「あ、やわらかい……ふにふにして、きもちいい」
「…………!」

少しずつ促されてしまっているとはいえ、それはまだ穏やかさを保っている
根元からすくいあげるようにてのひらを添え、蘭世は
新しい玩具を与えられた子供のように、物めずらしげに微笑んだ

自分の頬が朱に染まるのが、はっきりと判る
それをどうこう言うわけでもなく、蘭世は、ただまっすぐにその目を見つめた

「……真壁くんが、ボクシングやバイトだけじゃなくて、
わたしのためにもがんばってくれてることも、ちゃんとわかってるよ」
「ん………………っう」

俊の返事を待たず、その唇をふさぐ
唇同士重ね合わせるだけでいったん離れ、今度は体全体でのしかかって、さらに深く

直前に、柔らかいと称されたばかりのそれは、蘭世のてのひらの中で一気に膨らみ
その質を変貌させる
蘭世は、きりりと立ち上がった一部分のみをゆるく包み直すと
力を入れすぎず弱めすぎずのバランスを保ちながら
ゆっくり上下に、なにかを搾り出すような手つきで動かした

「真壁くん、だいすき。実はちょっとえっちなところも
でも、今みたいに、わたしが壊れちゃってるときにそういうことするのは
だめだって思っちゃうようなところも」
「…………っっ……」

それは果たして誉められているのか、どうか
いつもだったら即座に返せるであろう、憎まれ口すら浮かんでこない
どこをどうすればどうなるか、一番よく知っているはずの自分の手とは
明らかに異なるその手業に、それ以外の感覚がぼうっとぼやけていく

唇に首筋にと、軽く落としていた唇が、不意に膝に触れた
固く瞑っていた目を薄く開くと、その唇がさらに下へと移動しようとしているのが見え
それには流石に慌てて俊は蘭世を押しとどめる

「ば……ばかっ。そんなこと、す……るな……っ」
「……ふたりでいるとき、真壁くんの心はわたしでいっぱいになるでしょう? もちろん、今も」
「え? そ、そりゃ……」
「やっぱり今のわたし、すっごいワガママなんだわ。それだけじゃ足りないの
真壁くんがこういうことしたくないって思ってても
体も、わたしでいっぱいにしたいっていうか」
「そ…………、んぁ」

答えづらい問いに、たどたどしく頷いた俊に、無邪気な微笑みを返して
それ以上、彼女は言葉を発しなかった
代わりにその口元を占めたのは、他の何者でもない







「…………っは、ん……、あ、あ…………っ」

生温かく包み込む口内と、浮き立った筋を適度な強さで追う滑らかな舌
腰をがくがくと震わせながら漏らしてしまった声に、自分で驚く
いつものような、自分から攻め入る状況でも、それなりに声くらい漏れる
けれどそれは、例えるならば呻き声のようなもので、こんな儚くよがるものではない

こんな姿は、絶対に晒したくないと思っていた
けれど、逃れようと思えば簡単に逃れ得るはずの体は
そんな矜持を思い起こすことすらできなくなっていた

よりかかっていた肩が壁からずり落ち、床に背がつく
かわりに心持ち尻が浮いたのを見計らい、蘭世は俊の左脚を衣服から引き抜き
右脚も同様にしようとして、やめて。するりと尻に手を滑らせる
尻肉を寄せ、爪を短く切り揃えた人差し指をその中心へあてがい、くっと力を込めた

「…………………!!」

流石にそこは、抵抗なく蘭世の指を受け入れるまでには洗練されていない
指の節ひとつ分ねじ込まれただけで、強烈な違和感が俊を襲う
しかし哀しいかな、それまでとらわれていた感覚を払拭することはなく、むしろ助長した
それを見透かしたかのように、捨て置かれていた珠を口に含まれ
その瞬間、息を継ぐタイミングが判らなくなってしまう

