「へやにつれていきます」
彼の動作があまりにも自然で、
まるで映画のワンシーンのように傍観してしまった自分がいた。
……入り込む余地なし、ってことかよ……
頭をかいてみる。
初めは、無茶苦茶なことをいう小娘だと思ったのが、
「感謝のしるし」のキス。それだけで自分をとりこにした。
黙々と「仕事」をこなしていただけの、冷え切った心に
ほのかに灯りをともした彼女は今、彼に抱かれて階段を昇っていく。
未練、かもしれない。
一つため息をつき、ジョルジュはその後を追った。
彼女の部屋は、二階の奥。
ふと見ると、扉の前に一人の女が立っている。
あれは確か……夢魔……。
死者の魂をとりあげ、この世との接点を絶ち切る自分───死神と、
その寸前に安らかな夢を与え、「死」への苦痛を和らげる、夢魔。
共に仕事をしたわけではないが、少なからず接点はあったので知っていたのだが、
その中でも、その物腰の美しさと術の正確さで、彼らの世界でも噂の高かった女……サリ。
なぜ、あんな所に立っているのだろう。中に入っていけばいいのに。
と、自分もそこへ向えばいいものを、しばらくそこで見ていると、突然サリはがしがしと自分の目元を拭った。
ジョルジュは踏み込もうとした階段の最後の段を踏み切れずに再び壁に隠れてしまう。
……涙……?
そういえば、以前、サリがもう一人の王子の刺客となって
彼女らのもとへ向ったという話を聞いたことがある。
……もしかして……。
邪推かもしれないけれど。勘違いかもしれないけれど。
自分と同じように……
両拳を握り締め、えい、と気合い。
そのまま静かにサリは部屋へと入っていく。
「…………」
それを確認し、ジョルジュは自らも静かに部屋の前へ向かう。
中には入らず扉にもたれ、そのまま様子を伺うことにした。