21時を回ってすぐの 江藤家まで続くこの道のりを、ふたりで何度歩いただろう
ぼんやりと思いながら
いつもどおり指を絡めて繋いだ手のひらの温度を確かめながら蘭世は
自分と歩幅を合わせて歩いてくれるそのひとの横顔を盗み見た
もうはなれられてはいられないのだと互いに確信しあったあの日から
明確な「約束」をしたわけじゃないけれど
俊がアルバイトの日は
終業時刻を見計らい、二人分のお弁当を抱え俊の家の近くで待ち合わせ
アルバイトがお休みの日は
校門を出て二つ目の曲がり角で待ち合わせ、買い物しつつ二人で夕飯をとり
20時50分には必ず俊の家を二人で出る
という日々をずっと続けている
二人でいるときには、特に何をするわけでもなく
他愛もない話をどちらともなくしているだけなのだけれど
それはとても満ち足りた時間であり
共に過ごすことで、ゆるぎない自信へと変わっていく
ゆっくりと、少しずつ……
「……どうした?」
その視線に気づき俊がこちらを覗き込む
「えっっ、あ、うん、何でもないんだけど」
ぷるぷるぷる、かぶりを振ってから
「もうちょっとで、家に着いちゃうな〜、って……思って……」
エヘヘ、と笑って誤魔化した
「…………」
「あしたも、会えるのにね。
そうだ、明日、なに食べたい??
今日が肉じゃがだったから……お魚メニューにしよっか」
「うん」
肯定とも否定とも判断し難い返事のあと
少しだけ沈黙の間を置いて俊が続けた
「少し、遠回りするか。……時間、大丈夫か?」
「え」
遠回りといってもそれは、いつもの道を一本越えて歩くだけなので
本当に少しの遠回りでしかないのだけれど
そんな少しの時間でも、いつもより長く居られることがとても嬉しくて
俊がさりげなくいつもより歩調を緩めたことにも気づかないまま
いつもの時間よりもちょっとだけ遅く江藤家の門の前に着いていた
「今日も、ありがとう」
「何が」
「何が、って……。今日も送ってもらっちゃったし、
……ちょっとだけ遠回りしてもらっちゃったし。
嬉しかったの」
「…………」
照れたように俊がごそごそとポケットの右手を探る
「エヘヘ。じゃ、おやすみなさい。
気をつけて帰ってね」
「…………」
「…………」
「…………」
「?」
きょろきょろきょろ
用心深くあたりの様子を伺った後、振ろうとした蘭世の手を止め
その手のひらにひとつ、なにかを置いた
「え。
…………え、え、え〜〜〜!!」
「バ……バカ、騒ぐなって」
瞬時に耳まで真っ赤になりながら、俊は蘭世の口を塞いだ
だ、だってこれって……
「もう少し経ったら、あの時間まで外で待ってるの
厳しくなるだろうし
俺も、ひとつだけだといつ失くすかわかんねえから
持っててくれると、結構助かるし……
と、とにかく! またあしたなっ!! おやすみ!!」
“え”の形で固まってしまった蘭世の顔をまともに見ることなく俊は
挨拶もそこそこに駆け出した
……合鍵、もらっちゃったぁ……
ようやく頭が働き出すその時まで蘭世は
俊の駆けて行った先をずっとずっと見送っていた