Misty

癒しのためと称して始まったはずの触れ合いは、すぐさまその趣きを変えた

あからさまに焦点をずらした、触れるか触れないか曖昧な力加減の指先に漂われていたら、もっといろんなところを奥まで触れられたくなる。触れられたらどうなるか、或いはどうなりたいのかを知ってしまっているのだから
どうしようもない疼きを目で訴えたのを軽くいなされ、強請る口元は唇で塞がれ……そうやって限界までさんざん焦らしておきながら、やっと触れたかと思えばとことん追い詰めてくるのだからたまらない。自分の腰の動きが、くねる指の動きから逃げているのか追っているのか自分でも分からなくなり、声は身体以上に濡れそぼってゆく
それでも、肌を点々と辿り下りていく卓の唇が、どこへ向かおうとしているのかを感じ取った瞬間、ココは必死でそれをとどめた

「……ま、まって!」
「ん?」

なんとか脚を閉じようとするのを押さえながら、卓は若干不満げな顔でこちらを見た

「…………っ。な、舐めるのは……ちょっと」
「は? 何言ってんだ、ここまでできあがっておいておあずけとか」
「そ、そうじゃなくて……シャワー浴びてないから汚いし、匂いとか……! あ!!」

そんな抵抗などものともせず、卓の顔がココの脚の間に埋まる。卓の言葉を借りれば『できあがった』箇所を生温い舌でねっとりと舐め上げられ、文字どおり腰が砕けてしまったように体中の力が抜けた。その一瞬の隙をつき、腿を肩にかける形で腰を抱えられ、身を捩ることすらできなくなる

「……や、いや! お願い、やめ……、っん……!!」

押し開いた肉壁を刮ぎ取るように舐めてみたり、吸いあげてみたり。ぴちゃぴちゃと水っぽい音が部屋に遠慮なしに響くたび、脳にまで痺れが走る。シーツを掴んでみてもなんの防御にもならず、されるがまま、いいように、確実に追い詰められていることだけは分かった

「結構なお手前で」
「ちょっ……。や、あっ、あ、~~~~~~っ!」

そう言って茶化すように笑ったのを、咎める余力は一瞬で消えた。熱を帯びほのかに膨らんだ突端を舌で押しつぶしながら、すぐ下の孔から挿し入れた指の腹で奥部の形を確かめるように擦られ、眩暈がする。ひくつき始めた腰を撫でながら、ピンポイントで丁寧に刺激され続けるのは、細切れに喘ぐことしかできないくらい気持ちよくて、とうとう勢いよく溢れた蜜が、卓の顎をつたって落ちていった
それを合図にしたかのように卓は、肩にかけていた脚の拘束を緩め、ココに覆いかぶさる。宮棚から取り出した小箱から避妊具をひとつ、ぺりぺりと片手で器用に開封し、屹立した卓自身に被せると、Mの字に開いたココの脚の付け根、しとどに濡れた真ん中にあてがった

「た、卓……! ちょっと……もうちょっと、まって」
「待たせるの好きだな……焦らすとかそういうの、いまはいいから」
「焦らすとかじゃなくって……」
「さっきだって、待てとかやだとか言ってたけど、結果よかっただろ」
「そ……」
「ココのいいところ、もっと知りたい」

それは確かにそうなのだがそういうことではない。息をつく間もなく高みへと何度も突き上げられるのは怖いという意味であって、他意なく純粋に小憩させて欲しいだけ。なのに、赤子をあやすようにいなされ、指と指を絡め合わせながらにこにこと微笑まれてしまうと、頑なに抗うほどの理由も気概も失くなってしまい───

