かわいいひと

「一応聞くんだけど、おれの名前言えるか」
「? 若林くん」
「そうじゃなくて、下の名前」
「源三くん」
「………………」

なにやら不機嫌そうな顔をして隣を歩く若林くんが、はあ~~~……と、あからさま過ぎるためいきをついた。えっ、合ってるよね? うん合ってる。それともまだちょっと引きずって歩いている足が痛むのかな。練習中、突然押しかけてきた小次郎のシュートにぴくりとも反応しなかったのは、やっぱり怪我の具合がよくないってことなんだろうか。さっき病院の前で鉢合わせたときは強がっていたけれど、本当のところはどうなの?

「もしかして、足が痛い?」
「痛くない」
「じゃあなんでそんなこわい顔してるの」
「…………なんで『くん』付けなんだよ」
「は?」
「日向のことは、小次郎って呼んでた」
「あ、ああ~~」

言われてみればそうだ。そういえば小次郎のことはなんで小次郎って呼んでるんだっけ。はじめは日向くんって呼んでいたような気がするけど、確か、小次郎が猛烈に拒絶してきたんじゃなかったかなあ? 『くん』付けなんて気持ち悪い、とか言って。どちらにしても、理由も覚えていないくらい、さしたる意味もないことなんだけどな。ていうか、ぼくたちが喋ってたの、聞いてたんだ……

「馴れ馴れしくしやがって。あいつ今度あったら泣かす」
「一発退場だよ」
「岬も岬だ。おれのことは『くん』付け、しかも苗字で呼んでるくせにどういうことだよ」
「う~~ん……」
「今だって、『源三くん』ってなんだよ気持ち悪いな」
「ええ……」

吹き出しそうになるのをがんばってこらえた。気づいていないだろうけど、嫌いなはずの小次郎と同じこと言ってるよ。それにさ、若林くんそれってもしかして

「……もしかして、ヤキモチ焼いてる?」
「そうじゃなかったらどう聞こえてるんだよ」
「あはは」

そういうの、隠さないんだ。うん、知ってた
若林くん、これも気づいてないんだろうな。いつもぼくのことを可愛い可愛い言ってくるけど、本当に可愛いのはきみのほうだってこと。いつもは冷静で、どっしり構えてて、頼れるぼくらのキャプテン。なのに、唐突に可愛くなる。ひねくれ者のぼくなんかよりも、ずっと

「でもぼく『若林くん』って響きも含めてすごく好きなんだよ。それじゃダメかなあ」

たまにきみにならって、ストレートに本音をぶつけてみるのもありなのかな。いつもなら絶対言わない『好き』の部分に動揺しながら、こっちをまんまるい目で見ている今のきみ以上に可愛くなる、自信も必要もないけれど