fleurs du silence

「世の中の、他のカップルたちもみんな、こんなにずっと、その…………してるのかしら」

いったん休憩 というところの『一旦』とはどんな塩梅か。自ら宣言しておいて何だが、どのタイミングで再開すべきかと勘案し始めていた卓の腕を枕に、ココがもじもじと呟いた。顔を覗き込むと、いやってわけじゃないんだけど と、慌てたように付け足した

『ひとりで』についてはさておくとして、『ふたりで』についても。なんとなくココが、波に乗りきるのをいま一歩のところで躊躇しているというか、かすかな嫌悪感を持っているように見えてはいた。逆にノリノリの自分に忖度し、無理してつきあっているというわけではなさそうなので(希望的観測)、行為そのものにというよりも、行為に飲み込まれていく自分に対してとでも言うべきか

確かに、思い当たる節はある。ココは、魔界ではその大半を王族としてかくあるべしと求められる品格を体現しながら過ごし、人間界においても───人目を気にせずくつろいでいいはずのこの部屋で、部屋着に着替えてからもなお、すっと背筋を伸ばし、文字通り『きちんと』腰かけて過ごしている。そんな所作が体に染みついている彼女からしたら、薄暗かったり暗くなかったりする閨で、脚をおっ広げられひっくり返されたりこねくり回されたりするというのは、なかなか耐え難いことなのかもしれない。先刻の会話からも、現状に対して『思ってたのと違う』感が、言葉の端々から滲み出ていたりもした。にも関わらず、最終的にはどうなってしまうのかというと

「他、ねえ……。どうかな。いずれにしても、おれたちだからこうなってるんだろうとは思うけど」

『たち』を強調したのは、我ながら意地が悪いと思った。案の定ココはぐっと詰まり、耳まで真っ赤に染まっていく

気にすることがいろいろあって大変だなと、他人事のように思ったりする。今この瞬間ならともかく、まさかの真っ最中にいろいろ気にしているような余裕があるということなら、ある意味心外だったりもするのだが、それはさておくとして。そういうのを───羞恥心というか理性というかを、ぐずぐずに蕩かして陥落させるのが、このうえなく楽しくなってきているのは事実。いろんな顔が見たいし、見せたい。そうなると、そんな含羞も、こちらに嫌われたらどうしようとかいう要らぬ気遣いのつもりなら困るが、そうでなければ、それはそれでアリとなってくるのが何ともはや

「……わたしばかり、いろいろしてもらっている気がするのが……ちょっと」
「ん?」

なにやら、話の流れが想定したそれとはだいぶ違った方向に向かったのは、気のせいか

「卓はほんとに、その……気持ちいいのかなって」
「は? ……気持ちいいも何も……。速攻捨てちまったけど、確認しとく?」
「そうじゃなくて、その前! 触ったりとか、キスしたりとか……」
「前……ああ、なるほど……」

先刻噴き出した証拠品を提示すべくごみ箱に伸ばしかけた手は、光の速さで止められた。結果がどうであったかという意味ではなく、ふたりで過ごす時間のうちでそれが占める割合が多いのであれば、気持ちいい時間もふたり平等がいい そういうことらしい。確かに、今でこそ暇さえあれば没頭しているが、仮にどちらかのみが良くてどちらかのみがそうでもないとしたら、飽きるのも早いのかもしれない……のか? 飽きるという事態が発生すること自体、少なくともいまの自分には想像できないのだが

終わりよければ総て良し とは言い切れないが、概ねそういうものだと思っていたので、時間的な平等という観点で考えたことはなかった。じゃあ改めてそういうときの自分の状態を思い起こしてみると……。直接、刺激を受けて───たとえば舌を満遍なく絡め合うキスは勿論、滑らかな肌に触れるのも、単純に気持ちがいい。けれど確かに、こちらの働きかけによって変貌を遂げてゆくココの様子を見ながら、すなわち視覚情報から間接的に昂ぶっていく部分が大きいような気がする。それがココからすれば『してもらっている』という印象になるのだろうが、卓からすればそんなことは全くない。たとえがあまりよろしくないが、絶品の御菜を眺めるだけでどんぶり飯をがつがついけるようなもの。そんなこんなをかいつまんで説明してみたものの、いまいち納得は得られていないようだった。なら、いっそのこと

「じゃあ、おれがしたのと同じようにしてみれば、分かるんじゃね?」
「…………」

まったく他意なく提案したつもりだったのだが、ココは微妙な顔でこちらを見た。さっきからこの顔が多いのだが、いったいどういう感情なんだそれは







大の字に寝転んだ卓の脚の間に腰かけたココが、卓の顔を覗き込む。しばらくしてようやく意を決したように頷くと、ゆっくり身を傾けながら伸し掛かってきた。体重がかかることを気に掛けているようだが、出るところは豊かに出ているが締まるところはきゅっと締まっている、ほどよい肉付きの表れなのか、相変わらず軽いなという感想しか出なかった

「じゃあ、あの……失礼します……」
「ご自由にどうぞ……って、いてえ!」

『失礼します』ってそんな大袈裟な と続けるつもりだったのだが、悲鳴に近い声が出た。卓の提案を受け入れ、いざ実践! とばかりに伸びてきたココの指先が、まあまあの力加減で乳首を捻り上げてきたからだ

「えっ!? ご、ごめん……でも、さっき卓もこれくらい……」
「流石にそんな強く捻ってないだろ……取れるかと思ったわ……。少なくとも初めはもっとソフトタッチでお願いしますよ」
「そ、そうね……。じゃあ、こんな感じ……?」
「左手は添えるだけでいいから」
「いまそういうのホントやめて」
「あっ、ハイ」

