隣で眠った男は皆
次第に私を抱かなくなるということに気づいたのは
いつごろからだったろう







私の業は
死にゆく存在へのせめてもの餞として
最期の、その瞬間に安らかな夢を贈ること
自分のそれまで歩んできた道を振り返りたいと願うものもいれば
先に逝ってしまった最愛の人の姿を望むものもいて
所詮、紙に描かれたシナリオ───はかなき造りものでしかないのだとしても
誰かの最期に笑顔をもたらすことができるということに
誇りをもって施すことができる、業

誰かの見る夢を操ること
時に悪夢を鎮めて
時に悪夢をもたらして
その次第によっては時に相手を死に至らしめることもできる、業





後にも先にもずっと
それだけだと思っていたのに





現実は
そんなに美しいものばかりではありえないということなのか
いつもはその姿をひたすらに隠した獣たちが、月に向かって吠えさかるように
眠りにつき、身も心も休め意識の落ちたその瞬間に
闇の中で目を醒ます、もうひとつの、なにか
零れ落ちる、禍々しい力

ある男は
腕と足を括られた状態で
私に極限まで追い詰められる夢を見たといい
その前の男は
複数の私に、あますところなく奉仕される夢を見たという
さらに前の男は
何度も何度も執拗にそれを求め脚を開く私の夢を見て
それより前の男達の見た夢は
残念ながら覚えていない

男たちの、支配欲からなる願望のあらわれなのか
もしかしたら
見ないふりをしているだけで、私が
胸の奥に抱えている興味のあらわれなのか
根源はわからないけれど
それを目に見える形に創り上げるのは、無意識のうちだとはいえ
私の持つ、能力で
それに溺れた男たちは皆、いつしか

「…………」

いま目の前に居るこの人は
出逢った頃と変わらず、むしろ時を重ねるごとに
強く深く私を抱く
きっと他の男と同じように
隠微な夢を見ているはずなのに
もしかしたら、かえってその夢が
いても立ってもいられなくさせるのかと思ったりもしたけれど
どうやらそういうわけでもないらしく
朝も昼も夜も、時を問わず、とても楽しそうに

赤子のように胸に顔をうずめていたかと思えば
子犬のようにじゃれついて
耳に肩に遊ぶ、小刻みに荒れた吐息に身をよじろうとしても
隙間なく絡めあった指の一本一本が、同時に優しい枷となってそれを封じ
追い打ちをかけるかの如く耳に入り込む舌の熱さに
心までもがとろけてしまいそうな甘い疼きが
ゆるゆると導き出されて
思わず声が漏れる







「──────あ……ぁっ!」

ぽってりと厚めの唇が、その名残を落としながら
豊かな起伏を描く体のラインに沿って降りていく
「痛み」の直前のその感覚の、不規則な間隔での連続は
じっくりと確実に、理性をどこかへ押しやり
その分空いた隙間を埋めるように
怒涛のように押し寄せる、享楽の波

閉じようとする脚を押し広げ、膝小僧に頬を寄せる
ぱっくりと開いた、うるみのあるそこに一瞬目をやり嬉しそうに微笑んで
指を差し入れ繰りながら、鼻先をつかず離れずの位置で保ち
脚のつけ根へと一旦滑り降りて
再び方向を変え、時折唇だけで軽く摘むようにしながら
内股を通りふくらはぎ、つま先へと降りていく
きちんと爪を切り揃えた足指の、一本一本を口に含み舌で辿り
堪え切れず全身に力が籠もったのを見透かすようなタイミングで
両の足首を肩に掛け、まっすぐにこちらを覗き込む
先に、中で遊ばせていた指を捻りながら引き抜き
にっこりと満面の笑みを浮かべて
ねっとりと濡れたそれを、目と目を合わせたまま口に含む
刹那、その動きは
導くだけのものから共に昇り詰めるものへと変わり
その表情は
愛おしむような苦しげな、でも奥深くを急ぎ求めるものになる





この人の夢の中でこの人は
どんな顔をして私を抱くのだろう
この人の夢の中で私は
どんな顔をしてこの人を誘うのだろう

夢の中の私は
今この人に抱かれている私よりも素直だろうか
隠していても本当は
貴方の全てを愛していること
身も心も吸い尽くすほどに
抱きしめていたいこと
抱きしめていて欲しいこと
それら全てをためらうことなく
この人に伝え切れているのだろうか

愛するということは
ただそこにあるだけで
勝ちも負けもないはずなのに
つまらないプライドという殻に閉じこもって
膝を抱えて座り込んで動けなくなってしまった私も
夢の中でなら、もしかしたら
全てを素直に伝えることができるのだろうか

