「そちら、今年の夏の新作コーナーなんですよ〜。可愛いでしょう?」
「……え、あ……はあ」



売り物が売り物なだけに女性客が多い中で
よほど自分が浮いていたということなのか
あまりに場慣れしていない雰囲気がにじみ出ていたということなのか
唐突に、親しげに話し掛けてきた店員に身構えながら、曖昧に答える

その曖昧な返事を好感触と受け取ったのか
ニコニコと営業スマイルを保ちながら店員は
その目線の先にあった品物を、頼みもしないのに
ショウケースから取り出して次から次へと並べ始めた

「どうぞお手にとってご覧になってください♪
どれも、すっごく人気の品ばかりなんですよ〜」
「……はあ」

どれも、正直同じ品に見えた、なんて
口が裂けても言えない雰囲気だなと思いながらも
さらりと視線を巡らせる
成程、確かに、ショウケースの中で当てられている
オレンジがかった光から逃してみると
石が本来もっている輝きが、より見て取れて




その中の、ひとつに




「…………」
「……ああ、それですか?
他の品と比べちゃうと、ちょっとお値段は高め…かな、って感じですけど
その分、モノはいいんですv 一点ものなんですよ〜」

思わず止めてしまった視線を、店員は目ざとく気づき
説明モードに突入する
『控えめに入れられたカットのおかげで光が細かく分散して綺麗に輝く』とか
『ふんだんに石が使われているのに、ごてごてした印象にならず
むしろすっきりして見える』とか
『ひとつひとつの石の持つ色合いが濃すぎず薄すぎず
微妙なグラデーションを保って上品に映える』とか
そんな具体的な販売トークは右から左へと通り抜け
ただ俊の頭に浮かぶのは
それを身につけ少し恥ずかしそうに微笑む蘭世の姿だけで
目に映るのは
オススメの数々の品のうち、ただひとつだけ

「贈り物……ですよね、あたりまえか
お誕生日か何かですよね? 時期的に」
「はあ、七月末……」

何の抵抗もなくするりと応えてしまった自分に、思わず俊は赤面する

「あ〜……そうなんですか〜。
彼女さん、幸せですね〜。今からプレゼントを探し歩いてくれてるなんて」
「そんなもん、ですかね……」
「ええ! だって、この品を見ているお客様の顔、
それまでと打って変わって、とってもやさしい顔でしたもの!」
「……え」
「……あ! ごめんなさい!!」

店員は、しまったという風に、ぺろりと舌を出す

「正直、お客様に話し掛けるの、怖かったんです…
すごい、むすっとした顔でショウケース眺めてらっしゃるから」
「……はあ……」

一度もらしてしまった以上、どう繕ってもしかたないと開き直ったのか
営業スマイルではなく少しだけ素の笑顔で店員は笑う
(それでも“怖い”とか“むすっとした顔”てのはどうかと思うが)

「どうですか? それだけお客様がお気に召したのなら
きっと、これをいただいた彼女さんもすごく喜ぶと思うんですよね!」











その日からバイトの上がり時間を少し遅めにしたことは蘭世にも秘密

その分、授業中の居眠りが増えたのを見て
何も知らずにくすくす笑いながらも
特に問いただすわけでもなく注意めいたことを言うでもなく
いつもどおり、多すぎず少なすぎずのおかずと
口に含んだ瞬間にふうわりとほぐれる絶妙な握り具合のおにぎりを
郵便受けに届けてくれていた蘭世を
今日は、顔から火の出る思いで
バイト上がりの時間に合わせ、部屋へと招く言葉を告げて
掌にすっぽりおさまった小箱のリボンを崩さないよう
細心の注意を払いながら、俊は今、家路を急ぐ

「………」

我ながら柄にもないことをしているなと思う
けれどあの時するりと口をついて出たのは
駄目元のこんな申し出で

「……これ、七月末までとっておいてもらえませんか?」
「え?」
「いや、あの……持ち合わせが、なくて」
「ああ! そうでしたか〜!」

どうやらもう営業スマイルには戻れないらしい笑顔を満面に浮かべながら
店員は大きく頷く

「全然構いませんよ〜! お客様のように、
心から気に入ってお買い上げいただけるのなら
きっとこの子にとっても、すごく幸せでしょうしね!」










何を選べば喜ぶのかなんて
女心とかいうものを理解できない自分には到底判らない
尋ねたところで、何もいらないと応えるに決まってる
おこがましい考えだが、実際、何を贈ったとしてもきっと
それなりに喜ぶであろうということも判ってる

けれど

「おめでとう」よりもむしろ
「ありがとう」と伝えたいくらいのこんな日に
相手のためだけを想って何かを選びそれを贈り
極上の笑顔を見ることができたなら
それはきっと何よりも幸せなことだ








やっぱり柄にもなく、心なしか緩む頬を押さえながら俊は
きっと笑顔で迎えてくれるであろう相手の待つ部屋のドアを開ける