?」
長い沈黙と、戸惑うような気配に、閉じていた目をうっすらと開くと
小さなボタン相手に格闘する俊の姿があった
ふと目が合った瞬間、みるみるうちに彼の頬が赤く染まるのが判る
「わ……悪い……。手が」
「あ…………」
手元がもたついているのは、遺憾なく発揮される持ち前の不器用さからだけではなく
かすかにその指先が震えているせい
じっと手元を見つめる蘭世の視線に、俊は自嘲気味に笑った
その仕草に蘭世は、状況はまったく違えどあの日の彼の言葉を思い出す
「わ、わかりづれえな、その……女の服、って」
「………………な」
「……え?」
「な……っな、慣れろ。…………なんちゃって……」
「………………」
見返した俊の唖然とした表情に、口にした端から蘭世は後悔した
あまりの恥ずかしさに、泣きそうになる
そんな心境を慮ってなのかどうなのか、ふと俊はその表情を綻ばせた
「…………そうだな……。全部、おれのだし、な」
「う……。うんっっ」
がくがくと蘭世は、首振り人形のように頷く
全部、自分のものなのだと言われたとき、とてもどきどきした
けれど、自分が全部彼のものなのだと言われることは、それ以上にどきどきする
ようやく衣服を取り去り、静かに横たえさせた身体を眺めながら俊は
よくも今の今まで自分は、一線を踏み越えるのを我慢できたものだと思った
ゆっくり身を重ねると、艶やかな肌はしっとりと俊の重みを受け止める
近づきたかった甘い香りに吸い寄せられるように、俊はその首筋に唇を這わせた
控えめながらも、着やせするタイプなのだということに
胸のふくらみを包み込んでみて初めて気づく
中心をこりこりと弾くと、くすぐったそうに息をもらした
その吐息に妙に興奮しつつ、もう一方を噛み付くようにして吸い上げる
「…………んっ……」
今まで聞いたことのないような頼りない声をあげながら蘭世は
俊の背に回した腕に力を込める
脇腹から腿にかけゆっくり撫で上げると、細い身体をますます震わせながら
しがみつくように、腕の力を強めた
まだ、核心にはほとんど触れてすらいない状態だというのに
それだけで充分に変化してしまう彼女が、なんだかとてもいとおしく思える
───じゃあ、こっちは?
「!!」
脚を割り、軽く指先でそこに触れた瞬間、目に見えて大きく震えるのが判った
「…………なに」
「なに、って…………っあ」
文意上、問いかけの言葉ではあっても、別に返答を求めているわけではない
表情ひとつ変えず俊は、指の腹を上下に擦り続けた
「だ……だめ! 出ちゃう……っっ」
「…………なにが」
「なにがって……こ、声が…………!」
「ああ」
さも、意外とでもいうような表情をして俊は蘭世を見返す
その直後、いたずらっぽくニッと笑った
「…………おれはてっきり、こっちのことかと……」
「! んああっ………!!」
それまで表面だけを触れていた指先を、つるりと奥へ侵入させる
ついで、もう一本。節を曲げ、くいっと探るように動かした
「……あ、もう…………」
「い、い、いじわる…………っっ。ふあ…………!」
くねらせる腰を押さえ込み、ついでに、一度解放した表の蕾も再び親指で擦る
一気に襲い掛かる初めての感覚に、蘭世は仰け反り、シーツを掴みながら抵抗した
いつのまにか脚と脚の間に埋められていた俊の顔。それまでの指の動きは滑らかな舌が継いで
かわりにその指は、力の抜け始めた脚をめいっぱいまで開き、押さえつける
恐ろしく甘い、けれど一方、深い闇に堕とすかのようなその導きに溺れながら
必死に蘭世は俊の名を呼んだ
「や……っやあ………! ま、真壁く………ん、んう!!」
「(…………あ)」
くたりと体中の力が抜けるのを、触れる脚から感じとれた
のそのそと這い戻りそっと額の汗を拭うと、蘭世は逆方向へ顔をそらし、さらに顔を手で覆い隠す
「……どうした?」
「ど、どうも……しません……っっ」
「ふうん……」
一呼吸おいて、俊は蘭世の両の手を優しく掴み、顔から離す
出てきた表情に顔をほころばせながら、改めてその意思を確認するかのように
深く唇を重ね合わせた
「焦らねえようには……するつもりだけど」
「…………ん……」
「ヤバそうだったら、言え、な。絶対」
「うん…………」
こくんと頷くのを見やり、俊は長い髪を撫でる
そして、曲げた膝裏に腕を掛け、中心にあてがった自分自身を
その中へと沈めていった
「…………っい………っっ……!」
めりめりと押し広げられるそこから脳天まで届くような、声も出なくなる痛みに
蘭世の顔が歪む
一方俊は、きつく締め上げるそのあたたかさに、早くも腰が砕けそうになっていた
きわめてゆっくりと進むものの、気を抜くと我を忘れてしまいそうになるその感覚は
容赦なく俊を襲い続ける
「……っあ、あ、………ああ……っっ!」
突いて引く、俊の反復に沿うように響くその声が、ますます彼を駆り立てる
詰めていた息と声がもれるのも構わず、ひたすらに“それ以上”を求めて動いた
頬に手を添え唇を重ね、貪るように舌を走らせ口腔を荒らす
ほどなく、頭の奥でなにかが弾けるような音がして
慌てて引き抜いたとほぼ同じタイミングで
蘭世の腹に、ぼたぼたと勢いよく白濁がこぼれ落ちた
そろそろと、腹のあたりをなぞるような動きにようやく目を覚ますと
開いた脚の間に座り込んでいた俊はすぐさまそれに気づき
妙に慌てて手元の箱をさっと隠した
「……い、一応、しっかり拭いた……つもりだけど」
「へ? ……あ、ああ……っっ」
何を、と示す勇気も問いただす勇気も、流石になかった
きまりが悪そうな顔をして俊は頭をかき、蘭世のとなりに這い戻る
「風呂も……もう少しで沸く、から」
「……ん…………」
「ん?」
くるりと身体を反転させ、蘭世は俊の胸に飛び込むように抱きついた
また、あのほわりとしたあたたかさが俊に伝わってくる
───もしかしたら、もしかしなくとも、それは“伝わってきたもの”ではないのかもしれない
満たされている今の自分を、何より彼自身がいちばん気づいているから
とはいえ
「……あ、でも! お風呂は、真壁くんが先に入って、ね?」
「…………いや……おれはちょっと、その……後始末、を」
「へ? あ……そ、そそそそう、だねっ! じゃあ、よ、よろしくお願い……しマス」
「………………」
耳まで真っ赤に染めながらこちらを見上げ、まっすぐ覗き込むその表情に
満たされても満たされても、まだ望んでしまうものもあるのだということを
改めて思い知らされる
彼女が風呂に入っている間に自分がすべきなのは、後始末なのか、それとも
次に備えての準備なのか、ぐるぐると考えながら俊は
さらりと揺れる長い髪に指先を遊ばせた
end