「鈴世―――っ。お茶にしましょ―――っ」
「は―――い」
カチャカチャとケーキを三等分に切り分けながらその名を呼ぶ声に従って
鈴世が居間へとやってくる
その手元には
「あら? 鈴世、それ……」
「うん。おとうさんとおかあさんから、また手紙〜」
苦笑いしながら鈴世は、今、郵便受けから取って来たばかりの封書を差出し
それを眺めていた俊の隣にぽすんと腰掛ける
そう、今現在、望里と椎羅は旅行中なのであった
そろそろ肌寒くなってきた日本を脱出して、常夏の島・ハワイ
コテコテの観光客よろしくアロハシャツを身につけ真っ黒に日焼けしたふたりの写真もご丁寧に同封してある
その写真にはさほど興味なさそうに、鈴世は目の前のケーキに食いつく
「う―――ん。まさかペアルックまでしちゃってるとはね〜
あっ、いただきま―――す」
「はい、どうぞ
……やだ、もう、おとうさんもおかあさんも……新婚旅行みたい……」
ちょっと恥ずかしいけど、見る? 真壁くん……」
「………」
……確かにこれは恥ずかしい
とは、流石に口が裂けても言えないが
このふたりの場合、そんなこっ恥ずかしさが妙に馴染んでいるのが不思議だ
そんなことを思いながら俊は、手渡された写真をじっくりと眺めてしまう
「あっ。そういえば!
あのときも、おねえちゃんてばおかしかったよね〜。ニヤニヤしっぱなしでさっ」
「え」
「り……鈴世っっ!?」
写真を眺める俊の姿をじっと見ていた(正確にはその姿を通して何か別の風景を思い描いていた)蘭世は、突然上げられた鈴世の声で我に返る
――――――あのとき『も』?
「そりゃね───、おとうさんおかあさんがラブラブで旅行に行ってたりしたら
やっぱりおねえちゃんはおねえちゃんで色々考えちゃうだろうけどさ───」
「キャ───!!」
真っ赤になりながら蘭世は、絹を切り裂くような叫び声を上げる
「んもう、鈴世のバカ! あっち行ってなさい!」
「あいたっ。エヘヘ、ごちそうさま〜っっ」
「…………」
蘭世のぶん投げたクッションやらスリッパやらを背に受けつつ、鈴世は
舌をぺろっと出しながら退散する
意味ありげな視線を俊のもとへと送りながら
「ご…ごめんね、あの子ってば余計なことばっかり口が回って……
ほんと、やんなっちゃうわよね、最近の小学生って……」
「いや……」
その一部始終を黙って見ていた俊の存在をようやく思い出したかのように
蘭世は乱れた前髪を手ぐしで直しながらひきつり気味に微笑む
ぱたぱたと火照った頬を扇ぎながら、ちょっぴり冷めてしまった紅茶をひと口
こくんと飲み込むのを待って、俊はおもむろに本題に入る
「おやじさんとおふくろさんが行ってた旅行って……」
「ああ……、ルーマニアよ。ほら、わたしが真壁くんの夢の中に入っちゃったとき……あっ、あの時は失礼シマシタ」
「や、別にそれは……」
――――――道理で気づかなかったわけだ
あのときは、眠りにつくたびに訪れた得体の知れない夢にとらわれていて
正直、周りなど―――蘭世の行動すら、全ては―――意識を向けることができておらず
「うん……エヘ。でね、そのときふたりから絵はがきが届いたの。……これなんだけど」
棚から取り出し手渡された葉書には
ふたりの楽しげな旅路を満面に映し出す文面と
色とりどりの季節の花が咲き乱れる異国の風景
「すっごく、綺麗でしょう? ちょうど季節がよかったのかもしれないけど」
「…………そうだな」
「り、鈴世はわたしがニヤニヤしてたとか言ってるけど、別に変な意味はないのよ! ホントよ!」
一瞬垣間見えた、遠くを夢見がちに臨むような表情とは裏腹に
蘭世は、先刻までの会話を必死になって否定する
否定されればされるほど、却ってあやしいというか
今更否定されたところで、鈍い鈍いと自覚がある自分でも流石に
心を読むまでもなく深意を掴むことくらいできるというか
そしてそれは他でもない自分自身もまた胸の奥に秘めた望みでもあり
「───わかった」
「!!」
飛び上がらんばかりの勢いで肩をびくんと震わせ、見る見るうちに頬を紅潮させながら
蘭世は俊を凝視する
ドキドキドキ、と、うるさいくらいに聞こえてくる心臓の音
何が『わかった』なのか、量りかねながらも
何かをわかっていてほしいと期待するような、でも一方で、今にも緊張のピークに達してしまいそうな
思わず苦笑しそうになるのをぐっと堪えつつ、俊はさらりと言い放つ
「……おまえ、ドラキュラ城見たいんだろ。吸血鬼だけに」
「ふえ!? そ、そりゃ見たい、けど……」
そこじゃないっていうか
ちょっと、違うんだけど…なあ………
蘭世の、張り詰めていた緊張感がすうっと解け、胸のうちが一気に落胆の色を強めていくのが、面白いように見てとれる
緊張しまくっているときに、追い討ちをかけるような台詞を口にするよりも
その緊張がふと緩んだときに、一気に畳み掛けるように決定打を撃つほうが効果的
そんな駆け引きの常套手段を駆使しているつもりが、本当のところは
梯子を外して一瞬の余裕を持ちたかったのは自分のほう
「……まあ、流石にルーマニアは無理だけど……」
「うん?」
いつか いつか とはずっと思っていたこと
けれど、それをいざ口にするということは全く違う次元の問題だから
ただでさえ巧く回らない舌を滑らかにするには、そんな小手先の手段が必要不可欠で
「どっか行くか
――――――今度の土日で」
「え」
『土日』
単数ではなく複数を指定する、はじめての誘いに
蘭世が思わず顔を上げた頃には
俊は既にそっぽを向いていて
予防策を弄したにもかかわらずやっぱり赤くなった頬を隠すのに精一杯になっていた
* * * * *
すみません…
その機会を『いつか…』とひたすら狙っていた というのが
ツボに入ってしまいまして(萌えツボ・笑いツボ共に)思わず書いてしまいました…
イメージを崩していないといいのですが(^^; …ルーマニア行ってないしな…
この回答をいただけた方だけでなく、もちろん他の回答をいただけた方
そして参加いただけなくても、このへっぽこな企画を覗いてくださった皆様(次は参加いただけるといいなあ…v)
本当に、ありがとうございました!
これからも、よっしくです!!