夢は見せても見るものじゃない
そう思ってた





夢を操ることが生業だというのに
私は夢というものが怖い
醒めてしまったあとに見えてくる
夢のなかで浮かれていた自分自身の姿があまりにも
滑稽で、腹立たしくて、哀しくて
楽しい夢であればあるほど醒めるのが怖くなって


だから、恋なんてしない
そう、思ってもいた

闇の中に浮かび上がる、透き通るように白い肌
隠すそぶりも見せずそれを晒す潔さに苦笑しながら
ジョルジュはゆっくりとその腕に唇を這わせていく
さわさわと胸元を擽る、波打つ髪に指を遊ばせながら
サリは静かに目を閉じる

貴方と過ごす時間は、そのひとときひとときが嬉しくて楽しくて
時折苦しくなった
いまは幸せ、しばらくは幸せ
……でも、いつかは、もしかしたら

辿り着いた唇に、吸いつき、包み込む唇
頬に添えられた指先は、耳朶を弄ったあと首筋のラインをなぞるように降りていき
ほどよく豊かな膨らみを探し当てる
中心から周りにかけて、静かに円を描くように撫で
少しずつその熱を増していく突起を確認しながら
それを押しつぶすかのように大きな掌全体で触れ、掴み上げる
心臓を盗まれてしまいそう そんな気がして、サリは一瞬、息を呑む

抱き止める姿勢で肩の位置を固定する、もう一方の腕はそのままに
ジョルジュはその掌の力を少しずつ強める
ゆったりと、その感触を楽しむようなキスから
絡まるような、噛み付くようなキスへと、その唇の動きも変化し
端からもれる息遣いも、その趣を変えて

何かを失う痛みを知っているということは
何かを失う痛みを知らないときよりも、自然と
踏み込む一歩を小さくさせる

慎重と臆病とは常に背中合わせで

痛みを味わいたくないのなら
手にするときにきちんと見極めること
痛みを味わいたくないのなら
たやすく踏み込んじゃ駄目、一定の距離感がきっと丁度良い
痛みを味わいたくないのなら

──────最初からなにも手にしなければいい

倒れこむように身を沈めたベッドが少し軋んで音を立てる
丹念に自分の肌を味わう舌と、こっそりとそこに侵入し蠢く指の動きを追いながらも
心と体の奥深くに眠るその感覚が、扉を開きすり抜けて行かんとするのを抑え込む
背中の中心を、突き上げるような震えが走り、思わず声が漏れる
縋るようにシーツを掴み、腰のあたりに力を込めてサリは
気を抜けば引きずられてしまいそうな自分自身を支える
別に悪いことをしているわけではないけれど
その直前は、未だに、少しだけ怖くて

けれどその姿は却ってジョルジュに対しては堪らなく、ある種の衝動を掻き立てられ

強張った脚を半ば無理矢理開かせ顔をうずめて
舐め上げ吸い上げ自らの奏でるリズムに合わせ
サリの上げる声のトーンが変わるのを見計らって
その細い身体を反転させ、腰を抱え上げ四つん這いの格好にさせる
親猫が仔猫を運ぶときのように、サリの項を唇だけで噛み
崩れ落ちそうな腕と腰とを支えて、ゆっくりと

ああ、なのに私は、貴方の名前を呼んでしまった
それは今まで口にすることのできなかった叫びにも似て

──────夢を見るのが怖いのではなくて、本当はずっと
ほわほわの雲の海をたゆたうような甘い夢に閉じ込めて欲しかったのだと

先刻よりも小刻みに、ベッドの軋む音が響く
揺れる髪が汗で顔に張りつくのにも構うことなく、貫き、少し引いて、また貫く
最早その響きを抑えることすらできなくなったサリの喘ぎ声を聴きながら
ジョルジュもまた、我を忘れて

永遠なんてものあり得ない
そんなことは判ってる
大切なのは
今の一瞬が永遠なのかもしれないと信じさせてくれる、なにか



貴方と今在ること、その幸せは
夢の中にいるようで、でもけして醒めることのない現実なのだと
思えることができたなんて

そんなこと
貴方には絶対言わない