大切なことはみんな君から教わった
想いが一方通行ではないのだと伝え合ったものの、何度かキスをしてみたものの、なぜかと問われても困るがどこか満足しきれないまま、そうは言ってもじゃあ、具体的になにをどうすればいいものなのかはなんだかよく分からない。とりあえず服を脱いでみないか、と提案すると岬は
「若林くんて、たまに突拍子もないこというよね」
まあそんなとこも好きなんだけど、と笑った
とはいえ。脱いでみたところでどうしたものか。新しいシーツに替えてもらっておいたベッドに並んで潜り込んではみたものの、次の一手がとんと思い至らない。若林家では最年少、イコールまだまだお子様である自分が目にすることを許されているテレビや漫画やアニメ。その世界においては、いかにもラブラブな二人が共に床に入ったとしても、直後に舞台は暗転。何やらごそごそ動いているのであろうことはわかるのだが、次の画面では、なにやらやり切った感満載の二人の笑顔だったり、はたまた一夜明けた後窓辺から飛び立つ雀の声だったりに、いきなり切り替わってしまい、肝心な『何やらごそごそ』の部分がさっぱり伝わってこないのだ
「若林くんはいつも長袖長ズボンだからかな、ぼくより色が白いよね。顔以外」
「そうか?」
「あとね、思ってたよりやわらかい」
「…………」
脱いだシャツを畳むのをまじまじと眺めていた岬が笑う。いったいどんな肌触りだと思われていたのか
意外に柔らかいと称された腕をそちらに伸ばす。とりあえず抱きしめてみるのはどうだろう。まあ、いつものような服を着たままのハグと、なにが変わるのか分からないけれど。―――と、思いきや、まったく違った。なにが違うかって、いろいろだ
確かに本人が言うとおり、いつも半袖短パンで走り回る岬の腕や脚はよく日に焼け、細かい擦り傷などもあってすこしざらざらしている。それは知っていた。ただし、それを知っているせいなのか何なのか、常に隠れている箇所は白く柔らかく、すごくあたたかくて、心地よい。ぴったりくっつくと、伝わってくる心臓の音が、いつもより、びっくりするほど近い
「―――ふふ」
「あ、悪い……。重いか?」
「ううん、じゃなくて。 若林くんのベッド、やっぱりふっかふかだね! ぼく、一度でいいから寝転んでみたかったんだ」
「言えよ……」
「う~ん……。でもほら、言わなくてもわかってくれたし」
「…………」
夢中になるあまり、のしかかり過ぎてしまったかと思いきや、違った
そりゃ、言わなくてもわかるよう努力はしているけれど! 相手の如何を問わず十年間もめったに明かさないできたのであろう岬の本音のいろいろを、出会ってからまだ数ヶ月しか経っていない自分が言い当てるのは、なかなか至難の業だと思う。実際問題、そんなささやかすぎる願いに思い至ることは全くなかった。そもそもいま寝転がっているのも別に、ベッドのふっくら具合を満喫してもらうためではない
やりたいことをようやくこぼしてくれたついでに、いま、こうしたいとかああしたいとか言ってくれればいいのに、と思ったりもする。理不尽にもほどがある話だ。この状況に持ち込んだのは自分なのに
逆に考えれば。彼に頼らずやりたいことをするのが、この状況に持ち込んだ者としてのある意味責任というべきか。我ながら開き直りだと思えなくもないが
こんなときでもないと触れる機会がなさそうなところにキスをしてみる。驚いた顔でこちらを見たのはなんとなく分かったが、気づかなかったふりをした。首筋、肩、胸元と、唇が触れるたびに「ひゃあ」とかなんとか小さくもらす声は、いつもの、穏やかだけれどよく通る声とは全く別のもの。頼りなくて、儚くて、ずっと聞いていたいような。―――そのためには、どうしたらいい?
