喫茶店の個室からでると、見知らぬ男が彼女と喋っているのが一番最初に目に付いた。

「彼女―、お茶しようよー。 あ、お茶はもう飲んでるってね。
とりあえずさあ、どっかいっちゃったカレシなんかほっといて、あっちの席に行こうよー」
「え、あ、いえ、結構ですからっっ……」

……あの、バカ……。

「うわ、かわいいねえ〜。遠慮しちゃって〜」
「ちが……」
「さ、いこいこ」

なれなれしく肩に回した腕を力任せに払うと、細っちい相手は簡単に床に吹っ飛んだ。

「……勘違いすんなよ」
「真壁くん!!」

助かった……。ほっとした顔で微笑む蘭世。
俊は一言、「帰るぞ」とだけ言い放ち、テーブルの上の伝票をひったくるようにつかむと、
さっさと会計を済ませ外に出て行った。
そのまま不機嫌な顔でずかずか歩く。

「真壁くん! 違うの、私……」
「…………」
「真壁くんが席を立ったらあの人がやってきて、映画館への道を聞かれて……」
「…………」
「真壁、くん……」

結局その後はどこにも行かず家へと直行することになった。
蘭世はそれを追うのだけで精一杯。





ドアを閉めるのと同時に、やっと口を開く。

「……色目つかってんじゃねえよ」
「え!?」

サンダルのストラップをはずす手を止め俊の顔を見上げる蘭世。

「そ……んなこと……」
「大体、誰彼かまわずニヤニヤしてるからさっきみてえなのが寄って来んだよ」
「〜〜〜〜〜。」

ビー玉サイズ位はあると思われる涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
言葉は言葉にならなくて、ただ俊のTシャツのすそを握り締める。
小刻みに震える肩。耳にかけていた髪がさらりと落ち、蘭世の頬を隠す。

「…………馬鹿、そんな顔もすんな」

そのまま、蘭世がまだ片方しか素足になっていないのにも構わず
玄関から続くキッチンのフロアにその身体を横たえた。



当初は、受け身専門だった彼女が、最近は少し違っていた。
……いや、なにかしてくれる、という訳ではないのだけれど……。
震える肩、潤んだ瞳、声を上げるタイミング。
そのひとつひとつが俊の「ツボ」を確実に突いてくる。
しっとりと自分自身を包む花弁、そしてその温度さえも
いつからかすべて俊にぴったりなものになっていて……。
それでも脚を開くときには、桜色に頬を染め顔を背ける
「はじめて」のときと何一つ変わっていないその恥じらいが愛おしい。

背中のファスナーを一気に引き下ろし、後ろからキスの嵐。
隙間から腕をさしいれ胸をまさぐると、汗だくの肌に布地がはりついてくる。
脱がして欲しいことは知ってるけれど
無理やり奪うシチュエーションに弱いことも知っている。相手も、自分も。
そのまま俊はワンピースの裾をたくしあげ、ショーツを腿まで下ろし
四つんばいになった腰を引き寄せた。
開いた白い脚にくいこむ薄いピンクが妙に官能的で俊を挑発する。

「は……んあ、あん……っっ」

切なげに声を上げる身体の向きを変えさせ、しっとりとした服をはぎ
露になった肌に唇を寄せる。

「……しょっぺえ……。」

汗の味。思わず笑ってしまう。

「……ま、かべく……こそ……」

吐息混じりに笑い、蘭世も俊のシャツをまくり胸元を吸う。
それに触発されるかのように再び強く身体を抱き寄せる。

「開拓」しているつもりが、たまに、自分のほうが先に
頭が真っ白になってしまいそうになる、甘い罠。
とりあえず今のところ全戦全勝。
……いや、一引き分け。それは蘭世は勿論知らない。



「遊びに行くか。明日。」

暖かくなってしまった床からまだ冷たいところへごろんと寝転んで
移動しながら俊は唐突に言った。

「ほんと!?」

蘭世もそれを追いかけてごろんと転がりぺっとりと俊の腕に絡まる。

「……今日一日、無駄になっちまったもんな」
「……うん!!」

腕に回した腕に力を込める。まだ汗ばんでいるけれど肌と肌が触れ合うのは心地よい。





と、いうわけで二人はプールにいた。
『どこに行く?』の俊の問いかけに蘭世の即答がそれだったから。
……やっぱり何も考えてねえな、あいつ……。
一足お先に着替えた俊はプールサイドにぼーっと立って蘭世を待っていた。

「……お待たせです」

着替えてきた蘭世がポーズをとる。

「えへへ。買っちゃったんだ♪ どう、どう?
かわいいでしょ? 実はこれをお披露目したかったんだ〜」

なぜか、彼女が着るといやらしく感じられないのだが、
実は大胆なカットが入り、胸元が強調されたデザイン。
……あれ、こいつ、こんなに……あったっけ。
思わず自分の手のひらを見つめる。見た目より触感で覚えてるからか
なんだかとても新鮮で、おもわず鼓動が早くなる。

「……まあ、いいんじゃねえの」

俊はつとめてぶっきらぼうに言って、冷たい水に飛び込んだ。



「あれー。日野くんたちも来てたんだー。うわ、ゆりえさんてば、大胆な水着〜♪」

偶然にも、そこにはその二人もやってきていた。
男同士は「……オス」くらいの、ちょっとの挨拶で終わりなのだが
女同士はそうもいかず、泳ぎにきたのか喋りにきたのかという勢いで会話が弾みだす。

「……ぶっ。おい、真壁、あれ……」

と、こちらを振り向いた日野の表情が一瞬固まり、
俊の身体を、頭から水につかっているへその辺りまで一通りながめると、
なにやら意味ありげな微笑みになる。

「……なんだよ」
「なんだよ、つーか……、あれはいいのか、って言おうと思ったんだけど、
言い換えるわ。おまえ"ら"、それでいいのか?」
「ん?」

よくみると、おたがいの首筋の同じ場所に同じ痕。