寝室のベッドの上で、親子二人向かい合ってにらみ合う。
子供の方は、そこに並んでいるピンクとブルーの二つの枕より
一回り小さい自分の枕をぎゅっと抱えている。色はグリーン。
「卓はいくつになった?」
「……いつつ……」
と、紅葉のような手を思いっきりひらいてみせる。
「……じゃあ、一人で寝れるだろう? もうおにいちゃんじゃないか」
「…………」
がちゃりと寝室のドアを開け蘭世が入ってくる。
「あら、卓、どうしたの?」
それに反応し、てけてけ走り卓が蘭世の脚にからみつく。うっ、先を越された。
「ママ───」
「あらあら。どうしたの? 卓」
「パパはもう大人だから一人で寝るって───」
こここ、このガキャ───!!
ぽい。猫をつかむようにうなじをつかんで外に放り出す。
「もう子供じゃないんだから、自分の部屋で寝なさい!!」
「やだ!! ぼく子供だもん。ママと寝るんだもん!!」
わ────────────ん!! ドアを両手でたたきながら
声の限りを尽くして泣きわめく卓。
「……ったく……あの甘えっぷりは誰に似たんだ」
罪もないのに攻撃されるドアを力いっぱい押さえながら俊がぼやく。
「…………(私、……かなあ?)。もう〜〜〜。まだまだ子供なんだから、
そんなにムキになって追い出さなくてもいいでしょ〜〜」
「…………。」
「きっと、寒いのよ。ひとりのお布団。ねー、卓」
「うわ───ん!! ママ───!!」
ドアを開けてやる蘭世の胸に飛び込む卓。
ぎゅううううう。微笑ましい親子の抱擁の図のはずなのに、もやもやする胸。
肩ごしにこちらを見る卓と目が合う。
……にやり。…………にやり!?
「お、おまえ、そんな笑い方どこで覚えてきた!!」
「うわ───ん、パパが怖いよ───!!」
ぽゆんと蘭世の胸に顔を隠す。だからそれは俺のだって……。
「ほらほらケンカしないでよぉ、みんなで寝よう。ね?
ベッドは広いんだから」
ひきはがそうとする俊の動きを一蹴。
くそっ。
…………くそっ。なんでこんなことになったんだ。
しぶしぶ三人で川の字になりベッドに転がる。
そりゃ、広いけどよ……。これくらいしかできねえじゃねえか……。
と、蘭世のネグリジェの合わせ目を分け入り、胸元に手を這わせる。
寝るとき余分な下着をつけない蘭世の胸に到達するのはとても簡単。
…………ん?
向こう側──卓側のそれに手を伸ばすと、ちいさな先客。
…………誰が大きくしたと思ってんだ。あとから出てきたくせに
我がもの顔で触るんじゃねえ!
卓の手を払いのけ、そこをゆうに2倍はある手でガード。
なんとか隙間に手をもぐりこませようとする卓の、顔を抑えて
自分の顔を蘭世の胸にうずめる。大人をなめんな。
じたばたじたばた。暴れる卓。お布団がもつれる。
「もうっっ! 片っぽずつ! 仲良くしなさいっっ! ていうか、寝るのっ!」
半ば呆れて蘭世は二人の手を左右の胸にぽすっとのせる。
「…………」
当然眠れるわけのない人が一人。
蘭世は、胸をさわさわされるのはいつものこと、とばかりに
静かに寝息を立てている。
「う〜〜〜ん。……卓……」
何で寝言で呼ぶのが俺じゃねえんだ。つーかなんでそっちに転がるんだよ。
まさかそっちのほうが気持ちよかったのか!? おいっっ
と、どきどきしながら覗き込む。
……ん? 敵は寝てるじゃねーか。よっしゃ!
