あたりが寝静まって音もなく暗い暗い闇のなか
さらに外界との交わりを遮るべく張られた結界の中で
もつれるように絡み合う、彼と彼女

彼は彼女の全てを狂おしく愛おしく思う気持ちを
惜し気もなく晒すかのように
熱く強くその唇をくまなく全身に押しあてる
なすがままにそれを受ける彼女の表情は
穏やかでまるで聖母のようで
やわらかく彼の髪を撫でながら
すこしだけ温度の上がった彼の、唇が、指が刻むリズムに身を任せていく





そろそろ
彼女に一度目の波がくる
それは自分の経験上、よく判っていること
閉鎖的な器の外からこうして見ているだけだとしても





その波を取りこぼさないように
彼は彼女の両膝に腕を掛け、釣り上げるように抱えて背中を壁に押しつけ圧し掛かる
ぴんと張り詰めた足指や筋の浮き出た足の裏さえも妙に艶かしく

「           」

堪りきれず声を漏らしながら仰け反らせ、浮き立った白い喉元に一度唇を当て
鎖骨の方へと滑り降りながら
ゆっくりと、しかし着実に、彼は彼女の中への侵入を試みる
筋肉質な彼の体の陰に、小柄な彼女はすっぽりと隠れてしまいながらも
彼が体を深く奥へと揺さ振るたびに、その肩の辺りから
踊る黒髪と赤みを帯びた頬が覗き見える



攻めているようで攻め入られているようで、もはや
自分自身を支えるだけで精一杯になりつつある彼の腕から
彼女はするりとずれ落ちる
離れてしまった胸と胸の隙間を縮めようと
彼女は彼の肩に腕を伸ばして
それに応えるように彼は
二人の繋がりを崩さぬよう
少しずつ角度を変えて、ゆっくりと彼女を横たえて
重なり合って床に倒れ落ち
彼女の顔を真横に───結界の方へと───向け
首筋を唇だけで噛みながら
ふたたび彼女を導き求めて動き出す



その時

自分と、目と目が合ってしまった彼女の表情が

あまりにも



「……やべぇ……自殺行為だ」

俊は慌てて手鏡を開き、還すべきその二つの存在を招き入れ
目の前に張っていた───今は誰もいなくなった───結界を閉じ
寝室で静かな寝息を立てる恋人のもとへと近づく足音を忍ばせる