「───あ、ぁあ……っ! は……っや、ぁ……」
「うわ。……ヤバ」

入念に設えられた潤みにまかせて入り込んだそれは、容赦なく打ちつける卓の腰の動きに合わせ、ココの中で行きつ戻りつを繰り返し、内壁を押し広げながら奥へと進んでいく。呻くように呟いた卓の吐いた息もまた、ひどく熱を帯びていた
もっと知りたいと言われても、今となってはどこがどうと分析できるほどの判断能力などとっくに失われている。どこを弄られても・どこに当たっても気持ちよすぎて、正気を保てているのが不思議なくらいだ。あるいは保てていると思っているのは自分だけで、そうでもないのかもしれない。ほんの少しでも理性が残っていたら、こんな、獣のようにただただ肉欲を満たすためだけになりつつある営みに興じていられない……はず。なのに、卓とふたりでいると、気がつけばこんなふうにどっぷりと沼にはまったように互いを求め合って───というか、いつからか……多分、こちらの部屋に居を構えてからはずっとこんな、精も根も尽き果てるような働きかけが増えたような気がしている

最初は、他の家族の目を気にしなくてよくなったから、スキンシップが増えたのかなくらいにしか思っていなかったのだけれど、明らかに違う。特に、すこし長めに魔界に滞在してからこちらに戻った日の夜は。有り体にいえば、そういうことを求められる回数やら濃度やらが、日に日に増してきている気がする。今日に至っては、まだ陽が高いうちからそんな流れを迎えていた
それ自体は嫌ではない。そういうときにしか見せない荒い息遣いや、逃れられないくらいきつく掴み上げる力加減など、体裁を繕う余裕もないくらい、自分という存在が求められているのは、正直言ってうれしい。だからこそココだってすぐさま燃え上ってしまうのだから
けれど、そうさせてしまっている原因はひとつではないのだろうと思うと、意識が霧散するその瞬間でさえも、ココの胸にはほんの少しの罪悪感が漂う

『もう大丈夫、こっちで頑張れる』そう言うのは簡単だけど、まだまだ甘ったれの自分は本当に大丈夫なのか。言ってしまったら最後、後戻りはできなくなる。それでも卓のことだから、いつでも行きたいときに行ったらいいと言ってはくれるだろう。だとしても、自ら宣言したことについて弱音を吐くような真似はできない。だって、万が一卓に愛想を尽かされたりしたら。そんなプレッシャーだけが変に強くなっていって、結局こちらからは何も触れられないまま現在に至っていた。でも、今日は。今日こそは───

「ずっと……したかった。すげえ、気持ちいい……ココ……」
「───んぅ、…………っ」

だんだんと他に何も考えられなくなりつつある中、それでも途切れ途切れに続いていた思念は、卓の言葉で完全に断ち切られた
こくこくと頷く返事すら待ちきれないと言わんばかりに、卓はココの唇に唇を押し当てる。ねじ込まれた舌は口腔内を抉るように蠢き、腰の激しい抽送は次第に、余韻をじっくりと味わうような緩やかなものとなる。どの辺りにそれが漂っているのか分かる、そのことがココの内から更なる官能を引きずり出す

「……、こっちも……」
「───ぁ……! あ、あっ……、あ!」

と、ココの体を反転させ、卓は一度引き抜いたそれを再び、今度は後ろから入れ込む。四つん這いにした腰に添えていた手をココの胸に伸ばし、抱きすくめるようにして、腰を突き当てるたびに揺れる乳房を弄んだ。鷲掴みにされた指の間でつんと立ち上がった乳嘴を捻られ、ココはひときわ高い嬌声をあげた。腕の力が抜け、体を支えきれなくなり自然と尻を突き出す姿勢になったところで、卓の指先がココの肌を滑り、油断していた雛尖をくるくると撫ぜる。ココの腰が、受け止めきれない快感に支配されたかのように勝手に動き、卓の動きとほんの少しずれが生じて、『途中』で不意打ちに擦れるのが、卓にとっても悶えるほどの刺激に繋がってゆく。それに捕まりきらないよう、ぶるぶると頭を振り、卓はココの耳元に唇を寄せた

「コ……ココ、ごめん。おれ……も、いきそ、う……」
「……ぅ、ん……」
「…………っ……!」

繋がれる箇所はすべて繋いでいたいということなのか、あるいはしがみついていたいということなのか、組み合わせた指に、痛いほど力がこめられた。きしむベッドの音に紛れてしまうほどのくぐもった声に、ココは頷く。───あやまらなくていいのに。それを確認したうえで最後の足掻きとばかりに打ち付けた一瞬のちに卓の身体が大きく震え、ココもろとも崩れ落ちた。ぐったりと脱力しぼんやりとしていく意識の端で、ぎりぎりまで脈動していたそれがココの中からゆっくりと引き抜かれていくのが感じ取れた








