(仮)決戦は金曜日

小学生げんみさ前提。若林くんが岬くんをサッカー的な意味で大絶賛しているだけの話です。前回の続き。



「だよね! ぼくもこのプリン大好きなんだ!」
「え!? 」
「え?」
「あ、いや。そうじゃなくて」
「ん??」
「あ……。ああ、そう! うん! プリンうまいよな!」
「ね!」

あの日。彼の盛大な勘違いにずっこけそうになりながらも、全力で乗っかってしまった自分を、責めることができる者はいるだろうか。いやいる筈がない、もしそんな奴がいるのなら今すぐ出てこいぶん殴ってやる
―――と、力任せになりすぎたオーバースローをトラップした井沢が、ぎょっとした顔でこちらを伺い見た。いいからこっち見んなそのまま走っとけ



今日の練習メニューは、チーム対抗戦がメイン。彼は白組、自分は赤組。相変わらずやたらきらきらしている彼にシュートなんてされた日にはどうなることかと思ったが、それはそれ、これはこれ。きっちりと、ゴールネットを1ミリも揺らすことない壁と化す
すこし引いたところから皆を眺めることができるのは、ある意味ゴールキーパーというポジションの役得でもある。彼は相変わらず(もっとも、こちらの思いに気づいていない彼が変調を来すいわれもないのだが)流麗なドリブルで敵の包囲網の隙間をかいくぐり、『吸い付いてくるような』と称していたのは翼だったか、相手の踏み込む数歩先まで見据えた絶妙な位置および速度の的確なパス。マイペースというのが、マイナスの感情を表面化しないという意味のみにおいては正しいのかもしれないが、自身の進度を曲げないという意味においては、どうか。常に仲間の最善のパフォーマンスを引き出すことを念頭に置いたアシストを、こうも見事に実現しているのを見ると、むしろ自分自身の進度だったりあるいは功績だったりというものには無頓着なのではないかと思わされる。―――などと油断していると、うまく隠していた牙を突然露わにして、自ら果敢にゴールを狙ってきたりするのだからたまらない

彼ほどの選手がデータベースに上がってこなかったのは、ひとつのチームに定着しなかったがためであることは明白だが、じゃあはたして彼は、各地を渡り歩く日々を、いったいどんな心境で過ごしてきたのか。所変われば品変わる。それは諸刃の剣だ。所属するチームによって、戦術も戦略も変わることを余儀なくされ、たとえばいま目の前にある県大会および全国制覇のような、確固たる目標を持つことが叶わないまま、ひたすら自身の技術を磨きあげていくというのは、至難の業だったに違いない。こと自分に関していえば。自分のためだけにメニューを組み上げじっくり向き合ってくれる見上さんのもと、全国を目指せる、且つ現に一度頂点に立ってもいる、所謂強豪チーム・修哲小に身を置いてきたことは、今の自分を作り上げた素地であり、外せない要因だと思っている。「サッカーが好き」だけでは成し得なかった部分が確かにあった
「彼は強い」この一言に尽きる。いつもの柔和な表情からは想像できない、意思の強さ。負けたくない。―――負けない

(……まあ、あの日は完全敗北っていうか敵前逃亡だったけどな……)

いやいや大丈夫! サッカーの話ではないから! と自分で自分を慰めざるを得ないほどの逃げっぷりだった。 一瞬しんと静まりかえった空気と、そんな可能性を全く想定していないであろう微笑みから
それでも、夜の夜中にひとり過ごすことの不用心さを盾に、彼の父親が不在の日には自宅へ遊びに来てもらうよう話をもっていけたのは、我ながらスーパーグレートファインプレーではなかったか。そして、待ちに待った今日が、その記念すべき第一日めだ




「あれっ。若林さん、ガッツポーズしてるぜ」
「ホントだ。……ついさっきまで、人殺しそうな顔してたのに」
「そんなにおれが決めたの喜んでくれてるなんて……っ!!」

つい今しがたシュートを決めたばかりの来生と井沢が、自軍のゴールを振り返ると、いつになく感情を露わにしている小学生最強ゴールキーパーの姿があった

本当の理由は、誰も知らない
今日も南葛SCグラウンドは平和なのであった