ねえ、ちょっとだけ、いいでしょー??
そんな台詞に乗せられてうっかり封を切ったのが運の尽き。
世間の流行に従ってなんとなく買ってみたヴォジョレ・ヌーボー。
かぱかぱと良い飲みっぷりで、一瓶まもなくあけてしまいそうな勢い。
家で飲んでいる(=いつ倒れても大丈夫)という安心感も手伝って、
へべれけ、舌っ足らず。意味なく一人でけらけらと笑っている。
……こいつの「ちょっと」というのは……一升瓶単位か?
横目で眺めつつ、俊は缶ビールをちびちびと飲んでいた。
「きゃ〜ん、おいしいねー。良くは知らないけどお、
確か今年のは、何年かに一度のいい出来なんだよね〜♪」
ぐびぐびぐび。
漫画のような効果音が聞こえてきそうなほど豪快にグラスをあおる蘭世。
飲んでる時にまで大人しくしてろとは言わないけれど、
美味そうに飲んでるからいいんだけど……
変わりすぎだっつーの……。
深く、ため息。
「ねえねえねえねえ、真壁くんは、飲まないのお〜?」
「だあっっ!!」
いきなり蘭世が背中からぺっとりと抱きついてきた。
不意打ちの攻撃に、缶ビールを取り落としそうになる。
お互いパジャマなので、身体の温度も凹凸もじかに背中伝わってくる。
……こいつ、こんなに段差あったっけ。
一瞬のうちにあんなことやこんなことを考えてしまい、頬が赤くなる。
とはいえ。
「い、いや、俺は……こっち、のほうがいいんだよ」
と、平静を装い手のなかの缶ビールを揺らす。感情をごまかすのは昔から上手い。
「え〜〜〜。そうなのお〜〜〜???」
もそもそもそ。くっついたまま俊の正面に回る。
「んふふふふ〜。」
「〜〜〜〜〜っっ。」
顔をまともに見つめられ、なんだか心の中まで見透かされそうな
気がして思わず目をそらす。
「じゃあねえ〜〜、名前で呼んでよ〜。苗字で呼んだら罰ゲーム〜〜♪ にゃははははっっ」
「ああ!?」
何の脈略もなく言い出す蘭世。
「今からねっっ。スタート!!」
「なんじゃそりゃ! おい、江……」
「ブ――――――! はい、真壁くん、罰ゲームで―す♪」
と、細い指を俊の髪に差し入れ顔を固定し、口付ける。
重心が崩れ、思わず腕を床につけて支える。
ちょっと苦手なワインの味。
「……酒くせえ……」
「ふふっ。真壁くんてば、照れてる〜〜〜♪」
俊の赤い頬にふれたまま、からかい口調の蘭世。むにーっっと、俊の頬をつまんで
引っ張り、やっぱりけたけた笑っている。
「うるせえなっっ。じゃあ、お前も呼んでみろ!今からな、ほれっ」
「駄目〜〜〜! これは、真壁くんだけの決まりなの〜〜〜」
「んなの知るかよ。速攻で苗字呼んだから罰な」
するりと蘭世の手をはずし、肩を引き寄せ、今度は俊から唇を奪う。
軽く噛み、舌を絡ませる。ぴくん、と蘭世の身体が震えるのが判る。
鼓動を20数えたところで唇を解放。
かくんと力なく崩れ、テーブルに背中をぶつける蘭世。
「うわ!? おい、大丈夫か!?」
「……痛……」
慌てて抱き起こす。その俊の腕に合わせてぬいぐるみのように
ゆらゆらした動き。さらりと長い髪が散る。
「わ、悪い。まさかこんなことになるなんて……」
「……だい、じょう、ぶ」
背中をおさえながら笑う。「にっこり」というよりは「でへへ」。
……安心していいのかどうなのか……。
「とりあえず、見せてみろって」
「んんん〜。いいよ〜〜。ところで、真壁くんって〜、ワイン、苦手だっけ?」
「は? ……いや、あまり飲んだことないから判んねえ、けど……???」
「……ふうん……??」
その言葉ににやりと笑い、テーブルの上の、中身がほんの少し残った瓶を手に取る。
「……あああっっ! 私、『真壁くん』って呼んじゃったぁ!! お仕置きだねっっ」
大げさに驚いてみて、蘭世はそのワインを瓶から一気に口に含んだ。
豪快なラッパ飲み。口元から一筋のワインが漏れ、喉から鎖骨にかけてのラインをすうっと滑り落ちていく。
いたずらっぽい瞳で俊をみつめ、それを閉じ、俊の次の行動を待つ。
完全に、手玉にとられている。駄目だ、今日は勝てそうにない。
苦笑しつつ、俊は蘭世を抱きかかえて膝で立たせ、一度顔を見上げてから唇を寄せた。
「……いただきます……」
……流石、ここ10年最高の出来。