俊は、寝顔だけは天使な自分の息子を、子供部屋へ瞬間移動させる。
(下線部:俊視点)
もちろん鍵もしっかりと。
「……おい」
「……ん……? あ、あなた、どうしたの?」
「ん、うん……」
ぽりぽりぽり、頭をかく。
「……あれ、卓は……?」
「あ、……ああ、あいつか? ちょっとごねたかっただけみてえだな。
さっき、自分の部屋に帰ってった。なんだかんだで成長してるぜ」
「……ふふ。そうね……。……やん」
ついさっきの攻防のときとは違って、遠慮なく吸い付く。
蘭世もその変化を無意識に、そして敏感に感じ取りぴくりと反応する。
「もう……さっきまでは大きな子供みたいだったのに……」
ネグリジェの長い裾をたくし上げ、まさぐる腕の動きを、
腰を上げてさりげなく助けながら微笑む蘭世。
その微笑みもすでに母親のものではなくて……。
「何言ってんだよ、教育だ、あれも。」
……父親のような台詞を吐きながら、すでに父親のものではない
唇の動きに身を任せる。
「は…………、ん」
右手で、さっき小さな手にいじられていた感触を忘れさせるかのように
胸を痛いくらいに揉みあげる。
左手は中心の突起の描く円をなぞり、そのまま降りていって腰を抱える。
体中にキス。たまに軽く吸う。石鹸の香りはみんな同じ香り。
邪魔な布団をかきわけて、最後の布を取り去り脚を広げ、
俊は舌を目的地へと向かわせる。
ちろちろと散歩して少しじらし指で開いてさらに奥へ。
シーツを握る指を眺めながら真の決行の瞬間を待つ。
好きとか愛してるとかそういう言葉は減ったけど
(というか昔からあまり言われたことないけど)
家族ができて、みんなで仲良く暮らして、私たち、幸せだね……。
泣き虫なのはまったく変わらない蘭世は、こっそりと涙をぬぐい
猛る俊を受け入れていく。
その上で俊は、三人が余裕で乗れてしまうベッドに危機感を感じ
買い替えの予算と日程を頭の片隅であれこれ考えていた。
目を覚ますと、隣にいるはずのママがくまさんのぬいぐるみに変わっていた。
「…………!!」
父親譲りの健脚で猛ダッシュ。向かうは、昨日確実に自分が寝ていたはずの部屋。
がちゃがちゃがちゃ。ドアノブは卓を拒絶して、ある程度以上動かない。
「…………」
ちょっとだけ悩んでみる。
……でも、二人とも寝てるみたいだからいいよね。えい!
ドアの鍵を魔力ではずす。
魔力は「ほんとうにだいじなとき」のためにとっておく───
そんな真壁家のお約束がちょっと気になったけど、
えてして子供の「だいじなとき」はこんなもの。
ドアを開けると、寄り添う頭が二つ。
「う〜〜〜〜〜〜!!」
朝だというのに涙がぼろぼろ。布団をひっぱってみても足を踏み鳴らしても
よっぽど疲れてるのか、いつもはすぐ構ってくれるママはすやすや寝ている。
しばらく泣いて。泣いて。泣き疲れて。
「………うっく。ひ……っく」
卓はぐちゃぐちゃの涙と鼻水を袖口でごしごしとぬぐう。
男は涙を見られちゃだめなんだもん。
ぐいっ。くっついてるパパの頭をおしのけて、真ん中に入り込む。
う〜〜〜。パパ、邪魔っっ! ぐいぐいぐい、ごろん。
大きなパパの肩を転がして押しのけ、無理やりすっぽりと間に入りこみ、
ママのおっぱいに頬をうずめる。えへへ。やわらかあい……。
「ん…………」
パパが再びこちらに転がって、腕をママの肩に回す。
駄目だもん。ママは大人になったら僕と「けっこん」するんだもん。
パパになんかママは渡さないもん。僕がママを守るんだもん。
ぎゅぎゅぎゅ。ママをしっかり抱きしめて、いいにおいを嗅ぎながら
卓も再び眠りに落ちていく……。