蘭世は俊の上に重なり、胸に耳を当て俊の規則正しい鼓動を楽しんでいた。
俊の手が長い髪をなで、よじれてしまった毛布を蘭世の背にかけなおす。
もう深夜。二人の瞼が重くなるまで。暗黙の了解で
つかの間の語らい。


「……昼間、二人で公園に行ったじゃない?
そのとき、幾つ位かなあ……ちっちゃい男の子がお母さんとお砂遊びしてたの覚えてる?」
「ん? ……ああ、3歳くらいの、トサカみたいな頭してた子供のことか?」

よちよちアヒル歩きで母親のあとを一生懸命くっついて歩いていたのがとても印象に残っていた。

「……うん。」

じっと目を見る蘭世。

「?」
「……真壁くんは、子供、どっちがいい?」
「はあ!?」

顔から火の出るようなプロポーズも、
(みんな周知の事実とはいえ)お披露目も終えたというのに、蘭世はまだ俊の事を『真壁くん』と呼んでいた。
ご多分にもれず、俊も蘭世を『江藤』扱いだったのだが。

「……………………。男、……かな」

それまで神妙だった蘭世の顔がぱっと明るくなる。

「そう!? そうよねっっ!! 親子でキャッチボールとかできるし!
お休みの日にはねえ、お弁当持ってピクニックとか行こうよ!! ふふ。楽しみ〜〜!」


なんだこの異様な盛り上がりは。
俊は自分の胸に浮かんだ素朴な疑問をぶつけてみた。


「……それは、女じゃ駄目なのか?」

ぴく。

「別にピクニックやらキャンプやらは、娘だとしても十分楽しめると思うけど」

ぴく。ぴく。
小動物のような動きのあと、しばらく沈黙。
そして深く長いため息。

「……笑わない?」
「は?」

また神妙な面持ちになった蘭世がようやく言葉を紡ぎだす。


「……あのね。女の子が、生まれても、真壁くんは……わたしのこと、いちばん好きでいてくれる?」
「…………」


絶句。
……の後、俊は胸の上の蘭世がずり落ちるほど大笑いした。

「いや〜〜〜! やっぱり笑った〜〜〜!!」
「……そ、そりゃ笑うだろ……」

涙が出る。腹筋が痛い。

「〜〜〜もう〜〜〜〜!! 女の子にとっては大切なところなんだから〜〜〜!!」

き〜〜〜っっ! 蘭世は俊の髪をぐしゃぐしゃにかきむしる。

「……は、は……判ったって。……ぶふっ」
「う〜〜〜っ」

まだ笑い足りないところだが、とりあえずこらえてみる。
俊は胸の上の真っ赤っ赤な額に優しく口付け、

「……沢山産んでくれよ、奥さん」

と、蘭世の細い割に安産型のお尻をぽんぽん、と叩いた。