江藤家の庭は、季節の花が咲き乱れて、こんな状況下でも、ほのかに安らぎを与えてくれる。
サリは、誰にも顔を見られたくなくて、窓から見えていた、立派な庭木のもとへ小走りで向っていた。




「…………あ」

先客がいる。
黒いマント。あの形は……死神?

「……よお」

黒いマントが振り返って微笑む。豪奢な長いウエーブの髪が揺れる。

「……ジョルジュ……?」

「お、おれの名前を知ってくれてるとはね。光栄です。サリ」
「そりゃ、知ってるわよ。死ぬ予定だった者を生き返らせたなんて、前代未聞だもの」

すこし紅い目を、そむけながら答える。太陽もまぶしい。

「あ〜〜〜。そっちの世界にも知れ渡ってるわけ。……はっきり言うね。」

頭をぽりぽり。人のよさそうな笑顔。


「……で、ベソかきに来たの?」
「!! 何いってんの!?」

いきなり図星をつかれ、こぼれそうだった涙もすっかり引いてしまう。
何!? いきなりこの物言い!?
……という気持ちが視線に出てしまっていたらしい。
ぷっ と死神が吹き出す。

「ああ……悪い。口が悪いのは生まれつきでね。判りやすいな、あんた」
「……う」
「まさかここに駆けてくるとは思わなかったからさ。悪かったよ邪魔して。
ここの庭、やたらとだだっ広くて、こんな奥だからきっと誰もこないぜ。
おれは消えるから、好きにしな」

と、腰を浮かせ、マントについた芝を払い落とす。


「ちょっと待ってよ! あなた、何か誤解してない!?」

『誤解』ではないけれど。何も知らないはずの相手の台詞を認めるわけにもいかず、虚勢をはってみるサリ。
それを一瞥し、複雑な表情でジョルジュが口を開く。

「おれが今日あんたを見たの、初めてじゃないんだよ。
……見ちゃったんだわ。蘭世の部屋のドアの前のあんたのこと。一部始終」
「な……!」
「好きだったんだろ、あの王子のこと」
「……やめて!!」

一瞬にして顔が赤くなる。





―――正直、ジョルジュは驚いていた。
確証もないし、カマをかけてみたつもりだったのだが、ビンゴとは。

「……何いってんのよ?あれは中であんまり
ラブラブよろしくやってるから、入りそびれただけよ!」

言葉と裏腹に、かなりの勢いで大粒の涙がこぼれている。

「あ……」
「そ、それに! あなただって、何気に蘭世にまいってたんじゃないの!?
確か、人間を生き返らせたのって、蘭世がらみって聞いたわよ!」
「!」

いきなり反撃がヒットして、思わず顔が赤くなる。

「え」
「〜〜〜〜〜」
「あ……なたも、なんだ……」

拍子抜けした顔で、くったりと芝生に座り込むサリ。

「あー、その、何だ……」

ぽりぽり鼻を掻きながら立ち尽くす彼のマントをくいくい引っ張る。

「……まあ、座りなさいよ」






「けっこう、本気になっちゃったのよね。あの時。
だから任務もツメが甘くなっちゃって、蘭世にばれたんだけど」

いきなり遠い目をして語りだすサリに、ジョルジュはなんだか圧倒されてしまう。
……なんだ案外元気じゃねーか。

「さっきだって、夢の中に閉じ込めて、そのまま持ち逃げしてやろうかと本気で思っちゃった」
「怖っ!!」

かなり過激な発言。本当にやりかねないところが何ともはや。

「でもまあ、限界ってのがあるわよねー。あの二人の中には到底入り込めない! 見せつけられちゃったわ―」
「…………」

その、妙な明るさがとても気になってはいたのだけれど。

「ふふ。だからこそ、一肌脱いで、お助けサリちゃんになってあげたってわけよ。健気でしょ!?」
「あのさあ」

こちらを見ずに返事を求めずに喋りまくるサリ。
……これはやっぱり……

「判んないでしょーねー。こんな『乙女心』なんてかわいらしいものー」
「こういうときは泣いてもいいんじゃないの?」

すでにかみ合ってない会話。

「もう、根がいい人だからねー」
「おいってば」

ジョルジュはサリの肩を引き寄せる。
アクセサリーが揺れる。髪が揺れる。心も揺れる。
二度ひっこめられた涙が散る。

「…………」
「〜〜〜〜〜っっ。許可されなくても、勝手に泣くわよっっ!!」

そう言い放ち、サリはジョルジュの胸に顔を押し付ける。


「え!?」

女性に抱きつかれるのは初めてじゃないが、相手が相手なだけにうろたえてしまう。

「……泣くのには、誰かの胸が、必要でしょっ」

マントを握りしめ、顔を隠しながら言う。最後のほうはすでに言葉にならない。
ジョルジュは、サリの肩までの髪を眺めながら静かに背に手を回す。
長くゆったりとしたマントでサリ全部を守るように。

「……ごもっとも……」






ジョルジュの返事も待たず、サリは嗚咽をもらし
身体中の水分がなくなるんじゃないかというくらい泣き続けた。