転がった小瓶や食べ終えたケーキの箱など、いらないものを片付けて
二つ並べるにはちょっぴり狭い部屋に合わせ、きっちりと端を揃えて布団を敷いて
嘘ではなく今度は本当に、ほろ酔い気分の二人は
順番にお風呂にも入り、おそろいのパジャマも身につけて、あとは寝るだけ
決してふかふかとは言いがたいお布団にぺたんと座って続けていた他愛もない話も尽きてきて
そろそろ電気を落とそうかという頃、ふと、思い出したかのように俊は
今日の帰路、ずっと大事に抱えてきたそれを
無言で、にゅっと、蘭世の目の前に突き出す

「……え」
「『え』って……。やるよ」
「え、え、え、えええええ!?」

小綺麗にリボンがかかっているとはいえ
それが、自分の誕生日とはつながらずにいた蘭世は、途端に素っ頓狂な声を上げる

「声、でかいって」
「え、あ、ごめ……。あの、これって、もしかして」
「……ホントは、今日、おまえのこと送って、その別れ際に渡すつもりでいたんだけど」
「ぐっ」

瞬時に赤くなる頬。素直すぎる反応が面白すぎる
離れたくなかったのは同じのくせに、本心を隠す術だけは長けてしまっている自分に
胸のうちでぺろっと舌を出したのは内緒

「えへへ……ありがとう……! 開けてみて、いいかなあ?」
「どうぞ」
「わーい♪ な〜にかなっっ」

いそいそとリボンを解いて、別に何かに使えそうというわけでもないのに、几帳面に結び
慎重にテープを剥がして、やっぱり他に用途はなさそうなのに、包装紙を丁寧に畳んで……
中身が無事ならいい、とばかりにバリバリ剥いてしまう自分とは違うなと
半ば感心しながら眺める俊をよそに
ゆっくりと、噛み締めるように包装を解く

ぱくり、と蓋を開けて
一瞬の間のあと、ため息混じりに蘭世は
目をキラキラさせながら感嘆の声を漏らす

「……きれ───―い……」

子供のように、率直な感想に
選んだ身としては、嬉しいような、こそばゆいような
緩み始めた頬の筋肉をなんとか持ちこたえながら俊は
いつもの調子で、ぼそりと返す

「………安物だぞ」
「んもう、お値段は関係ないの〜。こういうのは、気持ちなの〜!
真壁くんが私のために買ってくれたってことが、すごく嬉しくて…
……あ、でも」

と、膝の上に畳んだ包装紙と中身とを見やる

「ここって……アンティークっぽい小物ばかり扱ってる、
駅前の、裏路地にあるお店でしょう?
どれも、すごく素敵だけど、ちょっぴりお高くて……あ」

包装を見ただけで出元を見破るのは、流石女の子というべきか
けれどもその鋭さは、同時に余計なことまでをも読み取って
小箱と、俊の顔を交互に見ながら恐る恐る蘭世は問い掛ける

「……も、もしかして、最近遅くまでバイト入れてたのって……」
「う………」
「う、そ…。どうしよ…っっ。ごめ……、でも、すごい、嬉し……」

ぱたぱたぱた
転がり落ちる涙の粒は
箱の中でおとなしくお披露目を待つ石たちにも似て

「……泣くほどのことかよ。バーカ」
「……だ、って……嬉し……ありが……と………」

ようやくそこまで言い切って
俊が放って寄越した箱からティッシュを引き抜き、目元を拭う
真っ赤に潤んだ瞳のまま、頑張って微笑もうとするその姿が
なんだかおかしくて

「……鼻水出てる」
「え! うそ、やだっっ」
「嘘。……指、出せ」
「もう〜〜〜〜〜…あ、えと、…お願いしマス」

……『しマス』って……。と、苦笑しながら俊は、小箱に据えられた指輪を摘み上げ
おずおずと差し出された白い手を取る
当然、番号なんて把握しているわけもないから
見た目で判断、いざとなったら能力でなんとかするつもりでいたサイズも結果オーライ
まるで、この指のためにあつらえたかのように、すんなりとおさまる

軽く指を広げ腕を伸ばし目を細めて、蘭世は、光を放つ一点を見つめる
パパラチアサファイア───優しくあたたかく輝くオーロラレッドと
その傍らに、控えめに鎮座するクリスタルの輝きが混ざり合い
微妙な色合いの光を作り出していて
「陶酔」そんな表現がぴったりな表情で眺めていた蘭世の肩が
ぷるぷると、震えはじめて

「う……」
「……まだ泣くか!」
「だ……だって、嬉しいんだ、もん……!」
「たく……」

いくら何でもここまで喜んでくれるとは
そう、思いかけて、止める
何となく、予想はついていたことだから
そして予想していたにも関わらず、実際にそれを見て
やっぱり嬉しくなっている自分がいるのだから

───とはいえ

「今からこんなんで、次は大丈夫なのかね……」
「え」
「───あ」

思わず口をついて出た自分の言葉の深意に、俊は赤面する
ぼろぼろ零れ落ちていた涙も止まり、きょとんとした顔で自分を見つめる蘭世を目の前に
俊の頬はますます赤くなる

「ま、真壁く……。『次』って……?」
「〜〜〜〜〜〜っっ」
「……え……っと、あの………」
「そ、それくらい、自分で考えろ! おやすみっ」
「ひゃんっっ」

わざと乱暴に掛け布団を蘭世の頭から掛けて、俊は自分の布団へと滑り込む


『次』───その時に、果たして自分はまともにキメの言葉を口にできるのか
そんな懸念に俊が思い当たるのは、もうしばらく後のこと