チョコレイト・ディスコ

クラス別の靴箱に向かった彼が、靴を履き終え戸口に小走りで向かう蘭世を出迎えたとき、鞄以外何も持っていなかったはずのその手には荷物が増えていた

「──────あ」

と、だけ口をついて出た。俊の手の中、もてあまし気味にされているその正体は問いかけるまでもない
鮮やかな色彩の包装紙、ひらひらと飾るリボンやシール。そう、今日という日に付随するイベントのアレだ
教室を出て、靴箱でいったん別れるまでの道程において、鞄の膨らみ具合やコートのポケット等を、悟られないようさりげなく、且つ、めざとくチェックした結果、ジャッジは「異状なし」だったのだが、最後の最後で敵の砲撃を受けたということらしい

「…………下駄箱に入ってた」
「そ、そうみたい……だねえ」
「………………」
「……って、ええっ!?」

そんなことは見ればわかる。とも言えず、曖昧に笑うだけにとどまりかけた蘭世を尻目に俊は、戸口脇に備え付けのごみ箱の方へ歩みを進めた
彼の手から放れた赤、青、金色は、自重にまかせ華麗にゴールインする───はめになった寸前のところで、咄嗟に伸ばした蘭世の手によって救出される

「……なに」
「なに、って……。いきなり捨てるなんて」
「ああ、ここじゃまずいか。本人に見つかる可能性もあるな」
「いや、あの、そういう意味ではなく!」
「………………」

無言で俊は蘭世の手からそれらを取り、歩き出す
いつもより若干早足で進むその背中を眺めながら、蘭世は、じゃあどういう意味なのかと問われたら困るなと思った






単純に、反射のみで身体が動いた
けれど
純粋に、たとえば顔も知らない贈り主たちの気持ちを踏みにじるようなことがあってはならない などとは思っていない
彼のとなりという場所を明け渡すつもりは微塵もない、且つ、彼のとなりという場所に存在しえるのは自分のみという確信には、一分のぶれもないのだから

とどのつまりは、勝者の余裕といったところか
しかも彼には「ここで留める私ってば優しいでしょう」とでも言わんばかりの、偽善極まりないアピールのおまけつき

「(───やな子……)」

それは決して彼のせいではないのだけれど
彼が絡むと自分はひどく貪欲になる
彼をひとりじめしたい。彼に思われていたい。───他のなにかを踏み台にしてでも
先刻までの流れは、その最たるものだ






「…………本人の了承もなく勝手にことを起こすような奴らのために、そこまで悩まんでもいいと思うけど」
「えっ。……あ」

読まれていた。というよりは、またしても自分は彼に聞こえるほどの大声で考えてしまっていたらしい

その声に、不自然な角度で俯いてしまっていた顔を上げると、彼はこちらを振り返った姿勢で立ち止っており、例のブツを道路沿いに設置されたごみ箱へ納めたところだった
今回ばかりは心情的にも、そもそも物理的にも阻止することはできず、無機質なごみの最上部に無事(?)鎮座したそれらは、ひときわ色鮮やかに映えて見える

「大体、くさい靴と同じ場所につっこんだ食いもんを、相手が喜んで食うかもとか思ってる時点で、頭おかしい」
「………………」

いやそれはそれで古き佳き時代からの伝統的様式美というか何というか。かよわき乙女の一員でもある蘭世としては、そういった行為を全否定されてしまうのは、いささか複雑な心境でもあったりするのだが、それでも

ああやっぱり自分は貪欲だ。彼が自分以外のものを否定することを喜んでいる気持ちが確かにあるのだから
頬の筋肉が緩むのが分かる。心なしか仏頂面だった彼の顔も、苦笑交じりの表情になり、おもむろにこちらを指差し、て──────

「……だから、その、さっきから大事そうに抱えてるその紙袋の中身は食う。さっさとよこせ」
「!!」






HAPPY VALENTINE!