屋上への生徒の立ち入りを禁ずる。

二人の通う聖ポーリア学園の規則の一つ。
それもものともせず、蘭世は今、階段を急ぎ足で登っている。
夏から秋に季節が変わりつつある今の時期、昼食をとるのに
そこは絶好のスポットなのだった。


周りをうかがってから、重めの扉を開けると、
肘をついて横になっている俊がいた。

「あ。うふふ。真壁くん、ご飯だよー♪」
「……よお」

俊はむっくりと起き上がる。完全に寝ぼけ顔……
そういえば俊は三限目から既に教室に姿がなかった。
教室で堂々と寝るよりも、教師と自分、お互いの精神衛生上、
屋上の方がよほど建設的なことなのだが。

「そっか、もう昼か。サンクス。」

蘭世のさしだす弁当を受け取り大あくびをする俊。
ちょこんと隣に腰掛け、包みをほどき始める蘭世は、
毎日俊の弁当を作ってきていた。

「今日はお魚中心のメニューなんだ。スタミナも必要だけど、
たまにはカルシウムもとらなきゃね。いただきまーす。」
「……いただきます。」


相変わらずおいしそうなおかずがバランスよくきっちりと詰められている。
"魚中心"といいつつ、肉派の俊のためにさりげなく、牛蒡の肉巻きなど
ちょっと手の込んだ料理も詰めておいてくれる気配りが嬉しい。
それなりに好き嫌いはあるほうなのだが、弁当はいつも
全てたいらげてしまっていた。
気を使っているわけではなく、文句なしに、美味い。


将来、メシに困る事はないな。
……って、何考えてんだ俺は。


俊は無意識に浮かんでしまった自分の考えを散らそうと、
ご飯をむちゃくちゃにかっこんだ。で、案の定……
ごほっっ!げほげほげほ。

「やだっっ! 味つけ辛かったかな!? はい、お茶のんで!」

焦ってお茶をさしだす蘭世。

「うーん、かやくご飯、初挑戦だったんだけど、失敗かあ……」
「い、いやそんな事ねえよ。……ごほっっ。……美味いって。」
「だって真壁くん、むせってるし……」
「……自業自得。」
「? あ。真壁くんてば、ごはんついてるよー」

と、蘭世は俊の口元についていたご飯粒をつまみ、そのまま自分の口に運んだ。

「あ」

その動作があまりにも自然で、二の句がつげなくなってしまう。

「どうしたの?」
「……いや……」

またしても『将来』のワンシーンが頭をかすめ、
俊は少し赤くなった顔を隠しながら黙々と箸をすすめた。
ついに、夜の、オトナな夫婦生活まで思い浮かべてしまう。
思春期の妄想は妙にリアルで恐い。



「バイトは、お休みだよね? 今日は一緒に帰れる?」
「ああ」

食休み。蘭世は腹ごなしに屈伸運動などしながら俊に尋ねる。
俊は壁に背中を預け座ったままボーっとしていた。

「えっと……今日いったんうちによって欲しいの。
おいしい梨があるのね。ほんとはお昼のデザートのつもりだったんだけど……」

蘭世は俊の前に屈伸の姿勢でしゃがみ込み、俊をまっすぐ見て笑った。

「……忘れちゃったんだ。だから、真壁くんちに持っていって食べようかと思うんだけど……」

優しく風が吹き、蘭世の前髪を揺らす。シャンプーの香りが俊を包み込む。
雲はゆっくりと流れていく……

「いただくよ」
「うん。……きゃっっ」

俊は蘭世の肩を軽く押す。バランスを崩し、倒れそうになるところを抱き止め、
優しく口付ける。唇に、首筋に。
三つ編みにした蘭世の後れ毛が鼻先をくすぐる。

「今もいただくけどな」
「〜〜〜〜っっ」
蘭世は頬を林檎のように赤くしながらも、腰に回された腕の動きに従った。

午後は二人とも自主休講だったのはいうまでもない。
……ごちそうさま。