下手に気を抜いたりしたら、ぺたぺたとやさしく舌で撫でているそのすぐ横で
熱く脈打ちそそり立つそこはどうなってしまうのか

下手に残った理性のもとでくすぶっていた、そんな懸念すら消えかけるまで
蘭世は双方を丹念に舐め尽くし、再びその中央を奥深くまで咥え込んだ

ほんの少し力を込めて顔ごと上下に動かす、その軌跡に溺れる
行き場をなくして彷徨う手に、細い指先が触れて
俊は意識を繋ぎとめるかのように、それにしがみつく

「え……とう、江藤……っえ、と……──────!!」

まともな単語として口にできたのは、彼女の呼び名だけ
それすらも途切れた瞬間、一気に噴き出した苦い液に、蘭世は身じろぎをする







「………………ふ」
「……あ、う、あ……っあ、ああ…………っっ……」
「………………」

さらに舌を漂わせ、一度で出切らず内に残ったものすら吸い尽くして
頬をふくらませた蘭世がその顔を上げる
追い討ちに悶える俊を見おろしながら、喉を鳴らしてすべてを飲み下し
その身をまたいでもぞもぞと這い戻ると、額に浮いた汗を指先で拭った

「エヘ」
「………………」
「せっかくおフロに入ったのに……汗だくになっちゃったね……ごめんなさい」
「………………」

こちらは、こてんぱんに砕かれたプライドやらなにやらを建て直すこともできず
忘れかけてしまっていた息をするのだけで精一杯だというのに
彼女の方はと言えば、やっぱりお気楽に笑い、ちょっとずれたことを心配した
耳に掛けられていた長い髪がさらりと滑り落ち、俊の耳朶をくすぐる
ゆっくりと身を起こしながら、俊は蘭世の頬に手を伸ばした
軽く開いた口元を見、蘭世は俊の胸を押さえてそれを止めようとする

「だ、だめ……今、口の中……すごいから」
「………………。元々は、おれのだし……」
「……舐めたこと、あるの?」
「ねえよ!」

流石にそんな趣味はない。即座に否定しつつ、胸に突いた腕を背に回させて
重ねた唇の隙間から舌をねじ込む
ぐるりと口内をなぞると、確かに彼女が押し止めるほどのねっとりとした生臭さが絡みついた

体を反転させ、その細い肩を組み伏せる
つい先刻まで強気に攻め込んでいたはずの瞳は潤んでおり、頼りなく俊を見上げた

「…………別に、こういうことをしたくないとは思ってねえけど」

キスの合間に漏れる吐息のみで、なにもかもが復活してしまう程度には
その欲求は絶えることがないのだから
────よもや、させることになるとは思わなかった。問題はそちらの方だ

「……すまん……」
「ま……真壁くん……謝らないで……」

腕の中、蘭世はふるふるとかぶりを振る
押さえ込むように抱きしめ、俊は続けた

「……会いたいとか、そういうことを言うのは簡単だけど……じゃあ実際
そんなに頻繁に会えるかっていうと、限界があるし」
「………………」

きゅっと眉根を寄せたのは、自分の言葉に対してか、それとも働きかけに対してか
彼女の首筋に顔をうずめて甘く咬んだ俊に、それを判断することはできなかった
ただ、背に回しシャツを掴む指先に、ほんの少し力が篭もるのだけは判った

「……でも、その……努力はします。色々と」
「! だ、だめ! 真壁くんは、それ以上頑張っちゃだめなの! だって……!」
「………………。あんなすげえのを軽くあしらえるほど、おれも慣れてるわけじゃないんで……」
「……………!!」

その“努力”は、“そうさせないように”・“そうなってしまっても対峙できるように”
これら二重の意を含む

てのひらに伝わるやわらかさは、自分の完敗だとしても
鼓動は、先刻、彼女が自分の胸から感じ取ったものと比べてどちらが早いだろう
ブラをずりあげ、ちょうどよいサイズの房を包み込みながら
俊は妙に冷静にそんなことを思った