扉を開けるとそこは暗く人の気配がない。

「おじゃま、しまーす……」

蘭世は静かに扉を閉め、靴を脱ぐ。

今日は遅くなる。
大分前から鍵はもらっていたので、
こうして中には入れるのだけれど……。
実際、この部屋に一人でいるのは初めてのこと。

「……うーん、なんか、キンチョー」

テーブルの配置、中途半端に閉まった引き戸、
無造作に脱ぎ散らかしたスリッパ。
その一つ一つが、一人の時の彼を表していて……。

居づらい、というのではなくて、
包まれている、感覚。
そこにはいない彼の日常に。

崩したくないなあ……。
でも、一つだけ。

脱ぎっぱなしの、袖が片方裏返しになったセーターを
手にとる。
顔をうずめると俊の匂い。

「エヘヘ」

そのまま静かに蘭世は腰を降ろす。
……





鍵のぶつかる金属質な音とほぼ同時に扉が開く。

「悪い! 遅くなっ……て……。!?」

俊の、部屋に踏み込もうとした足が玄関で止まる。

「……なんでこんなとこに寝てんだ、こいつ」
セーターが窮屈そうに、蘭世のきつく組まれた腕の間から覗いている。