「真壁くん、見て見て! すごいまん丸なお月様!」

窓際で呼ぶ声に誘われて外を見ると、見事な満月
雲ひとつない夜空を、ほのかに紅い光で静かに照らしていた
そういえば先刻まで見ていた天気予報でも、今夜は月が綺麗に見えると宣言されていて
イコール、明日は晴れという図式のもと
蘭世は明日の予定をあれこれ嬉しそうに立てていたような気がする

「エヘヘ。たまには月見酒もいいね。……って、ビールだけど」
「……そうだな」

適度なアルコールのお陰で、ほんのりと赤みのさした頬
それはまるで夜空を照らす今夜の月のようで
とはいえ、どことなく無気味にも思えるそれとは違い
太陽のようにぽかぽかと優しい光を放って

「よく、人はおひさまがないと暮らしていけないって言うじゃない?
あれって、規則的におひさまの光に当たらないと
体内時計が狂っちゃうからなんですってね」
「……そ、うなのか?」
「らしいわよ。やっぱり不規則な生活をすると体壊しやすくなるんですって」
「へえ……」

一瞬、思考を読まれたのかと焦ったが、違ったようで
蘭世は真面目な話で語り続ける
トモダチのトモダチのカレシが夜勤続きで心配だ、等々
酒が入るとやたら鋭くなる(ような気がする)とはいえ
こいつにそんな能力はなかった……と密かにほっとしながら俊は
蘭世の言葉に耳を傾ける

「あ、でもね」
「?」
「どちらかと言うと私の場合
おひさまよりも、月の満ち欠けに影響を受けているみたい
狼女の血も引いてるからかな?」
「…………」

そういえば
自分をかばって母親に噛み付かれてしまって
しばらく丸いものを見ると耳と尻尾が出て困ってしまった、という話を
苦笑交じりに話していたことがあった
その時は、ふ〜ん…(ある意味マニア受けしそうだな)…という程度の感想だったのだけれど
よくよく考えてみれば
相手の姿形を吸い取る吸血鬼 だけではなくて
もう半分の素である 狼女 の能力が、どこかに潜在しているであろうことでもあり

「……血が騒ぐとか?」
「そうそう。ワオォ〜ン……って、違うよ〜〜〜」

ぼそっと呟いた俊の台詞に合わせて、おどけて咆哮する姿は
いつもなら、狼女というよりは、仔猫のように愛くるしく映るだけなのに
仰け反るように持ち上げた頤と、白く浮き立つ首筋が
あまり耐性のないアルコールのせいなのか、どうなのか
いつもよりも

「…………」
「え」

俊は無言で部屋の明かりを消し、『どうしたの?』の声を上げようとした蘭世の唇を塞ぐ
唇を重ねたまま蘭世の手からグラスを奪って、卓袱台へと確保し
その細い身体をぐっと抱きかかえながら少しずつ床へともたれていって

「……この方が、月がよく見える」

開いたままのカーテンから注ぐ月の光は
思った以上にくっきりと、二人の重なりゆく影を部屋の畳に映し出す







『月の満ち欠けに影響を受ける』
あながちその台詞は、間違っていないのかもしれない



いつもは耳元まで紅く染めながら俊の行為を受け止めるだけのその体が
心なしか、自発的にとは言わないまでも俊の動きを追いかけて
甘い吐息を漏らす
ぎりぎりまで唇を噛み締めて我慢している声も
いつもより早く上がりトーンも高く、狭い部屋に響き渡っていく
それはますます俊の本能をかきたてて、舌や唇、指が、いつもより容赦なく攻め入り
噴き出した汗にまとわりつく髪を払う余裕すらなくなった蘭世の声は
絶叫に近いものとなる

「…………」

もう少し、あと少しで絶頂を迎えることくらい判りきっているのに
来るべきその瞬間の寸前を見計らって俊は全ての行為を止めた

「…………?」

どうして? とでも問いたげな表情
強請ることのないいつもの蘭世なら、こんな表情はまずありえない

そう、最初は焦らすつもりだったのに





息が整いつつある蘭世の額に張りついた髪を優しく撫でながら
餌付けのように指を差し出し口に含ませると
薄く目を閉じ、ラインに沿って舌を動かす
軽く手を添え、もう一方の手は指と指を絡めて
無意識なのかどうなのか、そのねっとりとした動きは未知の行為を連想させて
俊は思わず小さく身震いする
続く余韻に耐え切れないのか、円を描くように動きながら摺り寄せる肌が妙に熱くて
その熱さは、いつも以上に熱を帯びた俊自身にも敏感に伝わる
開いた脚の間で彼自身を待つ蜜壷へも急ぎたいけれど、今はそれよりも

「……ふ、うん…………っっ!?」

少し乱暴に蘭世の口許から指を引き抜き、「悪い」とだけ言って俊は
体を上下反転させ蘭世の顔に跨り、猛る彼自身を今まで指が居た口に押し込んで
蘭世の白い下腹部に一度唇を当てたあと、目の前で甘く誘う蜜に
顔を突っ込むようにして舐め取っていく
その過程でいつもとは逆の角度で触れられて、でも律儀に反応する蘭世の芽を
軽く歯を当て、指で弾いて、弄ぶ
俊の尻肉を掴むようにしてその波に耐えながらも
その余波で、止まったり押し付けられたりする舌の動きに
俊も却って深みへと追い詰められていく、甘美な相乗効果







月に惑わされているのはどちらなのか
惑わすものは果たして月なのか
問いただすことすらままならず
ただ、目の前の相手を貪るように求め合う

逸る心も突き上げる衝動も
すべて月の光のせいにして
二人は今宵、獣に変わる