ゆっくりブラウスのボタンをはずしていく。開いた胸にやさしく口付け。
どきどきどき。少しだけ飲んだワインもほどよく作用して、勝手に早くなる胸の鼓動。
何度身体を重ねても一枚ずつ服を脱がされていくときが一番緊張する。
いつもなら俊の動きを邪魔しないよう、じっと身体を硬くしているだけなのだけれど。
蘭世は俊のシャツのボタンに手をかける。

「……ん?」

マグロな彼女に彼氏は飽き飽き。
そんな三流雑誌のコピーが蘭世の脳裏で回っていた。ぐるぐると。

「〜〜〜〜〜〜っっ」

指が震えてうまくはずせない。

「???」

何がしたいんだこいつは……。俊は蘭世の手を包み、そのまま自分のシャツのボタンをはずす。
そして、部屋は暗転。





……ちょっと助けてもらっちゃったけど、ま、まあ、いいんじゃないかな!? 私!
ちょっと満足げな蘭世をよそに、いつもの「始め」どおり、俊は蘭世の唇をさがす。

……そ、そうだ、ここで、待ってちゃいけないんだってば。
手探りで俊の唇の位置を確認し、顔を寄せる。
しっとりと、濃厚なキス、好印象♪……のつもりが。

「いてぇっっ!!」
「……いったあ……」

歯が……当たった……。

「わ、悪い、こんな近くに顔があるとは思わなかった」
「う……」

違うよう……。真壁くんはぜんぜん悪くない……。
自己嫌悪。泣きそうな蘭世には気づかず、
仕切りなおしとばかりに俊は注意深く唇を合わせ、舌を絡ませる。

「…………ん」

歯の裏をなぞる舌。すごく、気持ちいい……。
で、でも、真壁くん、今日は私が真壁くんを気持ちよくさせてあげるからねっっ!
見てて、いつもと違う私を!
蘭世は俊の頬に添えていた手をゆっくりと下に移動する。

「……うわあ!?」

冬は冷え性で困るの。そんな言葉どおりに冷えた手のひらで
いきなりそれを掴まれて飛び上がりそうな俊。

「え」
「『え』じゃねえっ! おまえ、なにす……っ」

俊はスタンドの明かりをつける。
これ以上暗いままだと何されるか判んねえ……。

「何って……これは駄目?」
「駄目って……いやそういうことじゃなくて」
「じゃあ、寝て」
「はあ?」
「あおむけに、寝てっっ!!」
「……酔ってんのか?」
「酔ってません〜〜〜!」

……ちょっと気持ちいいけどね♪

「…………」

予感的中……。俊はあきらめて大人しく横になる。





「ふふ」

あおむけの俊の上に重なり、さわさわさわ。鎖骨を撫でながら微笑む。

「なんだよ」
「……胸板の上の鯉、なんちゃって〜〜」
「…………」

……大丈夫かこいつ……誰だ飲ませたの。
俺だけど。

「でもね! 今日は私が板前さんになるから!!」

と言い放ち、まな板……じゃない胸板にキスを重ねる。

「…………」
「えへへ。どう? どう?」
「どうって……くすぐったい……」
「それだけえ〜〜〜〜?」
「……いやそう言われても」
「う〜〜〜〜。じゃあねえ、これはどうだっっ」

よいしょ。身体をまたぎ直して開いた腿に顔をくっつける。
軽く握った右手を静かに上下に動かす。

「……お」
「あ♪」

これなのね!? 答えを掴んだ気がして蘭世は手の動きを早める。

「……いや、そうじゃなくて。……いい眺めだなと」

突き上げたお尻をなでて両手で開く。わりとむっちりとした肉。

「〜〜〜〜〜〜もう〜〜〜」

違うんだってばっ! ……こうなったら最後の手段。かぷ。

「ふわ。…………おま……」

……あ、なんか、……冷めちゃった竹輪みたい……。

「……くそ……」
「ふむっ!?」

俊が、浮いた腰を力いっぱい引き寄せ舌を差し入れる。

「……ん……う」

負けじと動きを強めた蘭世の舌を感じながらちょっととろけ気味の俊。
……これが噂のシックスナ……。

「ねえねえ、これってどっちが6でどっちが9なの?」
「ぶふっっ」

げほげほげほ。知らねえよ馬鹿。
……つーかその単語知ってたのか……。意味なくショックを受ける。

「ふぉりあえす、しはのほうは、ひゅう、はのはなあ」
「うわっっ!!馬鹿っ、く、くわえて喋るなって!!」
「ふぇ?」

再び続けようと沈めた顔を身体ごと引っ張ってそこから引きはがす。

「……気持ちいいの?」
「ぐっ……。と、とにかく喋るな! いいなっ」
「ん〜〜〜〜。判った〜〜〜」

にやり。……にやり?
…………。

「ふぇ、はっひのふぃほんはんは、へほ」
「だあっっ!!」

ぞくり。背中に震えが走る。こいつは……っっ。



「くそ…………。」
「ひゃあっっ!?」
「うわ、重」

俊は蘭世の腰をがっちりと押さえ立ち上がり、壁に背を任せる。

「こ、こら、暴れるなって……」

手を不安定になってぷらぷら振る脚に持ち替え、ふくらはぎをぺろりと舐める。

「!! や……」

手を突き身体を支える蘭世。……あ、たまに血が昇る……。

「…………」

それを見つつゆっくりと頭がつくくらいにまで身体を低くしてやる。
そして舌はぱっくりと開いたそこへと……。

「ねえねえ、真壁くん」
「……?」
「逆立ちなんかするの、私すっごい久しぶりなんだけど」
「………………」

がっくり。はいはい、逆立ちね……。

「……おまえ、もう喋るな。声出すな」
「!!」

怒ってる? 怒ってるの?
聞きたいのに、聞いちゃいけないの? 

いつもと向きが違うので勝手がわからないけれど。
俊はわざと音を立てて舌を遣った。
部屋中にその音が響く。

……あ、気持ちいい……。って、いうか……やだ。どうしよう。結局……。

「…………」

つんつん。脚を指でつつく。……喋っちゃ駄目?

「……なんだよ」
「……っっ」

逆さまでも特に大差のない壁紙を見ながらおずおずと語りだす。

「……きょ、今日はね、真壁くん、に気持ちよくなってもらおうと、思ってた……の」
「…………」

だから妙に絡んできたわけかい……。……気持ちはありがたいけど……。
気持ちだけでいい、とは流石に言えない。

「……でも、ね」

つついた指をその場でぐりぐり回す。くすぐったいっつーの、だから。

「……ごめん……なさ……。今、……ち、いいの……」
「……うん?」
「気持ち……いいの……。だから、もっと……。もっと……して、くださ……い……」
「!!」

深々と、ため息。おでこをそこに押し付けて俊がつぶやく。

「……今のが、いちばん、効いた……」
「え? ごめん、聞こえなか……」
「……別に」

再び部屋にはその音が響く。我慢しきれなくなった蘭世の喘ぎ声との二重奏。