青の行方

ささやかにしめやかに執り行われた父の通夜。まばらに訪れる弔問客に頭を下げながら、ここ一週間でぐっと線が細くなった母を支えるには。いや、この家は自分が支えていくんだ。そのためにはどうすべきか。ーーーそればかりを考えていた
色とりどりの花で飾られた祭壇や、それとは対象的な黒と白の幕で覆われた壁、部屋を包む静寂。その意味をいまいち理解しきれず、弟たちは無邪気に遊ぼうとする。人の流れが途切れたのを見計らって庭にふたりを連れ出すと、しばらくして、聞き覚えのある穏やかな声が背後から自分の名をなぞった

「小次郎」

そういえば、焼香の列に彼の父親と連れ立つ姿があった。労わるようになにかを話す親達のそのとなりで、何か言いたげにこちらを伺っていたことにも気づいてはいたけれど、そのときの自分にはそちらを向く余裕などなかった

「……来てくれてたのか。悪いな」
「ううん。……その、なんて言っていいか」
「…………」
「あのね」

彼は誰かと話すとき、相手が誰であろうとまっすぐ目を見る。たとえそれが、周りから恐れられている自分に対してであっても。華奢な体つきとは裏腹な毅然とした態度が、実は結構気に入っていた。それが今は、こちらを見ることなく、誰に話しかける風でもなく言葉を続ける

「悲しいときは、泣いておいた方がいいんだって」
「おれには泣いてる暇なんかねえんだよ」
「……そっか」

と、何かをこちらに押し付けてくる。手元を見ると、それはきっちりと四角に畳まれた白いハンカチ。どういう意味か、それくらいは分かる

「だから……! いらねえって言ってんだろ」
「ちがうよ。おでこに汗かいてるから。……尊くん、勝くん。向こうでおにいちゃんと遊ぼう」
「おい」

弟たちを連れて歩き出した彼は、こちらを見ずに言った

「またね」

落ち着きを取り戻すためにとったほんの少しの休み明け、再びチームに顔を出したときにはもう、そこに岬の姿はなくなっていた





「ーーー大事にする前に消えちまったんだよ」
「えっ」

明らかに借り物だと分かるそのハンカチにアイロンを当てながら、あのとき、母はひとことだけ言った。『友達は大事にしなきゃいけないよ』
渡されたときと同じくらいきっちりと畳んだそのハンカチは、弟と妹と共用で使っている机の一段め、唯一鍵がかかる抽斗にずっとしまってある

「なんですか、日向さん」
「独り言だ。走るぞ、タケシ」
「あ、はいっ」

わざわざ静岡まで偵察にやって来た目的とはまったく違うところで、思わぬ収穫があった。無事でやってるならそれでいい
帰りの電車の時刻に合わせ、いま大事にすべき相棒を急かして走り出す。来る時よりもむしろ軽くなったのが分かる足取りに、自分のことながら小次郎は苦笑した



この偵察のとき、タケシは出てきていませんが、グラウンドの外で待ってたと言うことにしておいてください……書いたあとで気づきましたすみません……