「ったく……痕になってやがった」
「え?」
寝室のドレッサーでブラッシングをしていた蘭世は
ひとりごちながら入ってきた俊の方を振り返った
「跡って?」
「……ああ、さっきの豆があたったとこ」
「ええ!?」
目を凝らして見てみると、小さな赤い斑点が
首元に二・三できあがっている
「んもう、卓ってば……力入れすぎよね……あとで叱っておくわ」
「……まあ、すぐ治せるからいいけど」
「うん…………」
指を添えて跡を治す姿を眺めながら蘭世は
夕方の攻防を思い返し、ひとり微笑む
「なんだよ」
「あ、ううん……さっき、すごかったなって」
「ああ…………」
そうなのだ
「鬼は外」と「福は内」
本来均等的な割合で上げられるであろうこの台詞は
今日に関しては、前者の方がものすごい比率で投げかけられ
豆はまさに「豆鉄砲」とでもいうべきなのか
弾丸のような勢いで次々と俊の全身を狙い撃ち
行事モノの「鬼」という立場にある以上
下手に反撃するような、縁起でもない真似をするのも何だかなあと思いながら
でも腑に落ちずに逃げ惑い
声も豆攻撃も止んで、祭は終わりかと思いきや
家中の扉や窓の鍵はしっかりと、物理的にだけでなく
ご丁寧に魔力を使って閉じられてしまっていたという始末
「でも、卓は卓なりに必死だったのよ
鬼からママを護るんだ! って」
「(…………趣旨が違ってねえか?)へえ…………」
そんな俊の複雑な心境にも気づかず、夢見がちな顔で蘭世は
俊の首元に指を添え、続ける
「卓の力も、いつのまにかこんなに強くなってたのねえ……」
「(…………論点が違ってねえか?)そうだな…………」
「うふふ、あなたも、今日はごくろうさまv」
「…………」
返事のかわりに俊は、その手をとり甲に軽く口づける
ボディシャンプーの残り香が、ふわりと香る
「あ、そうそう、豆といえば……
あなた、ちゃんと年の数だけ食べた?」
「え? ああ、食った食った」
と、俊の申告した数は実年齢より少なくて
蘭世は腕を振りながら、ちょっとだけ声を高める
「ええ〜〜〜、駄目よう〜〜! あれって、年の数だけ食べて
その年の無病息災をお願いするものなのよ〜〜」
「ふうん…………」
幼稚園児の子供を持つ親だというのに
そんな拗ねたような仕草も、やっぱりかわいらしく映る
「まってて! リビングに豆置いてあるから
すぐ持ってくる!」
「いいって」
手から離れ、寝室を飛び出そうとした蘭世の肩を
俊はやさしく引き寄せる
「え、だって……」
「いいんだって。……食いたいものは他にあるんだから」
「え〜〜〜〜……
って、なにやってるのぅ!?」
蘭世が、不得要領な面持ちで自分を見上げるのをよそに
俊はそのパジャマのボタンを次々と外していく
「なにって…………今食いたいものを食おうかと…………」
「ひゃんっっ」
露わになった肌に唇を寄せ、軽く吸う
その反応を確かめて、俊は軽々とその体を抱き上げベッドへと運ぶ
「や……っもう……食べたいものって……」
「あ、いや、『もの』じゃねえけど」
「〜〜〜〜〜!!」
漏れる吐息と甘い声を聞きながら俊は
自分につけられた跡とは比べ物にならないほどの量の痕を
蘭世の体に一晩中落としていく
その過程で
そういえば、豆っぽいのは三つあるな
…………などと
オヤジくさい発想をしてしまったことは、誰も知らない