いつものように二人は
帰り道、夕飯の支度のためスーパーに寄っていた

「あ〜、おなかすいてきちゃったねっ
今日のお弁当、ちょっと少なめだったかなぁ」
「……まあ、今日の五限体育だったしな」
「あ、そっかぁ……そうだねぇ
そういえば今日はいつも以上に動き回っちゃったんだ
だって神谷さんてば、ず〜っとわたしのことばっかり
狙って来るんだもん」
「確かに……あれはすごかった」
「もう〜! 本人は笑い事じゃなかったのよぉ、ホントに」

種目はバレーボール
隣のコートで試合を行っていた男子も目を白黒させるほどの
女の戦いが繰り広げられていたのであった
ご多分にもれず俊もそれを眺めていたわけだが
今になっても他人事の笑いがこみ上げる

「まあ、次もあんな感じだろうな」
「そうよね〜、もう、やだなぁ……
って、そんな話はもういいの!
あ〜あ、今日のごはん、何にしようかなぁ」

きょろきょろきょろ、とあたりを見回す蘭世
スーパーに陳列された食材も、そろそろ秋の旬の色合い

「……あ、栗だ♪ 真壁くん、見て見て♪ おいしそう〜♪」

にっこり笑って俊を振り返る
手には、ディスプレイのいが栗

「……へえ、もうそんな時期か」
「うん♪ ……あ、「本日のお買い得品」だって
や〜ん、チラシにはそんなの載ってなかったよぉ」

「お買い得品」と銘打ってはあるが
そもそも安いのか高いのかすら俊には見当もつかない

「う〜んう〜ん、決定♪
今日は栗ごはんと、秋刀魚と、筑前煮にしましょう!どう?」

びしっ! こちらはチラシでチェック済みらしかった秋刀魚を
指差し、高らかに宣言

「……いいよ、それで」
「えへへ♪ 秋の味覚大会で〜す♪
あ、大根おろしお願いしちゃっていいかなぁ
そうそう、かぼすもキュッと絞って……
うわぁぁぁぁ、早く食べたいよぅ〜〜」

きゅるるる。こっそりお腹の虫が騒いだのはお互い内緒

「えっと……忘れ物、ないかなぁ」

買い物カゴには、栗、秋刀魚2尾、大根1/2カット、かぼす
ごぼう・れんこん・にんじん等、それなりの食材が
お行儀よく並べられている

「…………」

無言でくるりと振り返りスタスタ歩き出す俊

「え、あ、真壁くん??」

なぜか日用品のコーナーに向かう俊を追いかけ
足を速める蘭世
え、あれ、なんでこっちに行くんだろ
なんか、足りないものあったかなぁ?……洗剤……は、まだあったと思うし……
とか何とか思いながら追い続けると

「…………」

突然足を止め、すばやく俊は何かを買い物カゴに放り込んだ

「?」

買い物カゴを覗き込むと食材の中に一つだけ
ピンクの歯ブラシ

「……へ? あ、ちゃんと今日も持ってきてるよ、ホラ」

蘭世は鞄の中から携帯歯磨きセットを取り出し
カチャカチャと振ってみせる

「…………そういうことじゃねえだろ
他は何もねえか? レジ行くぞ」

やっぱりスタスタと早足で歩き出す俊
心なしか、顔が赤い

『そういうことじゃねえ』って……
…………
そっか、そういうことじゃないよね、確かに……

「あ、待ってよぉ、真壁くん♪ もうひとつ♪」
「え?」

ふと立ち止まった俊が持つ買い物カゴに
蘭世はポン、と何かを放り込む

「わたしがピンクだから
真壁くんはブルーでいいよね?」
「…………」

その日から
俊の部屋の洗面台のコップには歯ブラシが2本
仲良く寄り添うように立てられている