心地よいまどろみから目を覚ますと、となりで眠っていたはずの彼女は
毛布を抱えて起き上がり、カーテンの隙間から外を眺めていた
一人用の、せまい布団の上でのこと。あらためて近づこうとしなくともその距離は充分近いのではあるが
さらにもそもそと身を寄せると、彼女はすぐさまそれに気づき、慌てたように言った

「……あ。ご、ごめんね、起こしちゃった?」
「いや……。どうかしたのか」
「ううん……。星が見えるようになったかな、って」
「………………」
「すごく、キレイ……」

そう言って彼女は、再び窓の外へ目をやった

彼女の家へ迎えに行ったころは、生憎の曇り空だった
そして、汗ばんだ肌を寄せ合いながら眠りについたころ、カーテンの隙間からは、眩しいほどの夕陽が差し込んでいた
時が経つのと並行して晴れていったのであろう空の行く末を、気にする理由は判らなくもない
なぜなら今日は、七夕だから

彼女が望んでいたとおり、夜空は星たちをこれでもかと言わんばかりに散りばめていたりするから
目を奪われる理由も判らなくはない
けれど別にだからといって、とりたてて今日の星だけがいつもと変わって見えるわけではないし、それ以前に
星が見えるかどうかなんて、久しぶりに会った今夜のような日においては、どうでもいいことではないか

───と。久しぶりにしか会えないのは誰のせいなのかを、棚の上、奥深くにあげながら俊は思った
だったらそれに代わるような、彼女の意識をこちらに向けさせるような話題をふれば済む話なのだが
そんな術はいまだ持ち合わせないままだった
白くやわらかなその肌を貪り、あますところなく味わった直後である今も(勿論その最中も)
それを誉め讃えるような気の利いた言葉ひとつ囁くことすらできない

自分の持ち合わせた拙い語彙では、賛辞も、所謂恋心とかいうものも、正確に言い表わせないから というのは
所詮言い訳にしか過ぎないのだということも、充分すぎるくらい判っているつもりなのだけれど
結局口をつぐんだまま俊は、なんとなく彼女に続く形で起き上がり、窓の外を眺めた
もっとも、眺めてみたところで、たとえば一等星と三等星のどちらがより明るいのか
そんな基本的なことすら危うい知識の下では
例のふたりがどこに位置しているかなんて、見つけられよう筈もないのだが
───それにしても


『一年に一度のみ』

長いな、と思う


もし、自分が牽牛とやらの立場だったら。そんな、響きで決めたとしか思えない月日や神の啓示を
黙っておとなしく待つことなど、性格上きっとできないだろうし
不貞腐れて全てをあきらめてしまったあのころとは違って
何が何でも会いに行く、つかまえる、あるいはかっさらって逃げる手段を探すのだろう

探して探し尽くして、それでも駄目だったりしたら、下手すると気を違えてしまうかもしれない
たった二週間ほど(“たった”とは思い難いのではあるが)会えなかったそれだけで
彼女の意識が他に向いていることに、少なからずむっとしてしまっている今の自分が、そのいい証拠だ

常に、自分を一番に
そう言ってしまえば。彼女のことだからむしろ、飛び上がらんばかりに喜んでくれるであろうことも
判っているつもりなのだけれど
結局口をつぐんだまま俊は、彼女を後ろから包み込む形で抱きしめた
互いに余裕のない瞬間の、しっとりと吸いつくような肌もいいけれど
一時おいて、さらりと乾いた肌もまた、心地よく俊の胸を受け止めてくれる

「…………エヘ」
「うん?」
「こう……くっついてくれるのって、嬉しい……」

胸元に回した俊の腕に腕を絡めてきた彼女の表情は、改めて覗き込んだりしなくとも、判った
けれどここで、相手(自分)にも判りやすいような言葉をきちんと残すところが
彼女と自分との差なのかもしれない。それこそ、一年に一度しか越えられないあの川のような

とはいえ。架空の存在と我が身とを重ね、本気で考え込んでしまうあたり
少なからず自分は、その一部において、彼女の影響をきっちりと受けているということなのだろう、けれど

───うっかりその分野を受け継いでしまったら、色んな意味で歯止めが利かなくなるな

よりわけた長い髪とは対照的なまでに白い首筋に唇を当てながら、俊はこっそりと肩をすくめた