Putching pa po pe, everybody ……
うだるような暑さの昼下がり、突然アパートにやってきた若林くんは、ドアを開けるなりコンビニの白い袋をぼくに向かってにゅっと差し出した。中を見るとプリンとお皿それぞれ三つずつ。部屋に上げ向かいあわせで座り、麦茶をふたつ用意してからもなお、頭の上にハテナマークが浮かんだままのぼくに、若林くんは興奮気味に捲し立てた
「石崎が、このプリンを皿に出す瞬間がすごく楽しいんだが、贅沢すぎておばさんに怒られるって言ってたから、持ってきたぞ!」
そういえば、昨日の練習の合間にそんな話題になったことを思い出した。岬も頷いてたろ? って……。う、うん、確かにね。お皿の上で、崩れそうで崩れない微妙なバランスを保ちつつぷるぷるしてるのを眺めるのは、楽しいといえば楽しい。ただ、贅沢っていうのは……お皿を洗う手間が増えてめんどくさいからってことだと思うんだけどな……お母さん任せにしないで自分で洗えば万事解決するやつ……
「うちでは、プリンを食べるにしても最初から皿に載って出てくるし、買って試したいと言ったら……デザート係のシェフをクビにするしないの大騒ぎになった」
「…………」
プリンひとつで誰かの死活問題になる世界っていうのも大変だ。だからうちに来たってわけね、ご丁寧にお皿まで持参で。それはいいんだけど、デザート皿じゃなくてティーカップの受け皿じゃないのかなこれ。表はカップの足の幅・円形にくっきりと窪んでいて、裏を返せば『でもこれ、お高いんでしょう?』と尋ねたくなるようなロゴがプリントされたその下に『Tea』って書いてあるし
じゃあ、とりあえずやってみなよと勧めてみると、いそいそと蓋を剥いてひっくり返してお皿に伏せて……なぜか正座でそのまま待機。細かい説明書きとか読まないタイプなんだなあ、と意外な一面を発見したところで、ようやく何かに気づいたらしい若林くんが訝しげな顔をしてこちらを見た
「……出てこないぞ」
「ここのツメを折るんだよ」
「ほう」
「やってみるから見てて」
若林くんは、卓袱台に突っ伏すようにしてお皿と顔の高さを慎重に合わせた。それを見届けて、いざ、容器裏の爪を折ってやると、CMで見るお手本映像に寸分違わずプリンが滑り落ちていき、その動きに従って、お皿とカップの間にまっすぐ向かっていた目線も降りていく。そのまま瞬きもせず固まっている若林くんの姿勢を戻させ、ゆっくりと容器を持ち上げると、圧迫からリリースされたプリンが文字通りプリンと皿の上で跳ねた。……なんできみまでぷるぷるしてるの……
「ここから空気が入って出てくるわけか……よく出来てるな」
ひとしきりプリンと一緒に震えたあとで、容器の裏とプリンをまじまじと見比べながら若林くんは感嘆のためいきをもらした。うん、そこまで感動してくれると、メーカーさんも冥利に尽きるんじゃないかな。そんなきみの感動と企業努力を無下にするようで申し訳ないけど、ぼくはカラメルソースを最後に食べたい派だから、カップのままでいいんだけど……よかったんだけど……
「こっちも、やってみなよ」
「いいのか!?」
もうひとつぼくのために置かれていたプリンとお皿を差し出すと、若林くんは目を爛々と輝かせながらおもむろに爪をプッチンと折った