「むこうで、こういうことしなかったの」
「こういうことって……え?」

卓はココのすぐ横にごろりと寝転がり、汗で額にはりついたココの前髪を整えながら、なんでもないことのように切り出した
それまでの荒れた呼吸が落ち着くまで待ってからのことだとはいえ、それでも唐突に投げかけられたそんな疑問に、ココは理解がまったく追いつかなかった。『こういうこと』───つい先刻までしていた・されていたようなことを、魔界にいる間にしていなかったかどうかの確認。それはつまり

「それって……あの……。もしかして、何か疑ってる?」
「いや、浮気とかじゃなくて……自分で」
「自分で? ど、どういうこと!?」

いわゆる不貞を疑われたのかと思いきや、そういうわけではないらしい。が、それはそれでやはりココの理解の範疇を超えていた。『自分で』なにをどうするというのか
いやおれも良くは知らないけど多分さっきみたいな感じで と、卓はココの指を引き寄せ、まだ敏感な感度を保ったままの秘所を弾いた。その瞬間、いろんな意味で戦慄し、ココは慌ててその手をふりほどく。『自分で』。その手法についてはとりあえず理解した。が、理由についてはおいそれとは承服しかねる

「だ、だって……卓がいるのになんでそんな、自分で……なんて」
「……あー……。それは光栄というか、微妙な……」

卓は微妙という物言いどおりの表情をした。そんなに変なことを言ったつもりはなかったのだが

「微妙って、どうして……?」
「いや……ちょっと間が開いたら思い出しちまってどうしようもなくなるようなワザが、できてないってことでもあるし」
「そんなこと……」

正直言って、離れている夜に一度も「そういうときの卓」を思い出さなかったわけではない。ただそれは多分卓の意図するところとは異なり、「そういうときの卓」もカッコよかったなとか、いつもと違って色気がすごくてゾクゾクさせられたなとか、本人に直接伝えるのはちょっと憚られるような魅力への想起でしかない(言葉にせずとも伝わってしまっていそうな件はさておいて)
だがそれは、ココにとって性行為はあくまで互いの愛を確かめ合うためのもの、本来であれば、楽しみというよりむしろ厳かに慈しみ合うもの───そう教えられてきて、いまだにそう思い込んでいる節があるからなのだろうと思う。だから、仮にひとりの時にそんな身体的な衝動が起こったとしても、それを鎮めるために何か策をとるという発想に至らないというだけの話。なので、目の前で真剣に自身の技術不足(?)を嘆かれるのも、そもそもの話として現状の、快楽を求めるのが主体になっているような行為自体も、甘んじて受け入れておいて何だが、なんか違う気がする。のに

「ああ、でも、自分でしたほうがいいとか言われたら立ち直れねえな……」
「だからしないってば」
「そう? おれはむちゃくちゃしたけどね」
「ちょっと……!」

いったい何を聞かされているのか。した・しないの是非を問う気はないが、少なくともそんな、無駄に爽やかな笑顔で執り行われる話題ではないような、気が……する

「……まあ、おれ無しではいられなくなるよう、せいぜい精進させていただきますよ。いったん休憩!」
「…………」

『おあずけ』とか『ずっとしたかった』とか、その手の行為の頻度とか濃度とか。改めて卓にその真意を問うようなことはいままでなかった。ので、その言動の端々になんとなく責任を感じてしまっていたのは、確かにこちらの勝手な所業ではある。けれど、無駄にキメ顔をしながら(これまた無駄にカッコいいのが本当に腹が立つ)こんな宣言をされてしまうと……なんかちょっと……

「(───考え過ぎなのかしら)」

ココはなんとなくもやもやとしたまま、枕代わりに供された卓の腕に身を任せた