シンクを磨きあげながら
今夜のごはんは何にしようかな、と考えるこの時間は
あなたのいない、ちょっぴりさみしい時間のうちでは
いちばん楽しい時間
家を造るとき、そんなに贅沢しちゃいけない───そう、頭では判ってたけど
キッチンの設計だけは、どうしても妥協できなくて
ワガママ言ったわたしを許してくれた
ごはんの支度をするときも、いつもあなたを見ていたいから
ダイニングに向けて設置したこのシンクは
ゆったりと広くて、その分お掃除もタイヘンだけど
顔が映るくらい、丁寧に、丁寧に磨いていく
おかしいかな
映った顔は、みっともないくらいにやにやしてるの
こうして「夫婦」のかたちになるまえから
わたしの出すお料理は、いつもきちんと残さず食べてくれてたけど
最近、ちょっぴり食べるスピードが速くなった気がするのは
ちょっぴり自信を持っていいってことなのかしら
和食派のあなたが、いちばん好きなお味噌汁の具は
わかめとお豆腐
沸騰しないように、でもアツアツにあたためて
テーブルに出すその直前に、パパッとおねぎをふる
七味をひとふりすると、風味が増しておいしいってことは
あなたが教えてくれた
トン、トン、トン……
朝が苦手なあなたが、寝ぼけまなこで階段を降りてくる足音
あなたが席に着く、そのタイミングを見計らって
コンロに火をつけ、おねぎを刻む
たまにキッチンに寄り道して、ぎゅっと抱きしめてくれたりするから
あたため過ぎちゃうこともあるけど
うれしいから、それもオッケー
キッチンは、女の城っていうでしょう?
あれって、男子厨房に入るべからず、すべて女性にまかせなさーい!
って意味もあるのかもしれないけれど
わたしにとっては
あなたのことだけ考えていられる、素敵な空間───それがキッチンなの
もうちょっとだけ、磨いたら
そろそろお買い物にいかなきゃね
今日のごはんのメインは
夏も終わりに近づいて、脂がたっぷり乗ったさんまの塩焼きに
大根おろしをたっぷりと
かぼすもきゅっと絞ろうかな
小鉢は、これだけは自慢できるお料理───きんぴら
ごまをふって、香りよく、いただきましょう!
愛情たっぷり、しあわせごはん
広めのお城にこもって、きょうもあしたもあさっても
ずっと届けていくつもりだから
──────どうぞ、召しませ