―――いや、違うぞ。さっきからなんだか色々ずれてきている。そもそもの前提として、「岬が少しでもいやがるようなことは絶対にしないさせない」。それが絶対的な行動規範のはずなのに。気がつけば、岬が身を捩るのを組み敷きベッドに沈み込むほどに押さえつけ、粟立つ肌に舌を擦り付けていた。あれは練習後のグラウンドでだったか、自分の腕を興味本位で舐めてみたときは、乾いた汗の塩味しかしなかったのに、岬の肌はなぜか甘い。どこもかしこも
「……くすぐったいよ……」
その声でようやく我に返る。しまったやり過ぎた。息も荒く舐め回していた自分に気づいたその瞬間、顔色があまりにも変わってしまっていたのか、岬は慌てたように続けた
「あっ。いやじゃない、んだ、けど……」
「けど?」
「…………。さっきから、なんだか……ぼくばっかりしゃべってる」
「そうか?」
「そうだよ」
「…………」
確かに岬のほうがよく喋っている、かもしれない
ただそれは、こちらが、唇というか舌で体の線を辿る作業に夢中になってしまっているから、相対的にそうなってしまっているだけだと思っていた。流石に、舌を出したままでは喋れない
「……ごめん。ぼくがうるさいだけだね」
「うるさいとか……岬、そんなことは」
「でも、しゃべってないと、なんか……。ぞわぞわがね、おさまらなくて」
「ぞわぞわ?」
「うん……。んっ」
ぞわぞわって何だ。思わず身を乗り出した瞬間、痙攣でも起こしたかのように岬の身体が跳ねた
「岬!? どうした!?」
「……ごめん、ほんとごめん。なんでも、な……」
「なんでもなくないだろ! いま絶対おかしかったぞ! 」
「~~~っ。い、いまあんまり、そのへん……さわらないようにして欲しいんだ、けど……」
「え?」
「えっと……。脚、というか……ちょっと上……?」
「脚? 上? ……あ」
そういえばなんとなくさっきから。臍のすぐ下あたりに伝わってくる感触が少しずつ変わってきていた、ような? はじめはくにゃりと柔らかかったのが、今は、こすれ合うたび、さりげなくこちらを押し返してくるような
「!! 見るのもだめだってば!! やだ!!」
重ねていた身体を起こし勢いよく毛布をめくるこちらの手を制止しようとするが、もう遅い。互いの体格差は伊達じゃなく、こんな時に生きてくるのだ
…………いや、おかしいだろ。なにがどうしてこんなことになっているんだ。必死に閉じようとする脚を押さえたまま、その間にある、見慣れた自分のそれよりもいささか小ぶりながらもきりっと屹立しているそれから目が離せなくなった。―――ら、ものすごい勢いで枕が飛んできた
「いつまで見てるのさ! ひどい!」
「あ、ああ…………」
蹴る方だけでなく投げる方も秀逸なコントロールを見せた岬は、体を反転させてとるものもとりあえずそれを隠した
確かにガン見し過ぎたそれはスミマセン。でも情報というか理解が追いつかないのだ。だってほら、それがああなるのは、病気でもなければ、確か
「いや、あの……。岬っぽくて、いいと思う」
「バカにしてる!?」
「してないって」
「してるよ! 自分がおおきいからって!」
「(しっかり見てんじゃねえか……)普通だろ、たぶん」
そう、そうなのだ。びっくりするくらいそうだったから、まさにいま自分のそれも元気におっ立っているわけで……えっとあれっもしかしてこれは
「もしかして……」
「なにっ」
「いや、その……。岬も、気持ちよかった……の、か……?」
「は!? 」
「……ええと」
「なんなのもう! いまそれ聞くの? さっきからずっとそう言ってるじゃないか!」
―――もしかしたらが、もしかした。そうかよかったのか。いろんな意味で
「あ…………、はい……」
「ぼくはくっついた瞬間からわけわかんなくなっちゃったのに! 若林くんはなんか平気な顔してるし! 」
「…………」
「だまってたら変な声出ちゃいそうだから、一生懸命しゃべって……でもやめてほしくなくて」
「…………」
「そ、そしたらっ……。おち、………は、なんかどんどん変になってくし」
「…………」
「頭の中、ぐちゃぐちゃだよ……若林くんのバカ」
「…………そっか…………」
駄目だ。俯いて誤魔化してはいるが、絶対笑ってはいけない状況なのに笑いが止まらない。あの岬が。何度か二人で過ごしたこの部屋のベッドに寝転ぶなどというささやかな望みすらあげてこないあの岬が! 返した枕に突っ伏しながらキレ気味に本音をぶちまけてくるなんて
可愛い。本人は不本意だろうけど可愛い。いつもそうだけど可愛い。本音を隠す余裕を失くした岬が可愛い
「好きだぜ、岬」
「……だからなんでいまそんなこと言うの……」
「なんでだろうな……」
可愛いなどと言ったら殴られかねないと思ったから、ではないことは確か
半ギレくらいには落ち着いたのか、こちらを伺うべく枕から上げた顔をまっすぐ見返すと、もう一度重なることを許してくれたかのように、体の強張りを解いた
つるんとしたおでこに軽く触れるだけのキスを落としながらのしかかり、許しを得た以上、今度は遠慮なく甘い肌を味わう。でもそれだけではもう足りない。右手指先を下腹部からすべらせ、さらにもっと下へと辿った
「んんっ…………」
何か言いたげなのも言いたいことも分かっている。だからこそ唇でそれを封じ込める
言葉のかわりに手足で抵抗しはじめたけれど、既にてのひらまでそこに到達していて、まだ固いままの茎を余裕で捕獲できた。上下に軽く扱いてみると、それに呼応して岬は体を震わせ、何かをこらえるようにこちらにしがみつく。唇を解放すると同時に大きく吐き出した息が熱い
「……わ、かばやし、くんっ」
「ん?」
「……なんで……っ」
「さっき、やめて欲しくないって言ってただろ?」
「い、言ったけど、そっちじゃなくて……っ。そっちは、だめ……だって……っあ! おかしくなっちゃう……よぅ……!」
可愛い岬の可愛い声。でもまだ実は余裕あるだろう? まだ先っちょしか濡れてないことは、さっきより握る力を少し強めた手から伝わってきているんだぜ?
