小さなアパートの狭い一室にある彼の部屋の
扉の鍵を掛け灯りを落としカーテンを閉めるとそこは
たちまち闇に包まれて
闇に溶け込む長い髪の香りを頼りに
逃げることもなく けれど自ら行動を起こすでもなく
嫌悪感はないがそれを好きと口にすることはできそうにもない心もちで
佇むだけの細い身体にたどりつき、きつく抱きしめ
衣服の有無も構わずに唇を押し当てる
首筋に、肩に、腕に、指先に
胸のあたりを弄りながらもう一方の手でボタンを外し
大きく開いたシャツの合わせ目から堪らず顔をうずめる
鈍い輝きを帯びたように白く浮かび上がる肌はいつも
絹のようにさらりときめ細かく微塵の濁りもなく俊を迎えて 惑わせて
畳に擦れるのを気にする余裕も失い、引きずるように次々と衣服を解き
添え木に巻きつく蔦のようにその身体を絡ませながら
唇だけで蘭世の上唇と下唇を交互に挟み丹念に味わう
漏れる吐息も声も、触れ合う肌から感じ取れる熱までも
自分以外のものに触れさせるのが―空間を漂わせることすらも―口惜しく
そんなことを半ば本気で考えている自分は
いつからこんな独占欲の塊のようになってしまったのだろうかと
頭の片隅で自問したりもするけれど
すべてを自分のなかに取り込もうとでもするかのように
舌で唇で指で腕で胸で脚で―体全体で
その体に触れずにはいられない
控えめな喘ぎ声とともに
背中に回した蘭世の手に力がこもる
脚を閉じようとするのを押さえながら肩に掛け
忍び込み蠢かせていた指を引き抜き
腰を抱え上げ、そこに顔をうずめる
嗅覚を強く刺激する牝の匂いとでも言うべきそれは俊の全ての意思を支配して
抉るような舌の動きは、更に奥を求めいっそう早まる
蘭世の口許からこぼれる言葉は
すでに意味をなすものではなくなっていて
震えるように小刻みに低く響いていたのが
抑えることができなくなり
高く長く悲鳴のようにその趣を変え
全身ががくがくと大きく波打つのと同時に、ふと途切れる
それを合図に俊は、抱えていた腰を静かに下ろす
しかしそれは休ませるわけでも逃がすわけでもなくて
両腋から腕を差し入れ、蘭世の上半身をゆっくりと起こし
肩に頭を預けさせながら再び手を滑りこませて
直立し、待ちきれずすこしずつ濡れ始めていた俊の分身はようやくその居場所を見つけ
俊の突き上げる動きと蘭世自身の重みとで奥へ奥へと入り込んでいく
蛙のように俊の身体を跨いで半規則的に突き動かされ
それに抵抗するでもなく享楽の波に身を任せている自分への羞恥心など
今の蘭世には意識できるわけもなく
この部屋があるのは
大通りから一本入った細い道沿いだから
夜も更けると他者の気配も音も消え失せて
耳に響くのは
空腹のまま鎖を解き放たれた獣のように彼女に貪りつく彼と
肩を震わせながらも懸命に彼の行為に応えようとする彼女の
荒くくぐもった吐息といつもより高音の域を彷徨う声との二重奏だけ
この世界には今二人だけしか存在しないような感覚に陥る
お互いがお互いの身体しか知らないけれど
それ以外もそれ以上も
今の二人には必要ない
闇に紛れて夜に逸れて
彼女の全ては彼だけのもので
彼の全ては彼女だけのもの