恋の呪文はスキトキメキトキス

「真壁くんが選ばれてたら、その……、……の相手は、わたしを選んでくれた……?」
「…………」

まだこの話題は続くのか。そう言いたげな表情で彼はこちらを見た



髪型を問わず、「悪くない」。口の重い彼がくれるうちでも最大限の賛辞をもらったばかりだというのに、それ以上の言葉を求めてしまうのは、確かに、我ながらどうかと思う
そもそも、今回の文化祭で開催されたコンテストはミス・聖ポーリア=対象は女子のみで、男子は対象外
だから、こんな前提で話を進めようとすること自体がおかしな話なのだが

案の定、彼はそれをばっさり切り捨てようとする

「───おれが選ばれること自体、ありえないと思うけど」
「え──! そんなことないよっ。だって真壁くん、実はモテモテだしっ」

本人がそのことに興味がないにしろ、純粋にわかっていないにしろ、彼が学園中の女子の注目を浴びているという堅固なる事実は、往々にしてそこにある。行動を共にすることが多い分だけ、遠くから彼に向けられる熱い視線を感じることも多く、実際、ステージでのゆりえとのキス未遂のシーンに上げられた黄色い声は、大半が、彼そのものに向けられたものだった

「どっちにしても、見世物になるのもなられるのも御免だ」
「…………」

───デスヨネ。吐き捨てるようなその言い草に、妙に納得させられた

祝福のキスの相手として、自分を選んでくれる。そんな満額回答が得られないながらも、そもそも誰にも選ばれる資格がないということに安堵すべきなのか、なんだかよく分からなくなってきた
確かに、もし本当に「(仮称)ミスター・聖ポーリアコンテスト」なるものが開催されたとして、ステージ上でにこやかに表彰される彼の姿など、一ミリも想像できない。見世物という言葉のチョイスはどうかと思うが、本質はまさにそれ。ましてやキスだなんて。ふたりそろって仲良く好奇の眼差しにさらされることになり───



…………あれ?



「ねえ真壁くん、いま『なるのもなられるのも』って言った?」
「──────」
「……あ」

隣を歩く彼の顔は、覗き込む間もなく、すぐ目の前
二度めの不意打ちは、蘭世の頬をつまむのではなく、やさしく包んだ





まがりなりにも通学路のどまんなかでやらかしてしまうほど、飢えてもいないはずだったのだが、口に出す・出さないを問わず、あれだけキスキス連発してくるから、これはそういうことですか。たまにはご希望に沿うべく突撃してみたところ、どうもそんな単純なものでもなかったらしい。唇を解放すると、一瞬で赤く染まった頬を隠すように彼女は俊の胸に顔を押し付けてきた

「……こ、このタイミングでっ……。ずるい……」
「違ったのか」
「ち、違くない……けど……」

文字どおりの口封じで誤魔化したものの、彼女が気づいた「見世物」の意味合いは、彼女が想像しているであろうものとは少し異なる。行為そのものもさることながら、その直後、今まさにこの瞬間のような、恥じらいながらも妙に色めかしい姿を、なにが哀しくて学園中にご披露せねばならないのか。それに、それ以前の問題として



───コンテストやら何やらに関係なく、したくなったらそのときに、無理矢理にでもするんだよ



とは言わないかわりに彼は、蘭世の、長かろうが短かかろうが充分にいとおしい髪を静かになでた
いつぞやの、ミス・聖ポーリアから頂戴したアドバイスが、胸をよぎらないでもなかったけれど、これは多分、言わなくてもいいほうの部類なのだ。今はまだ