パニックになった、自分の住む世界。そこに彼たちが、
残っているごくわずかの「まともな者」を救うべくやってきていた。
───やっぱり、覚えてないのね……
まあ、記憶も消していったし、生まれ変わったとも聞いてるし、仕方ない、けれど……
サリは小さくため息をつき、その他大勢の一人になってついて行く。
久しぶりに会った彼女は、くるくる変わる表情を全て捨て、ソファで眠りつづけているという。
「あ…………」
あの実の効用。たった一口がこんなにも蝕んで……
言葉を失ったサリのすぐ横を通り過ぎ、人形のように力なく眠る彼女を抱き上げ、俊は言った。
「へやにつれていきます」
そのしなやかな行動に、一同息を飲む。そしてサリも……
パタン。静かに閉まるドアの音で我に返り、サリは俊の後を追った。
彼女の部屋は二階の奥。
息を殺し、中の様子を伺ってみる。
「…………」
俊が彼女のワンピースを解き、寝着に着替えさせようとしているところだった。
俊の背中越しに、彼女の白い肌が見え隠れし、自分も似たようなものを毎日見ているのに、何故かどきりとさせる。
いや、正確には。
サリの目をひきつけてやまなかったのは、二人の、調和。
寝着を着せながら俊が、静かに強く抱擁し、彼女のうすい胸元に口付けたその瞬間を見てしまったから。
窓から差し込む光が俊の髪を明るく照らす。
あまりに綺麗であまりに自然な動作で、体中が震えた。
ああ、この人は彼女を本当に愛している
その想いを垣間見てしまった気がした。
ううん、本当はずっと知っていたのだけれど。
最初に会った時から。
自分の誘惑にも屈せず、距離を置いて眠ったあの夜から。
その火はあの時は小さな頼りないものだったけれど、今は激しく猛る炎となって、サリを焦がす。
……判ってたはず、じゃないの……。
一筋こぼれた雫をわざと乱暴に拭い、自分に喝をいれてみる。
えい。手をぎゅっと握り、俊が彼女をベッドにもぐりこませたのを
確認してからサリは、目の前のドアをノックした。