おやすみなさい
めったに集まることのない夜の時間帯に仲間が揃っているとなれば、必要以上ににぎやかになるのは至極当然のこと。敗戦直後の沈んだ空気はどこへやら、わちゃわちゃ過ごす消灯前のひととき、ふとポケットの震えに呼ばれて携帯電話を見やると、意外といえば意外な相手からの着信を示すランプが点滅していた
縦横無尽に飛び交う枕の矢をかわしながら、こっそり部屋を出る。宿の中庭で、他に人気がなさそうなのを確かめて、ほうっとひと息。心臓の音がすこし早まったのは、ここまで駆けてきたせいだ。きっと
「よう」
「どうしたの!?」
「さっき、話せなかったから。……岬も、おれの声を聞きたいかなと思って」
「…………」
「あ、冗談だからな? 切るなよ」
パネルの通話表示に触れると、耳に飛び込んでくる彼の声。自分よりもすこし低いその声は、離れてからまだ数日しか経っていないというのに、なんだかとても懐かしい
「今日はおつかれさま」
「ありがとう」
「シュート、すげえよかったぜ」
「ん」
「…………」
沈黙。おしゃべり好きとまではいかなくとも、いつもお互い話題は尽きないのに
通話口から顔が少し離れたのか、彼の部屋で流れている音楽がこちらに届いてくる。次いで、溜息
「……ごめんな」
「え。なんで謝るの」
分かってるけど、あえて尋ねた。だってそうしないと彼は本当の気持ちを言わない
「おれもあの場にいたかった」
「……うん」
「ちょっと……情けない。明和戦とか……肝心なとき、ケガなんかで動けない自分が」
「…………」
めずらしく、弱っている彼。昼間、試合直後の控え室で打ちひしがれる皆に宛て、激励の電話を架けてきたときとは別人のよう
けれど、そんなことになっているだろうなという気はしていた。だからこそ、いつもはカバンに放ったらかしの携帯電話をポケットに入れたまま、修哲VS南葛+@因縁の対決・枕投げバージョンで盛り上がる部屋から抜け出す機会をずっと伺っていて
いまどんな声をしているか、早く聞きたかったというのは、正解。じゃあうまい言葉をかけられるかといわれたら、難しいけれど。でも、これだけははっきりしてる
「……きみの存在が、みんなを頑張らせてくれてるんだよ」
たとえこの場にきみがいなくても
「…………サンキュ」
「絶対勝つから」
「ああ」
声にすこし温度が戻ったのを確認して、電話を切る。今度会うときは、決勝戦。だから、ぼくらを信じて待っていて
勝つよ。きみのために、ぼくのために
アニメ15話:森崎くん「いま、替わります」のシーンと、翼くん「うん」のシーンの、岬くんの表情がなんとも言えなかったので