まだ自分のものですら数回しか扱いたことはないけれど、それでも痛くならない力加減くらいは分かっている。赤く染まった頬も、息が上がってきているのも、痛がっているからというわけではなくて、我慢しているから。そうはいくか
「岬」
「ん……ぅ、な……に」
「出しても、大丈夫だから」
「……っだ、出す、って……。なにを……? ん、……っ」
「え?」
なにが出てくるって、この状況ではひとつしかないだろう白い方だ。白いといっても卵が出てきたりしないから安心しろよ―――そう口に出しかけて思い出す。そういえば、自分がその状態および処理方法を知ったのは、自分のクラスに男子のみが隣のクラスには女子のみがそれぞれ集められ、雄蕊と雌蕊がどうとかこうとか説明された時のこと。それは授業としての継続的なカリキュラムではなく、何度か突発的に行われた勉強会のみで、それっきり。転校による移動が極端に多い彼の場合、そのタイミングを悉く外してしまった可能性もあり、そしてこの反応をみるに多分それが正解だ
「……。あとで教える……」
「えっ……! なに……」
「出てからのお楽しみ」
「そんな……! あ!」
捻ったり、先端を弾いたり。まんべんなく弄り尽くしたかどうかのところで、悲鳴に近い声とともに、岬の体の震えが一瞬止まる
「っあ、ああ……っあ、あ、あっ………! わかばやし、くん……! ~~~~~~っ」
「お、……っと」
けれどそれは本当にわずかな瞬間のみのことで、再び腰をがくがくといっそう大きく揺らしながら、声にならない声を上げる。ほぼ同時に、弾けるように飛び出した白濁は、受け止めきれず少し零れた。ごめん、でも仕方ないよな。こっちだっていっぱいいっぱいなんだぜ? 肩で息してるところ申し訳ないけど
「……大丈夫か?」
汗ではりついた前髪を整えてやると、ぐったりとトーンが下がった返事がきた
「……あんまり……大丈夫、じゃ……ない……」
「だよなあ」
「だ、誰のせいだと……思って……っっ」
「まあ、おれのせいだな……謝る気はないけど。また、しようぜ。こういうこと」
「…………」
好きだからただひたすら優しく在りたい。そう思いながらも、けっして優しくはないやりかたで限界のそのまた先まで追い込み果てさせた、ただいま現在の達成感が、体中震えるレベルでやばい。好きなのに、好きな分だけ壊したい。息もできないくらい悶えて喘いで、最後の最後にはいつも自分の名を呼んで欲しい。そんな驚いたような真ん丸い目で見てるけれど、そんな気持ちがあることをおれに教えたのは岬、おまえなんだからな。その責任を求めても、バチは当たらないだろう?
「…………つ、つぎはもうすこし……ゆっくり、してね」
―――承知しました。
私が子どものころ、男女の体の仕組みに絡む性教育は、上に書いた通り、男女別場所を分けて通常授業(たしか道徳)をつぶして1時間説明を受けて終わりでした。今もそうなのかな?
岬くん、あれだけ転校を繰り返しているとタイミングによってはそういう機会を逃してしまったのではないかと思いついて書いたお話です