「────……!」

ああ、やっぱり
男たちの見た夢は、私の願望
それぞれ形は違えど、その時々で私がそう在りたいと焦がれた姿

そう、であるならば

この人はきっと、他の、今まで隣で眠った男の誰よりも
濃密な夢を見たに違いない
だってこの人は、他の誰よりも──────







砕けてゆく細い腰を抱え込み貫く衝動は
頭の奥にまで響いて
思考を途切れさせる
堪え切れない嬌声に、呻くような荒い吐息が重なって
言葉として認識できるのは
お互いがお互いを呼び合う名前だけ

涙と汗とが混じり合い濡れた頬に、波打つ豊かな髪がはりつく
それを払う間も惜しみ、二人は貪るように









「夢?」
「………う、ん………」

先刻までの動作とは全く趣を異にして
優しく髪を撫でながら
ジョルジュは腕の中のサリの顔を覗き込む

「見て……る、でしょ? すごい夢。……毎晩のように」
「ああ!」

やっと思い立ったとでもいうようにジョルジュは微笑んで

「見るねえ……。そりゃもう、すんごい夢!
あれ、サリが見せてくれてたものだったのかあ……
おれはてっきり、相当たまってるんだろうなと……」
「違……! あ、いや、全く違う、ってわけじゃ、ないんだけど……」
「へ?」



お互いの、お互い以外の相手とのことを話すのは
何も初めてのことではないけれど
行く末というか結末までを掘り下げて話すことは
ある意味縁起でもない気がして、ずっと避けてきたから
今が、初めてのこと
ところどころに相槌を打ちながらも、黙って聞いていたジョルジュが
長いため息をつく

「で、サリとしては、今まで何も疑問は持たなかったわけ?」
「……え」

疑問、って……
そう、言われましても

「そ、りゃまあ確かに、おかしいなと思ったりもしたけど……
でも、まさか、寝てるうちにそんな力が働いてるなんてずっと気づかなかったし
第一、わたし自身は寝てるつもりだから、止めようもなかったし……」
「いや、そこじゃなくて」
「え」
「あのな、一応おれも、それこそ精も根も吸い尽くされそうな
すごい夢ばっかり見てるんだけど」
「ああ、そう、そこなのよ! なのに、あなたは全然変わらないのよねえ……どうして?」
「どうしてって…………」

再び、長い長いため息をついたあと
頭を抱えた仕草のままジョルジュは横目でサリを見やって、ぼそりと呟く

「……夢の中のサリもね、むちゃくちゃ、いいけど
現実のサリにはかなわないってことなんですけど」
「…え……」

思いも寄らなかったことを、当然のことのようにさらりと言われて
頬に血が一気に駆け昇るのが判る
だって今まで見せてきた夢が自分の願望のあらわれなのだとしたら
その中での自分はきっと
言葉も欲望も何もかもを曝け出し、身も心も委ねている筈なのに

「そりゃ確かに、本音とか、もうちょっと色っぽいこととか
言ってみてくれちゃってもいいんじゃないの? って思うこともちょっとはあるけど
……本当はどう思ってるのかくらいは、態度見てれば判るし」
「態度……」
「サリってさ、おれのことめちゃくちゃ好きでしょ。片時も離れられないでしょ」
「は!? な、な、何、言って……!」
「うんうん、そうだねえ」

この期に及んでも、表に出てくるのは否定の言葉だというのに
それをものともせず、余裕の微笑でジョルジュはサリの鼻をつまんで

「知りたくなったら、密かにきっちり聞いてるしね。おれは…………」

ゆっくりと唇を重ね、舌を絡める
甘苦い余韻を残したその動きは、背中の中心辺りに再び優しく痺れを生じさせるけれど
わざとなのかどうなのか、つままれた鼻の違和感は大きすぎて

「〜〜〜! 〜〜〜〜〜っっ」
「ああ、悪い悪い」

触れ合った唇と、鼻をつまむ指先を離し、悪戯っぽく笑う
呼吸を整えるサリの背を撫でながらジョルジュはぽりぽりと鼻をかく

「……だから、焦らんで、いいよ」
「!」





焦らなくていい、だなんて
──────そんなこと、誰も言ってくれなかった





だから、やっぱり、笑っちゃうくらいに
どうしたらいいのか、判らないのだけれど
それでもいい、ってことなのかしら
待ってくれるってことなのかしら







「うん?」
「………………」

ぽすん、と広い胸に顔をうずめて、ふるふると首を振る
なんでもなくは、ないのだけれど
まだ、うまく伝えることはできそうにないから
サリはただ、その唇をジョルジュの胸に押し当てる





すらすらと言葉にできるようになるまで、もう少し待って