三日前の夜、はじめて彼女を抱いた
苦痛に満ちた顔も愛しくて
羞恥心に囚われながらも不意に浮かびはじめた恍惚の表情も
燃えさかる炎に油を注ぐかのように俊の胸を熱くして
そのときのために特に何かに教えをこうたとか
練習したとかいうわけではない
ただ、ずっとしたいと思っていたこと
それをそのままぶつけただけ
一般的に見れば無骨極まりない、ひとりよがりな動きだったかもしれない
けれどもその動きひとつひとつ―例えば、汗ばんだ肌と肌をこすり合わせるだけで
体中を、頭の奥までも激しく貫く享楽の渦
それに急かされるように、強く早く動かさずにはいられない指と舌
二日前の夜も
そして昨夜も、それは同様だった
今日に至っても
あのときの、いつもとは違い明らかに乱れゆく蘭世の姿や
自分の中にうごめく全ての感覚が鮮明に思い起こされ、何も手につかない
そう、一日中うわの空で過ごしてしまったバイトを終え
待ち合わせの場にいそいそと向かう今このときですらも
「お疲れさま♪」
「…………おう……」
いつもの曲がり角で待っていた蘭世
その笑顔はいつもどおりのものだというのに
俊の視界には、あのときの顔がオーバーラップして映り
返事もそこそこに、慌てて目をそらしてしまう
あのときの顔を知ってしまった今の俊には
蘭世の微笑みは、その無邪気さがいつもより、目が痛いほどまぶしく思える
そして
「エヘヘ、今日は何を食べよっか??」
いつもどおりの台詞を口にし、控えめに手をつなぐ
その動作も、今の俊にはいつもよりとても可愛らしいものに思える
けれど
触れ合う程度にかすかに自分の手を握っているだけだというのに
蘭世の指先からまるで電気でも流れているかのように
別の感覚が支配し始める
俊の、心も、体も
それは震えが走るほど
「………………」
無言で俊は蘭世の手を強く握る
───そうしないと
「たまにはお肉もいいかなあ……ハンバーグとか、どうかなあ?」
抑制を保つ鍵が、壊れる
下手をしたら、ここで───
「……そ、そうだな……」
「……あっ」
ふと何かに気づいたように蘭世は俊の顔を見上げる
俊はもう既に、蘭世の顔すらまともに見れない状態だというのに
「真壁くんの手、冷たいね……」
と、つないだ手を口許に運び、はぁっと息を吹きかける
「…………っっ」
感情が、一気に流れ出すのを感じる
抑え込んでいた分だけ、想像以上に強く
俊は蘭世の手を再び強く握り、半ば引きずるようにして歩き出す
自分を取り込もうとする欲望の波から逃げるかのように
「……って、え? 真壁くん、スーパーはそっちじゃ…………」
少なくとも、ここでは、こんなところでは
「メシは、いい」
「へ?」
───急がなくては
息も切れるほどの足の速さで着いた部屋に飛び込み、鍵を掛ける
「……えっと……真壁くん?」
靴も脱がず玄関に突っ立ったまま、怪訝そうな表情を浮かべる蘭世
どうしたの?
そのあとに続くであろう言葉を、俊は自らの唇で塞ぐ
そしてそのまま二人は、キッチンの床に重なり合って倒れこむ