本当にむしり取られかねない勢いで睨まれ、卓は慌てて口を押さえる。打って変わってココは、柔らかく弾くように指の腹で擦りつつ、他の箇所にも唇を漂わせるなどしていて、波に乗ってきたのがなんとなく伝わってきた。着々と進みゆく手順を邪魔しないよう、卓はココの髪に指を遊ばせながら、その流れに身を任せてみることにして───なるほどこれは、自分ばかりが『してもらっている』感覚に陥るのかもしれないなと思う。少なくとも、自分が主体となって動いているときよりも、明らかに刺激が強い。もっともいまこの瞬間に関しては、もともとそういう趣旨だとはいえ、いつも自分がどうしているのかをなぞられているような気恥ずかしさも手伝ってのことかもしれないが

「……ていうか、初っ端から乳首って、なかなかアグレッシブだな……。てっきり、耳とか首筋とかから来るかと」
「そういうもの!?」
「今後の参考にさせていただきます」
「参考って……」
「だってそこがいいってことだろ」

どこがいいとかここがいいとか教えてもいないのに、いの一番に来るということは、そういうことだ

自由研究の采配にまかせるようなことを言っておきながらどうかと一瞬思ったが、ふと見上げたココの表情があまりに艶めかしかったので、そんなことは都合よく棚の最上段に放り投げ、滑り込ませた掌でがら空きの乳房を包んだ。たわたわと手に余るその中心を意識してなぞりあげてやると、ココの肩がびくりと跳ねる

「手、止まってる」
「……っ、だって……」
「こっちは何もしないとは言ってない」
「そんな……、んっ」

胸元にとどまるココを引っ張り上げ、抗議の言葉を絡め取るように唇を深く噛み合わせる。誤解されているようだが、何も感じないとか物足りないとかそういうわけではない。たどたどしい手つきではあったが、一生懸命なのはそれだけでぐっとくるし、そもそも相手が相手だ。触れ合っているだけで、なんていうかもう

重ねた顔をわずかに離し、吐息が交わる距離のまま、完全に動きが止まってしまったココの手を導く。たどり着いたそこは、ココの肌に不規則に擦れながら、単独で意思を持ったかのように首を擡げていた。今まで何度も出し入れされたからなのか、単純に位置的な感覚からか、触れた瞬間にいろいろ気づいたようで、引いた指先で先端にぬめる先走りを掻い撫でると、ココは『あっ』とごく小さな声を漏らした

「そろそろ……こっちも、さわって欲しい」
「えっ……あ、あの、こっちって……ここ……?」
「…………」

卓は無言で頷き、ココの手の上から陰茎を握りしめた。さわって欲しいと強請っておきながら、『待て』ができずこれでは、ただの強制だ
初めはソフトタッチでとか言っていたのはどの口だったか。棚に上げる荷をどんどん増やしつつ、あからさまに性急なペースで上下に扱く。ひとりの夜とはぜんぜん違う。気持ちいいし、余裕がないし、それでいて、すごく楽しい。もちろんこればかりではないけれど、ココが腕の中にいることがこんなに嬉しい。裏を返せば、思った以上に自分は寂しかったのだと改めて気がついた

こちらの勢いにのまれたのか、半ば放心状態になっているココの身体を反転させ、秘所に指を捻じ込む。くちゅくちゅと掻き回すのに合わせて細い腰が引けそうになるのを抑え込み、そこかしこに唇を押し当てる。言外にお好みだと示された乳首に強めに歯を立てたら、ココは熱い息を漏らして仰け反った
いま欲しい。すぐ欲しい。欲求だけが前のめりになって、避妊具を着装するのにもひどくもたつく。後手後手に回ってしまう段取りの悪さに倦み果てながらようやく下拵えを終え、一気に刺し貫くと、そのままただひたすらに腰を打ちつけ続ける

「はぅ、あ、あ、っああ……ッ!」

ひときわ高い嬌声のあと、ココの腰の動きが明らかに変わった。ぼろぼろに泣きじゃくりながら、卓自身をもっと奥深くまで咥え込むべく上下にうねる。内壁が熱さを増し、ぎゅうぎゅうと締め付けてくる中、腰を弾ませ、ただただ奥を、そして欲を追ってゆく。焦らすように緩やかに動くとか、そんな余裕はとっくに失くしていた

「た、卓……! きもち、いい、ぁ、すごい、いい……っ、~~~~~~~!」
「んう……っ、…………っは、ココ、……!」

絶頂に達したのがどちらが先かは分からない。全身を駆け巡る快感に震えながら、卓はココの中で勢いよく精を吐き出す。ひくひくと震えるココの下腹部を撫でつつゆっくりと腰を引くと、それでも硬さをすっかり失っているわけではない自分の陰茎が目につき、なんだか笑えてきた

言葉は、後先をしっかりと考えてから発するものだとつくづく思う。ご自由にと言いながら、いざご自由にされたら、即、反撃に転じなければならないほどあっさり追い込まれたのは自分のほうだし、ゆっくり慣れていけばいいなどといかにも理解ありげなことを言いながら、すぐさま、心も体もひとりではいられなくなってしまっていたのも自分のほうだった

「まいった……」
「…………え? なあに……」
「ん? 清々しいほどの完敗だって言ったんだよ」
「そう、なの……?」
「うん」

余韻に身を委ねたまま、覚束なく応えるココを卓はそっと抱き寄せ、吐息を絡めるだけのキスをした