籠の中の鳥が籠の中で在り続けるかどうかを決めるのは
他でもない、鳥そのものなのだと
とてもシンプルな言葉で教えてくれたのは、あなた

恋に恋していたあの頃のわたしだから
あなたに惹かれたきっかけも、ほんの些細なこと
けれどあの日から、あなたの言葉のひとつひとつが私の心をおかしいくらいに翻弄して







「───ふう」

豊かに波打つ髪に丹念に櫛を入れ、鏡の中の自分を眺めながら
ココはひとりため息をつく

耳に掛かる髪をひと房指に絡み、ぱっと放す
何かの標本にでも使えそうなほど健康的な状態であることを示すかのように
それはふわりと広がり艶やかな光を放ち、重力に従って静かに元の位置へと戻る

「ショートカットより長い髪が好き、ってね……」

覚えてる? あの日の約束
あの日からずっと伸ばしつづけた私の髪は、あの頃以上に伸びたのよ







朝も昼も夜もあなたのことを考える
扉を開ければ 池に飛び込めば、あなたに会える そう判っているのに
その一歩をふみだすことが、できない
会えば会ったで、素直になれないから───そんなのは、嘘

約束が約束であるのだと思っているのは自分だけなのではないか
そんな不安が現実となるかもしれないことを恐れているだけ

なにひとつ不自由のないかわりに、なにひとつ変化もない自分をおいて
日々刻々と変わっていくあなたの中で、自分という存在はすでに過去のものなのかもしれない
その真偽を確かめるのが怖いだけ

籠の中の鳥では在り続けたくないと思った鳥はいつしか
籠の中に在り続ける方が無駄に傷つくこともないのだということを知り







再びため息をついてココは
鏡の横に置かれたバランスボールに手をやり、ひとつつまんで、放す

「…………」

カコン カコン 軽快な金属音とともに揺れる銀の振り子
ひとつが衝突するとそのひとつはその場に留まるのに
ぶつかった方はするりと揺れてその場を逃れて
戻ってきたかと思えば今度はもう一方がその場を揺れて離れて

やっと追いついてくれた 
そう思った矢先にすぐまた広がる五つの差
つかず離れずのわたしたちの距離みたいね

「………」

このままじゃいけないということも、頭では判ってる
変えようとしなければ、なにも変わらないということも
動かなければ、なにも得られないということも

もし得たものが最悪の結末だとしたらそれを割り切ることができるかどうかは判らないけれど

椅子から腰を上げ、鏡の前で優雅にお辞儀をして、無理矢理微笑んでみる
こうすると、なんだか元気が出るような気がして
自分を奮い立たせるときの、小さい頃からの儀式

「───わたし、行っちゃうわよ、卓」







目指すべきは、ただひとつ